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セキュリティ意識の究極は「他力本願」

昨年、パリを旅行した際に知人の女性が私の目の前でひったくりにあってしまった。

訪問した某有名化粧品メーカの正門を出て、クルマに向かって歩き出したとき、突然エンジン音が響き、オートバイに乗った2人組が、女性のそばを走り抜けたかと思うと、彼女が持っていたバックをひったくり、そのまま走り去った。日本人を対象としたこうしたひったくり事件が頻発していると事前に聞いていたので、かなり注意はしていたのだが、一瞬のスキにつけ込まれた。幸いとその女性に大きな怪我はなく、盗られたものも代替えがきくものであったので大事には至らなかった。日本男子として一緒にいた女性をひったくりから守れなかったことは全くもって恥ずかしいと落ち込んでいると、現地のガイドが、こうした連中に狙われたら防ぐことは難しく、なによりも重要なのは狙われないようにすることだといって慰めてくれた。

日本人は、セキュリティ対策を「安全」の確保のために考える。そこでは、「安全」というものがどこかにあらかじめ存在していて、それを何らかしらの手段を講じることで確保できるという考えが前提になっている。しかし、ひったくり事件で私が経験したように、海外で遭遇するのは、そもそも「安全」が存在しない状況だ。安全かどうかはつねに「蓋然性」の問題でしかなく、100%安全などという状況はありえない。そうした中では、自分の力だけで安全を守ること(自力本願)は不可能であり、状況をコントロールできないことを受け入れなくてはならない。こうした場合、最後は何が起こるかわからないので仏さまのお導きに従いますというある種の開き直り、「他力本願」的な意識を持つしかない。究極のセキュリティ意識とは実は「他力本願」にあるのだというのが私の考えである。

日本でも安全が当たり前のものではなくなったことの帰結として、セキュリティの完備を売り物にしたマンションやゲートシティと呼ばれる分譲コミュニティなどが登場し、好調な販売成績を上げているという。「週刊!木村剛」でも安全を他人任せにする時代は終わり、さまざまなセキュリティ・ビジネスが花盛りであると紹介されている。こうしたものの中でも究極は「パニックルーム」だろう。
ミサワホームが茶室仕様のパニックルームを売り出したところ、富裕層を中心に引き合いが殺到しているという。しかし、こうした自力でセキュリティを守るという自力本願の発想を突き詰めていくとどうなるか?パニックルームは可愛いほうで、最終的には「核シェルター」に閉じこもり、自分だけは生き残るという歪んだ自意識にたどり着いてしまうだろう。
むしろ必要なのは自力で安全を確保することの不可能を知り、パニックルームや核シェルターから外に出て、人々と連帯することではないか。
もちろんこの場合の「他力本願」とは、安全の問題を他人まかせにするということではない。自力の無力さ認識した上で、他人とも連帯する道を選ぶということだ。

コミュニティの崩壊が最大の問題

少し前まで、田舎に行けば、寝る時も出かける時も玄関に鍵をかけなくても何の心配も無かった日本だが、そうした牧歌的な風景は崩れ去ろうとしている。
日本の安全が風前の灯火になっているのには、さまざまな要因が複雑に絡んでいるが、はっきりと断言できるのは、残念ながら、こうした時代の流れを逆戻りさせることは不可能に近いということだ。なかでも最大の問題は、地域コミュニティが崩壊していることだと考えている。核家族化が進み、マンションが乱立し、郊外には見知らぬ人同士が暮らす「ニュータウン」が造成された。コミュニティの崩壊が、今に始まったことでは無いとすれば、安全の崩壊も戦後の経済成長に伴って進行し、現在、社会問題として一気に吹き出しているととらえるべきだろう。隣がどんな暮らしをしているかも知らない、よそ者同士が暮らしているような町・・・そうした町には、泥棒や変質者が侵入するセキュリティホールが至るところに存在する。 <この項続く>

(カトラー)

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