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世田谷区の苦悩、団塊世代を活かす道

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<ユニークなデザインのアムステルダムの老人向けハウジングコンプレックスOklahoma >

生まれてこのかた、下町と呼ばれる地域にへばりついて生きてきたので、「山の手」のことはあまり良く知らない。
けれど、あるフォーラムで世田谷区の行政担当者と話す機会があり、彼らが今、大きな悩みを抱えていることを知った。

世田谷区の人口は、80万人ほどで23区の中でも最も大きな区となるが、その内の13%が65歳以上で占められており、さらにあと数年すると約10万人にのぼる団塊世代がリタイアの時期を迎え、続々とコミュニティに戻ってくることになるという。
区民の数そのものは少子化の影響でむしろ減り気味なのだが、これまで昼間は会社に行っていて地域には居なかった団塊層(特に男性)が、これからは地域にとどまることで、コミュニティの昼間人口が一気に増大することになる。こうした事態はどこの行政組織も経験していないことである。団塊世代の男性は地域にネットワークを持っておらず、一般に「濡れ落ち葉」などと揶揄されているわけだが、このまま放置すれば、世田谷区全体が「濡れ落ち葉」に埋め尽くされたジャングルになってしまうとその行政担当者は危惧していたのだ。

10万人の団塊世代が地域に戻ってくる!

「週刊!木村剛」で団塊世代を中心としたアクティブシニア層のポテンシャルを活かせるかどうかが、日本経済の今後の成長さえも左右する可能性があると指摘されている。指摘されている内容はその通りだが、問題は企業社会からリタイアした団塊世代のポテンシャルをどのような場で活かすかということだ。確かに木村氏が紹介している関沢英彦氏の「4トラ」(トラベル、ドライブ、ドラマ、トライ)がポイントという議論もわからないではないが、こんなキャッチフレーズだけでは世田谷区の悩める行政マンの心は癒されないだろう。以前のエントリ記事で私は、団塊世代は「団塊」の看板を下ろして「ひとり」で生きていく道、「ひとりビジネス」を目指すべきではないかと主張した。元気な団塊世代は、単に消費の担い手となり、広告屋やマーケティング屋たちの草刈り場になるのではなく、McDMaster さんも指摘するようにプロシューマーとしてのありかたを志向すべきだろう。何らかしらの形で生産活動に関わってくれなければ、日本経済ももたないし、多くの団塊世代は、残念ながらリタイア後の人生を旅行・趣味三昧で暮らせるほど恵まれていない。そして、彼らのポテンシャルを発現させていくにもっともふさわしい場は、「コミュニティ(地域)」であることは間違い無い。

でも、ただでさえ「濡れ落ち葉」と呼ばれている人々に一体地域で何をやってもらうというのか?問題は、この記事の冒頭で紹介した行政マンの悩みに再び戻ることになる。

下町に長年住んでいるカトラーとしては、こうした危惧は最初奇異に感じられた。縁台将棋を楽しんだり、祭りや町内会を仕切って睨みをきかせている・・・下町では老人の存在感や居場所は伝統的なコミュニティの中でいまだに健在である。
しかし、世田谷の団塊世代が抱えている問題とは、人間関係のネットワークを「会社」の中に置き去りにしてきてしまったということだろう。「会社人間」が「世田谷人」になれるかどうかが問題の核心である。

世田谷区も手をこまねいているわけではない。コミュニティ活動を活性化させることを目的に「いい・こみゅにてぃ世田谷」というプロジェクトをスタートさせている。HPを立ち上げて、区内のボランティア活動などコミュニティ活動に関する情報を紹介し、コミュニティ意識を活性化させていこうという取り組みだ。こうした地道な活動はたいへん重要だが、合わせて考えるべきは世田谷自体のブランディングの展開だと思う。

オランダ・アムステルダムの取り組み

世田谷区とほぼ同じ人口規模を持つヨーロッパの都市がある。オランダのアムステルダムだ。オランダ自体の人口は1500万人程度で、国土面積は九州とほぼ同じ。アムステルダムの人口は72万人で世田谷区の80万人に少し欠けるくらいだから、首都にしてはかなり小さな都市だ。この世田谷と同じ規模の街、アムステルダムは「COOL CAPITAL」(カッコイイ首都)というブランドを創出し、世界に対してキャンペーンを展開している。
アムステルダムというと年配の方なら「飾り窓の女」を念頭に浮かべるなど、ヨーロッパでも有名な売春地域があることで知られ、現在でも大麻の保有が認められるなど、サブカルチャーへの理解やとりわけ道徳意識おけるオープンさについては、日本から見ても驚いてしまうことが結構ある。そしてオランダが直面しているのも「高齢化問題」だ。この先進国共通の問題に対してオランダやアムステルダムが日本に比べて格別うまくやれているわけではないのだが、環境共生を訴え「トラム(路面電車)」や自転車を交通手段として優遇したり、斬新な老人ホームコンプレックス(写真)を建設して、その取り組みが世界中の注目を集めている。こうした取り組みの成果もあって、オランダは日本の1/10程度の規模しかないにも関わらず、日本の倍にあたる約1000万人の外国人旅行者を世界中から集めている。このアムステルダムのケースを逆に考えれば、世田谷区は、団塊世代の「世田谷人」としての活用を進めれば、世界に類例のない元気な高齢化社会のモデルを創れる可能性をもっている。日本のアクティブシニアにとって最も魅力的な地域が「世田谷」ということになれば、世界中のアクティブシニアを引きつけることだって夢ではない。

世田谷区の行政スタッフは問題意識も高く、とても優秀で「Setagaya21」という大変意欲的な地域ヴィジョンを作り上げている。この中で、地域の力を高め、コミュニティづくりを推進することが行政の仕事であることがはっきりと提言されている。(相変わらずのハコモノ行政に終始しているカトラーの住んでいる足立区とはえらい違いだ!)
ここで提言されている考え方のポイントは、区民・事業者・行政が対等なパートナーシップによる協働・連帯の仕組みづくりをめざすという「新しい公共」の考え方である。この協働・連帯のネットワークの中で、団塊世代の潜在力を活かすことができるかどうかに世田谷の未来、高齢化社会の日本の未来がかかっているといっても過言ではない。

(カトラー)


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コメント

katolerさん、トラックバックありがとうございました。
「コミュニティづくりを推進することが行政の仕事であることがはっきりと提言されている」というのはその通りだと思います。団塊の世代をどうコミュニティづくりに参画できるようにしていくかも大切な視点だと思います。
アマチュアのスポーツ・クラブでも、全体を運営する人材が不足しており、うまく招聘すれば、現役世代の活動を支える役割を果たすこともできるでしょう。
ほんとうは、もっとビジネスの世界でも、人材活用の道がいくらでもあるのですが、現在の年金の支給制度(在職老齢年金)では、労働意欲がなくなり、それが障害になってきそうです。ほんとうに罪深い年金制度だと思います。

投稿: | 2004.07.13 03:52

さきほど、名前を書くのを忘れていました。スミマセン。

投稿: 大西宏 | 2004.07.13 03:53

大西さん、コメントありがとうございます。
共同通信のblogでのLivedoor騒ぎについて、大西さんのblogを読んで知りました。このブログには、以前、長崎の事件に関してトラックバックをしたことがあります。その際には、小池という編集長の長崎事件の加害者の少女に対する見方は、バランスがとれていると思いましたが、堀江氏に対するコメントはいただけませんね。「どうしちゃったの?」という感じで大西さんの指摘の通りです。

投稿: katoler | 2004.07.19 17:48

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