日本の玄関はどうなっている?
安全が崩壊しているのは、住宅ばかりではない。日本の玄関口、「港湾」の安全をめぐって事態が大きく動き始めている。
テロリストが新潟に潜伏していた理由
5月、ドイツで逮捕されたアルカイダのメンバーと見られるフランス人、リオネル・デュモン容疑者が、02~03年にかけて新潟市内に潜伏していたことがわかり、大きな衝撃が走った。
アルカイダのメンバーが4回入国 新潟市内に潜伏(asahi.comより)
ミュンヘンで逮捕されたのは、アルジェリア系フランス人のリオネル・デュモン容疑者(33)。フランス国内にあるアルカイダと関係があるとみられるイスラム過激派組織「ルーベ団」メンバーで、96~97年にフランスとボスニア・ヘルツェゴビナで2人を殺害した事件などで国際手配されていた。・・・(中略)・・・デュモン容疑者は02年7~9月と10~12月、03年の3~5月と7~9月の計4回、偽造パスポートで入国。計9カ月間、新潟市内のパキスタン人男性名義のマンションなどに住んでいた。新潟東港を拠点に、パキスタン人業者とロシアや北朝鮮向けに中古車などを輸出していたという。
逮捕されたデュモン容疑者の潜伏先が、東京や大阪ではなくて、新潟市内であったことが重要である。一般メディアでは「公安関係者は『資金の調達やマネーロンダリングのために来ていた可能性もある』と指摘している」と報道されているが、テロ物資が新潟港を通じて日本に持ち込まれたのではないか、少なくともそれにデュモン容疑者が関与していたのは確実というのが、セキュリティ分野の専門家の大方の見方である。
当然、中古車など物資の輸出入に関与した業者が軒なみ調べられているが、持ち込まれたかも知れないテロ物資の行方を探るのが大きな目的である。報道する側もいたずらに不安を煽ってもいけないという配慮から、テロ物資のことはあえて触れていないのだろうが、テロの危険は、文字通り水際まで迫っている。
港湾は、日本の玄関のアキレス腱である。新潟港は、北朝鮮による拉致の舞台になっただけでなく、テロ物資の持ち込みルートになったとすれば、大きな問題だろう。新潟港ばかりではない。日本は四方を海で囲まれているわけだから、その気になれば、テロリストは何だって持ち込むことが可能だ。
SOLAS条約改正の波紋
こうした状況を受けて、港湾のテロ対策が本格的に動き始めている。9・11のアメリカ同時多発テロ事件を契機に、海上のテロ対策にも目が向けられ、海運、船舶の安全性を確保する目的で制定れた国際的な条約、SOLAS条約が改正されて、各国の港湾における輸出入物資の管理と監視を大幅に強化することが決められた。改正SOLAS条約は、来年の7月から発効することになっており、この条約を批准した各国は、その発効期限までに港湾の安全管理体制を国際基準に基づいて整備しなくてはならない。
具体的には、港湾の積み出し口などをゲートで囲い、出入りする人間をチェックする。監視カメラなども設置され、積み出される荷物の内容チェックもこれまで以上に厳しくなるだろう。空港で手荷物の中味をレントゲンを透過させてチェックする検査機はお馴染みだが、それを化け物にしたような、コンテナごと中味をチェックできる検査設備も登場している。
この条約に基づいて、港湾設備や輸出入の作業プロセスの見直しをしない場合は、輸出先の国から荷受けを拒否されることもあるというから、かなり厳しいものである。ここまでしなければ、港湾をテロの脅威から守ることはできなくなってしまった。
清水港、横浜港のHPなどを見れば、整備計画が具体的に動き始めたことがわかる。
横浜港の整備には約25億円の予算が計上されており、今年から来年にかけて、改正SOLAS条約関連の港湾整備に400億円をこえる予算が動く予定だという。セキュリティー設備メーカーやマリコン(港湾専門の建設会社)にとっては、タナボタの仕事といえるだろう。
思わぬ問題も起きている。
こうした整備の結果、自由に行き来ができた埠頭へのアクセスが厳しく制限されることになり、釣り人から反発が起きている。
今回の条約改正によって従来よりも高いフェンス、ゲート、監視カメラ、センサー、照明施設などの設置、保安員(警備員)の配置が義務付けられます。陸側だけではなく、海側からの侵入対策も行われます。プレジャーボートでの接近も規制されますので、ボートフィッシングの際も注意してください。・・・中略・・・取材に応じてくれた港湾管理組合では、貿易立国である日本にとって国の根幹にも関わる問題であり、法律による規制なのでお目こぼしや黙認は一切しないと断言しています。 条約の発効に合わせて法律改正も行われます。従来は港湾施設を持つ企業や管理組合による立ち入り規制でしたが、これからは法律による規制となります。
これまでも、立ち入り禁止規制は港の周りに存在したが、釣り人やスキューバダイバーなどは、黙認されてきた。しかし、法律で規制されるということは、逮捕・連行されることを意味する。
どの港でも休日ともなれば、埠頭で親子で海釣りを楽しむ姿を目にすることができた。そんな牧歌的な風景が、これからは失われてしまうのだろうか。
余談:逮捕されたデュモン容疑者は、大ヒットした映画「タイタニック」で主演した、デカプリオにも似たハンサムボーイ。ソマリアで人道支援活動に加わったのがイスラムに帰依し、テロリストになる転機になったようだ。
「とてもテロリストとは思えないやさしい男」というのが周りの声だったという。こうした青年がなぜテロリストになったのか?それはそれで興味がわく。
(カトラー)
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