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【クイール写真展と秋元良平さんのこと】

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<クイール写真展> 2004年3月9日(火)~14日(日) 半蔵門 JCIIクラブ 25

 この週末から全国で映画「クイール」がロードショーされる。
この映画の原作本「盲導犬クイールの一生」(文藝春秋社刊)は出版不況の中にあって80万部の大ベストセラーとなったことは誰もが知るところだ。
その公開に先立って、半蔵門のJCIIクラブで、この本の原作者で写真家の秋元良平さんの写真展「クイールのまなざし」が開催されている。原作本で紹介された写真に加えて未公開の作品も展示されるなど、世のクイールファンにはたまらない内容だと思うが、その初日に訪れてみると写真展の会場は意外にもひっそりとしている。人ゴミが駄目な性質なので個人的には助かったが、どうしてこんなにひっそりしているのかと怪訝な思いがした。

聞けば、この写真展のことはほとんど宣伝などしていなという。てっきり映画の公開と連動したプロモーションミックスの一環として開催されるのかなと想像していたのだが、映画宣伝のホームページやクイールの原作本の公式サイトなどもチェックしてみると写真展のことは一言も触れられていない。

秋元さんとは「盲導犬クイールの一生」が大ヒットして、有名になる以前から仕事上のつながりも含めて親交があるのだが、ひっそりとした写真展の会場で「秋元さんらしい筋の通し方だな」と思った。

秋元良平という写真家は、自然や動物をずっと撮り続けているのだが、その手法と作品にたいするポリシーには独特のものがある。惚れ込んだ一つの対象物を何年にもわたって撮り続けるというのが彼の唯一のスタイルだ。もちろんクイールに関してもそのスタイルは変わらなかった。一匹の盲導犬が生まれ落ちた所から亡くなるまでの12年間に付き合い、その姿を撮り続け、それが結果として作品に結実した。

私が秋元さんと仕事の上で関係したのは都市再開発関連の雑誌のPRパンフレットを制作した際のことで、本郷三丁目にある樹齢400年をこえる大楠を1年間にわたって撮ってもらった。楠は常緑樹であり、年間を通じて素人目にはほとんど姿が変わらない。その変化を追ってほしいという注文はかなり難題だろうと思ったが、出来上がった作品は、見事に楠の四季の表情を伝えていた。

「自分は自分のやりかたでやっていただけ。時代がたまたまマッチした」というのが、秋元さんのクイールのヒットに関する謙遜も含めた解説だ。

発表する場や経済的な見返りを期待せず、何年間も惚れ込んだものを撮り続けるという彼の仕事ぶりは、確かに「今の世からすればバカ」(秋元氏)のようなやり方だ。
実はクイールを題材に、一度、写真集が出版されている。「盲導犬になったクイール」という写真集だが、出版された当初はお世辞にも売れたとはいえなかった。ところが、この写真に惚れ込んだライター、石黒謙吾さんというパートナーを得て、その文章との組み合わせによって、「盲導犬クイールの一生」という新しい書籍に生まれかわり、大ヒットにつながったわけだ。

書籍が売れ、次にテレビが取り上げ、映画化され、多くの日本人がその物語に涙する。クイールは、子供から大人まで知らない者がいないという日本で最も有名な盲導犬になるだろう。盲導犬というものの存在をメジャーにしたという意味においてもこの作品が果たした社会的な貢献は計り知れない。もしこれが予め計画され、仕掛けられていたものだとしたら、最も成功したコンテンツ&メディアミックスプロモーションのケーススタディーとして称賛されたかも知れない。私ことカトラーとしてもここぞとばかりに小賢しいコメントを加えただろうが、残念ながらそんな小賢しさが入り込むことができない所からこの作品は出発している。

そう、全ては、一匹の子犬と無名のカメラマンとの出会い・・・ただその一瞬から始まったのだ。秋元さんは愚直なまでにその子犬の成長に向き合い、自分の撮った写真が持つ価値を信じ続けた。あえて教訓的なことを引き出すとすれば、成功の要因は彼が決して諦めなかったことだ・・・・というと彼ははにかんでこう言い返すだろう。
「それは違う、諦めさせなかったのはクイールの力です」と。

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いつしか誰もいなくなった写真展の会場でクイールの優しいまなざしと向き合いながら私は気がついた。

この写真展は、秋元さんの写真のファンやましてやプロモーションミックスのために開かれたのではない、
クイールのために開かれたのだ。

華やかな映画やメディアの世界でひとり歩きを始めた「クイール」ではなく、秋元さんが奇跡のように出会った、あの時の小さなクイールと再び向き合うために。

(カトラー)

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Comments

ああ、写真展は今日までですね。興味があったのに見にいけなくて残念です。(T_T)
写真「クイールのまなざし」を見ると、16年前に病気で亡くなった、わが愛犬の表情にあまりも似ているので、昨日のように思い出します。

Posted by: Tsutomu | 2004.03.14 at 11:42 PM

こんばんは。写真展のこと全く知りませんでした。
そのかわりクイールの映画は早速見に行ってきました。
クイール役のわんこたちの優しい目が印象的でした。
映画は盛況のようで、私が見に行ったときも全ての回が満席でした。
カトラーさんのおっしゃるように、この映画を見た方々が介助犬についていろいろと考えるきっかけになるとうれしいですね。

Posted by: alph_t | 2004.03.19 at 09:16 PM

alph_tさん

8月には、銀座松屋を皮切りにクイールの写真展が全国巡回するそうです。200点ほど出品されるそうなので楽しみですね。

Posted by: katoler | 2004.03.20 at 12:54 AM

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