マーケティングセンス無き民営化を排す

＜問題の東京メトロ　Ｍｅｔｒｏ Spot Vision＞

営団地下鉄の民営化関連して西岡郁夫さんがＮＩＫＫＥＩ ＮＥＴのコラムで溜池山王駅の東京メトロのトイレについて取り上げているのが面白い。

東京の営団地下鉄が４月１日から「東京メトロ」（東京地下鉄株式会社）として新たなスタートを切った。それに合わせて、「お客様センター」の設立をはじめとした、新しいサービスをいろいろと開始されたらしいので期待したい。
　が、先日、そのメトロの溜池山王の駅で、思わず吹き出してしまうほど悪趣味のＩＴサービスを見てしまった。何かの参考にと思ってあえてご紹介する。

　南北線を下車して13番出口に向かう長いながい通路にトイレがある。そこにたまたま入った。もちろん男性用のトイレのことである。小便器が７、８台ほど並んでいるのだが、その便器の上に液晶の表示端末が設置してある。Metro Spot Visionと銘打たれているので、やはりメトロと改称されてからの新サービスだろうか。ディスプレイの画面には大きく「週刊アスキー」とあり、「最新パソコン情報のダウンロード」を「する」、「しない」というスイッチが表示されており、「する」ところを指で押すと「最新パソコン情報」がダウンロードされて読めるタッチパネル装置になっている。

実は、このトイレをカトラーも利用して、「トンデモネエ」と感じたことがある。と同時に、ニヤついた広告代理店がクライアントに「面白い交通広告メディアができまして」と説明している図が頭に浮かび腹が立った。これも「民営化」の恩恵と説明するのかもしれないが、明らかに民営化の頽廃化現象のひとつといってもよいだろう。

木村剛氏が指摘しているように「誰のための、何のための民営化か？」ということがなおざりにされ、民営化自体が自己目的化するとこうしたバカなことをやる輩が出てくる。
「小便器の上部スペースを収益化するMetro Spot Vision設置計画」とかなんとか表題をつけた稟議書が東京メトロ（旧営団地下鉄）のお偉いさんの間を回っていく情景を想像すると世も末だとつくづく思う。さしずめ民営化に向けて点数稼ぎをしたい小役人が思いついた話にバカな取り巻き連中のオヤジどもが乗っかったのだろう。広告を出す方の神経も疑われる。週刊アスキーの宣伝が流れていたけれど、この雑誌を見るたびに駅のトイレの臭いが鼻腔に甦る！
東京メトロとしては、こんなことを考える前にやることはたくさんあるはずだ。

公共サービス空間に民営化の視点や手法を持ち込む場合には、何よりも「センス」が求められる。東京メトロのトイレは最悪のケースになるだろうが、このブログでも取り上げた日比谷公園の「思い出ベンチ」などは最近のヒットだ。

駅や公園は人々のドラマや歴史、思いが交錯し、積み重なっている特異な都市空間だ。その国の文化性を示す顔になる場所でもある。民営化の努力とはそうしたソフト資産に気づき、その価値を最大化することに向けられるべきだ。
東京メトロの今後に期待したい。

（カトラー）