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【ビッグイシュー日本版とソーシャルエンタープライズの可能性】

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数寄屋橋の交差点を渡ろうとしたら、昨年あたりからblog上でも話題になっていた「ビッグイシュー日本版」をホームレスのオッチャンたちがドラ声をはりあげて販売しているのに遭遇.。さっそく一冊(200円)買い求めたら、ゾロゾロ5人くらいのオッチャンが寄ってきて、ぐるりと取り囲まれ、次々とお礼をいわれ面食らった。

日本初のストリート・マガジンと銘打たれたこの雑誌をホームレスの人々が販売すると、1冊あたり200円のうち110円が彼らの手に残り、自立支援に役立つという仕組みだ。1991年にロンドンからスタートしたビジネスだが、全世界に広がり、年間発行部数は現在2600万部に及ぶという。
読んでみて内容が予想以上にしっかりとしていることに驚いた。カトラーが買った第6号は表紙とインタビューには英国の女性人気シンガー、ダイド・アームストロングが登場し、他方でフォトジャーナリストの広河隆一さんのイラクの現在についてのインタビューなど硬派記事が並ぶ。“怒れる若者”の声を代弁するヒップホップカルチャーと世界が直面する問題の提起をスマートに融合させていこうという編集意図は、他のメディアにない特色になっている。このビッグイシューの創設者のジョン・バード氏の基本理念は「ホームレスに経済的支援ではなく仕事を」というもの。当然、この雑誌の発行は慈善事業としてではなく、出版ビジネスとして構想されている。

日本版を創刊したのは、もともとホームレス問題の研究会を主宰していた水越洋子さんを中心としたグループだが、ホームレスのオッチャンたちを集めた説明会でのやりとりが興味深い。

販売員を募集し、説明会を開いた。その席上、「こんな本が売れるのか!」と怒鳴り、詰め寄ってきた人がいた。「それはわかりません」と答えるしかなかった。「ただ、私たちも借金というリスクを負いながらやっている。雇う・雇われるという関係ではなく、ビジネスパートナーとしてともに利益をあげていきたいと考えています」。

販売員(ホームレス)は自分の生き死にがかかっている。ビッグイシューの出版側も必死だ。とにかく雑誌が売れなくては全てが始まらない。そうした緊張感がこの雑誌を支えている。福祉や慈善活動も大切だが、ある面で甘えが許されるそうしたコミュニティの中からはこういう雑誌は生まれてこなかっただろう。ビッグイシュー日本版の発行元がNPOではなく、有限会社であることも出版ビジネスとしての立ち位置にこだわる姿勢を物語っている。

ホームレスを支援するためにビッグイシューを買ってもらうのではなく、雑誌として面白いから売れていく・・・
この差がそのまま福祉・慈善事業とソーシャルエンタープライズ(アントレプレナー)のビジネスとの違いになるだろう。そこで何より重要になるのが、マーケティングだ。

マーケティング的観点でこの雑誌の改善点を指摘したい。

●読者ターゲットは“怒れる若者”に
ひきこもり、フリーターなど社会に対して疎外感を持つ若者がかつてないほど増加している。ビッグイシュー日本版はそうした彼らの怒りを代弁するメディアになりうるポテンシャルを持っているが、現在の誌面は、ホームレスの自立支援のための雑誌という側面が内容構成やパブリシティーの面でも強調されすぎていると思う。“怒れる若者”たちとは、このblogでも何度か取り上げてきた団塊ジュニア世代の別の顔であり、孤立化した彼らの疎外感をきちんと方向づける(=マーケティング)ことができれば大きなパワーになるだろう。疎外感を方向づけるとは、具体的にいえば、ひとりで悩みもしくはムカついている彼らが抱える問題の多くは共有でき、そうした問題は、実は今の世界のあり方自体に問題発生の構造があるのだということを示すことである。そうすることで、かつてマルクスがプロレタリアート(下層労働者階級)の疎外感を革命に転化させたように、“怒れる若者”たちの疎外感を適切に社会化することができる。
●メッセージはクールに
プロレタリアートを連帯させたのは「貧困」だったが、“怒れる若者”たちをつないでいくのは「クール」なこと「カッコイイ」こと。例えば、4号で矢井田瞳が登場しているが、彼女がかつて「ひきこもり」であったことを公表していることは、「クール」と受け止められている。日本のタレントもどんどん登用し、矢井田瞳のようなカミングアウトをこのメディアでしてもらうという作戦もありうるだろう。タレントになっているような人たちは摂食障害など何かしらの問題を抱えています。
また、ホームレスの人々の自立支援のために彼らを販売員にすることは否定しないが、フリータやひきこもりの人たちなど若者も販売員に加えるべきだと考える。彼らの友人やクチコミネットワークで本を売ってもらうのだ。ビッグイシュー日本版は、日本の若者メディアの中で最も「クール」な情報の発信媒体になってほしい。
●Blogの活用
ホームページを拝見すると「スタッフ日記」というコーナーがあるが、これはblogで展開すべき。blogをやってみればビッグイシューがblog上で大きな話題になっていることが理解できるだろう。また、blogを通じたメッセージが読者の輪を広げることに効率的に作用するはず。


ビッグイシュー日本版を手に入れて、数寄屋橋の交差点を渡ったら、ソニービルで小学館の新雑誌「PRECIOUS」のキャンペーンコーナーが設置されいた。ブランド品情報満載のラグジュアリー雑誌で創刊キャンペーンには相当力が入っている。表紙はkoyuki、彼女がビッグイシューに登場したらどんなことを話すだろう、そんなことを想像した。

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コメント

こんにちは、TBありがとうございました。
おとといまでニューヨークに行っていたのですが、地下鉄でストリートペーパー売ってるホームレスらしき人を何人か見かけました。早く日本でも販売員の方たちが町並みに馴染んでくるといいですね。
とゆーかNYは地下鉄でストリートやってたり果ては電車内でブレイクダンスし出す子どもなんかいて、勝手気ままだなーと思いました笑

投稿: yuringo | 2004.03.18 17:37

はじめまして、TBありがとうございました。
かなり前に書いた記事なので、TBしていただいたことに気づかずすみませんでした。

あれから毎月ビッグイシューは買うようにしています。
昨日も7号を買いました。
「残念ながら」と言うべきでしょうか、最近の世界情勢を反映してか、前号あたりから記事内容はかなり硬いものが増えてきました。
今後少しでも記事内容がおだやかになるような社会になればいいなと思います。
編集姿勢には共感できるものがありますので、可能な限り買い続けようと思っています。

投稿: SYUNJI | 2004.04.04 17:48

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