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ブログな人々あるいは菜摘ひかる

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風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険知恵の森文庫

ココログユーザーの方ならご存知だが、最近、検索ワードランキングというサービスが始まり、どのような検索ワードから自分のブログに人々が来ているかということがわかるようになった。それを見ていて不思議なことに気がついた。私がアップした日々の記事に使われているマーケティング関連のワードがランキングに登場するのは当然のこととして、そうしたワードに混じって「菜摘ひかる」というキーワードが、ほぼ毎日現れててくるのだ。

「菜摘ひかる」というワードでカトラーのブログがひっかかるのは、「katolerのおすすめブック」というコーナーでこの作家の「風俗嬢菜摘ひかるの性的冒険」という著書をチョロッと紹介しているからなのだが、毎日、どこかで「菜摘ひかる」という作家の情報を求めて検索エンジンにキーワードを打ち込んでいる方がいるのだなあと感慨を持った。

菜摘ひかるは、一昨年、29才で急逝した女性作家である。maeさんのブログに経歴が紹介されている。

(菜摘ひかる 経歴)

東京郊外にある典型的な住宅地で4人家族の長女として育った彼女は、地元の新設高校に進学する。在学中は得意なマンガを描いたりして目立たない高校生活を送る。卒業寸前の3年の冬、知り合いの女性漫画家の家に転がり込み、そこから高校に通いながら同居人に勧められるまま風俗雑誌のモデルをする。高校卒業後はその部屋を出て、ファミレスのバイトを経て、歌舞伎町のキャバクラに勤め始める。

キャバクラに勤めながらも「こんな生活をしていてはダメだ」と思い、転職してサラ金会社やアパレル会社の正社員も経験する。しかしまた風俗の世界に戻り、イメクラ、ソープなどに勤め、ストリップ、アダルトビデオにも出演する。1996年22歳の時、撮影のため新宿の街中で全裸になり、公然わいせつ罪で拘留される経験をする。

その間彼女は、風俗雑誌などでコラムやマンガなどを執筆。1996年頃、人に勧められてインターネットにて日記を公開。またたく間に評判になり、単行本化される。その後風俗を辞め、執筆活動に専念。しかし2002年に入ってから体の不調を訴えるようになり、医師の検査や診察を受けてもはっきりとした診断を得ることはなく、不眠や頭痛、立ちくらみといった不定愁訴が多くなる。それでも精力的に執筆活動を続けるが、2002年11月4日、体調が急変し、この世を去る。

今であればブログから生まれた作家ということでさらに話題になったかも知れない。ぜひ実際の作品を読んでいただきたいが、以下のような文章に彼女の原風景が表れている。

 公園で遊ぶ子供の姿はなく、ベンチに見慣れない老人が座っているだけだった。見事な顎髭をたくわえた白髪のその老人は、傘を持ちランドセルを背負った私の姿に目を留めると、すぐににっこりと笑い手招きをして私をベンチの隣に座らせた。そして脈絡もなにもなく、突然こんな質問をした。

「君は、自分がどこから生まれてきたのか知っているかな」

 私は答えられなかった。答えを知らなかったからだ。老人は黙っている私のスカートをまくり上げ、パンツのゴムを引き下げるように浮かせて中をのぞき込み、それから恐ろしいほど真剣な顔で言った。

「お母さんのおまんこから生まれてきたんだ。だから君は、おまんこなんだよ」

(・・・中略)そしてそのあと私は何度もその公園を通ったけれど、彼に会うことは、二度となかった。

「君はおまんこなんだよ」

 大人になった私は思う。あの人は予言者などではなく、きっといわゆる変質者だったのだろうが、彼の言っていたことは、まったく間違いではなかった。彼は正しい。私は確かに女性器から生まれてきた女で、いまだって女性器そのものとして生きている。
 彼に言われた通りだ。私はおまんこ。そしてこれからも、そうあり続けたいと心から願っているのだ。

この文章をブログに載せるのに女性器を表現している言葉を伏せ字にしようかと考えたが、それは彼女の文章に対する冒涜だと思いやめた。

彼女は数々の風俗の職場を遍歴し、そこでの経験や観察がもとになって作品が結実していったわけだが、彼女の仕事や客に対する姿勢は限りなくまじめで真摯とさえいえる。「体は売っても心までは売らない」という娼婦もいるが、菜摘ひかるの場合は、彼女のガラスのような心まで粉々にしてサービスする。客ばかりでなく入店を審査するイメクラの店長にさえ、その痛ましいくらいの真摯さは変わることがない。世のぐうたらサラリーマンのおやじどもや天下りを繰り返すことしか眼中にない役人どもは、菜摘ひかるの本を読んで「お仕事やサービス」とは何なのかよくよく学ぶべきなのだ。
彼女自身そうした性風俗に絡め取られるように生きる自分を「依存症」的と分析し、依存症の女の子をテーマにした本も書いている。
依存症とは、しばしば誤解されがちだが、依存しているものが与えられれば満ち足りてしまうのではない。依存物を与えられることで、むしろその渇望感はさらに深まる。だからその依存には際限が無くなるのだ。
例えば、菜摘ひかるを「SEX依存症」ということはできる。でも、考えて見ればこのカトラーだって、このブログを読んでいるあなただってきっと何かの「依存症」だ(たぶんブログ依存症!であることは確実)。

菜摘ひかるは「風俗嬢」だった。Yahoo!オークションで、何者かが名前を騙って、「出張サービスします」と「菜摘ひかる」がオークションに出されたことがある。でも、考えてみればお金と代償に自分自身を商品として売りに出すことは誰だってやっている。ファミレスでアルバイトすることとキャバクラで稼ぐことに本質的な差はあるだろうか?パンツを売ったり、オヤジと一緒にカラオケに行って金をもらい、でも売春しているわけじゃないと言い張る女子高生。こうしたことのどこまでがOKでどこからがNOなのかということには、人それぞれの線引きがあるだけで、絶対的な基準なんてありはしない。本当はこの世で生きるということは、あなたの何かを売りつづけることでしかないのだ。その証拠に人類の最初の職業は売春婦だった。

あとはお客様を喜ばすプロの仕事ができるかどうか問題・・・菜摘ひかるだったらそんな風に言うかも知れない。

菜摘ひかるが亡くなってから一周年にあたる昨年の11月にかけて「菜摘ひかるの掲示板」というコーナーに色々な人々が書き込みをしている。この掲示板を読みながら、ふと菜摘ひかるが出会ったという公園の老人のことを思い出した。

その白髪の老人が私たちの前に現れたら、再び予言者のようにこう言うに違いない。

「君は菜摘ひかるなんだよ」

(カトラー)

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コメント

こんにちわ&はじめまして。^_^;;;

菜摘ひかるさんの本、きっと読みます。^^
この本の表紙にある女の子はきっと菜摘ひかるさんなんでしょうね。このまなざしをみるだけで、本当に何かを語らずにはおれない気持ちになります。
カトラーさんも私もとらえられたその“何か”こそが彼女の魅力というか才能だったのでしょうね。
このBlogが広がりつつある今に彼女がいないのは、本当に残念なことです。

コメント&トラックバック返しありがとうございました。

投稿: Tinkle | 2004.04.18 15:59

こんにちわ☆
菜摘ひかるさんが亡くなってしまったこと
本を読めば読むほど信じられない思いです。

本当は彼女自身の心の奥に
色々なモノがあったのかもしれないけれど、
菜摘さんの「私は○○だ」と言ってのけちゃうトコロ、
「私は私だ」と感じらえるトコロが沢山あって、
そういう菜摘さんの本に私自身が励まされてます。

トラックバック、コメントありがとうございました☆

投稿: キラソソ | 2004.04.19 12:26

こんにちわ。なつみさんを探してさまよっていました。
彼女の本を読んでHPがある事を知って探していたら亡くなった事も知ってどうしようもない気持ちになってしまいました。彼女の事をもっと知りたくてもっと触れたくてもう居ない彼女のことを書きたくて彼女について話したくてここに書き込みさせて頂きました。なつみさんの本との出合いは衝撃的で一生忘れる事もないし忘れたくもなく人としての表と裏なんて私と似すぎてて「あ~もぉっ!なんでもっと早くなつみさんと出会えなかったんだろう」と後悔してばかりいます。
さまよいながらカトラーさんのHPにお邪魔しました。
ありがとうございました。

投稿: きょん | 2004.06.01 10:20

私は辛くなった時いつもひかるさんの本を開きます。その中にはさまざまな主人公の女たちが大切なこと、忘れてはいけない事を自分の身を削ってもがきながら私に教えてくれるから。ひかるさんは主人公にひどく感情移入してしまいどっちが自分かわからなくなる時がある。と書いていました。作品の物語、全てがひかるさんの叫びに聞こえてどうしょうもなく切ないです。ひかるさん、どうしていなくなっちゃたの。ほんとにほんとにさみしいよ、私はいつまでもひかるさんが大好きです。

投稿: はーにゃん | 2004.12.14 08:07

カトラーさん、はじめまして。
hikaruといいます。
トラックバックさせていただきました。
私は、本は開いたことがありません。
あの「日記」の頃のひかるさんが、
いまだ、胸に残っているだけです。。

投稿: hikaru | 2004.12.15 04:11

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