【団塊ジュニア、フリーペーパーで捕まえて】
銀座を歩いていたら、リクルートのスタッフが新しいフリーペーパーを配布しているのに出くわした。また、クーポンどっさりのホットペッパーを配っているのかなと思ったら「R25」という新しいフリーマガジンだった。フリーペーパー流行りの昨今だが、広告情報だけで構成されたホットペッパーなどと異なり、「R25」は格闘家の高山善廣のインタビュー特集を組むなど、なかなか頑張った内容。媒体企画書を取り寄せて見ると、25~30才代のヤングビジネスマン(いわゆるM1、団塊ジュニア世代)をターゲットにリクルートと某大手広告代理店が共同開発したメディアであることがわかった。「R25」はこれまでリクルートとは縁の薄かった自動車、IT、飲料メーカーなど大手ナショナル広告主を取り込むことを大きな狙いとしている。3月にテスト発行を重ね、7月から定期刊行化、最終的には100万部をめざすという。
リクルートという企業は、まず自らやってみるということを信条にしており、広告ビジネスの世界でも既存のルールに縛られず、独自の路線を歩んできた。広告代理店などに頼らず、自らの足で広告(=情報)を集めることで、他の媒体社には真似のできないビジネスモデルをつくり上げている。
そして、リクルートが今回、標的にしたのが「団塊ジュニア層」である。
いうまでもなく、この層は消費リーダーとして巨大なボリュームとポテンシャルを持っているために、世のマーケッターにとってはその攻略が大きな課題になっている。自動車、家電、ハウスメーカー、マンションディベロッパーなどが次々とこの団塊ジュニアをターゲットにすることを表明している。
こうした広告主側の動きに呼応して、この層を狙った媒体開発が色々なメディアカンパニーよって手がけられてきたが、なかなか成功した例しが無い。そもそも、この世代は新聞や雑誌はもとよりマンガさえ読まなくなっている。それなら、無料のフリーマガジンを大量配布することで一気にこのマーケットをカバーし席巻してしまおうというのが「R25」の基本戦略だ。フリーペーパのホットペッパーを200億円を超える商品に育て上げたリクルートだからこそ描ける、かなり強引なマーケティング戦略ともいえる。
しかし、結論からいえばこうした手法では団塊ジュニアのマーケットを攻略することはできないだろう。
団塊ジュニア層とはその親にあたる団塊世代と根本的に違う消費構造を持っているからだ。このことを指摘したのは、世代マーケティングの専門家であるカルチャースタディーズの三浦展氏だ。
生まれた時から豊かな時代に育った団塊ジュニア層においては、親の団塊世代と異なり、リニアな上昇志向に裏打ちされた同質的な消費行動プログラムが最初から存在しない。代わって、ループを描くような「まったりとした時間」や「個別性・オタク性」が消費行動の基本構造を形成している。同質性が無く個別性・オタク性が高いというと、そもそも世代マーケティング的発想が無効になるとか、流行というものがありえなくなるのではという指摘が出くる。確かに、そこには隣がテレビを買ったから、うちも買うというような因果の鎖は存在しない。現代の流行現象は、モデル化していえば、複雑系の構造を持っており、共時性(シンクロシニティ)に支配されている。
例えば、ルーズソックスは最初、渋谷の女子高生の一部ではじまったファッションであることが確認されている。メディアにも紹介されたが、それですぐに流行したわけではなかった。しばらくして次に流行したのが水戸の女子高生の間で、その後は一気に同時発生的に首都圏全体に拡大したという。
その際、メディアはどのような役割を果たしたのだろうか?かつての団塊世代は、若者だった頃、平凡パンチがファッションバイブルでそこから競ってアイビールックを学んだが、ルーズソックスを流行らせた女子高生にとってメディアとの関係はもっと淡泊だ。マスメディアはきっかけこそ提供したかもしれないが、実際の消費行動を拡大させたのは、携帯電話などでネットワークされたクチコミだった。マスメディアは、既に流行を先導する立場から引きずり降ろされてしまったことを、もっと謙虚になって受けとめるべきなのだ。
話を「R25」に戻そう。
ここでの議論もそうかも知れないが、マスコミや代理店などメディア側に近い人々は「マーケット攻略」という視点でものを考え、メッセージを押しつけがちだ。団塊ジュニア層を動かすのは、もはやマスメディアやそこで垂れ流される大量の広告メッセージではない。全く別の戦略が組まれるべきなのだ。
ここで目をアメリカ版の団塊ジュニアといってもいい「GenerationY」に目を向けてみよう。反抗の世代とも呼ばれたベビーブーマー世代(GenerationX)の子供の世代として、生まれた時からデジタル機器の恩恵を受けて育ったGenerationYは、驚くくらい日本の団塊ジュニアと類似性を持っている。
GenerationYについては、JaM Japan Marketing の大柴ひさみさんのレポートが大変参考になる。
ここで大柴さんが引用しつつ指摘しているポイントは以下の2点だ。
1.From Push to Pull(押し付けから引き出す手法へ):
幼児期からあらゆる広告やマーケティングの洗礼を受けているGen Yは、史上最も広告に対して洗練された意見を持つ世代。そのため旧来の押し付けがましい広告戦略に懐疑的で、製品の質が良く、自らが参加してその意見を反映させることができる「草の根型」の広告キャンペーンを好む傾向がある。
2."Company vs. Consumer" to "People to People"(「企業vs. 消費者」から「人々から人々へ」):
Gen Yは、従来のマーケティングの典型的な視点「企業と消費者が対峙する」という考え方から、「人から人へという同一線上でつながる関係論」を好む。ブランディングの中でGen Yをパートナーとして見つめて、彼らの意見・経験を取り入れて、一緒にブランドを作っていくという姿勢を持つ企業が成功している。
マーケッターは、彼らのクチコミネットワーク・情報コミュニティに押しつけではなく関与していく仕組みやメッセージングのありかたをまず考えるべきなのだ。イラク戦争の米軍のように「R25」を紙爆弾のようにあちこちで大量にばらまいたとしても、標的である団塊ジュニアたちの心(マインドシェア)は獲得できないだろう。団塊ジュニア市場の「攻略」のために先ず必要なのはマーケティングのパラダイムシフトなのである。
(カトラー)
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
カトラーさん
「イノベーション実現へのインフラ」にコメント頂き大変ありがとうございました。カトラーさんからコメント頂いた通り、リクルート出身やコンサルタント上がりの方々は以前から非常に積極的に起業されて活躍されていることが多いですよね。その次に続く技術系の方々や大企業出身の起業家が裾野を広くして行くようになると良いのですが。
カトラーさんのblogを私のblogのブックマークリストに登録させて頂きました。今後も楽しみにしております。
投稿: manutd04 | 2004.07.25 01:54