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2010年、映像メディア・ビジネス 未来への旅(2)

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ユビキタス(ubiquitous)という言葉の語源はラテン語で、「神は同時に、いたるところに存在する」という意味だという。パソコンの基礎技術をはじめ数々の革新的なテクノロジーを開発したゼロックス社のパロアル研究所が、90年代の初頭に、この言葉を用いて「ユビキタス・コンピューティング」という概念を提唱した。

原丈人氏は、これに対してPCU(Pervasive Ubiquitous Communication platform)というコンセプトを打ち出している。Pervasive(浸みわたった)・computingあるいはUbiquitous(ユビキタス)・computingという言葉は、ITの世界でも一般的になりつつあるが、原氏がイメージしているのは、コンピュータやPCによって構成される世界ではない。ひとことでいえばコンピュータを越えた地平に構想できるコミュニケーション・プラットホームとなる新技術である。

ユビキタスといえば、坂村健氏TRON(トロン)技術を思い浮かべるが、TRONとの関係や距離感はどのようになるのだろうか。この点について原氏は明確に「TRONはコンピュータの技術であって、PUCはそれを越えたところで構想されている」と答えた。TRONは、コンピュータのOSテクノロジーとして極めて先進的な優れた技術である。Linuxの登場に先立つこと10年、80年代からオープンソースという考え方を唱え、コンピュータ技術としても、テクノロジー思想・哲学としても圧倒的に先進的であったといえるだろう。日米間の通商問題としてスケープゴートにされることがなければ、Windowsに代わって、世界のPCのデファクトOSになっていた可能性もある。その先進性ゆえ、マイクロソフトや米国政府は、TRONを恐れ、憎悪したのだ。残念ながら、TRONはパソコンのOSテクノロジーとしては、葬り去られてしまったが、携帯電話やデジタル家電のOSとして生き延び、ポスト・パソコンの時代に再び甦った。現在では数あるユビキタステクノロジーの中でも最右翼と位置づけられるまでに復活しており、ユビキタス社会の中におけるデファクトとなるべく、T-engineフォーラムを組織するなど活発な活動を展開している。

TRONの先の世界を構想するPUC

 しかし、原氏が見据えているのは、さらにその先の世界である。TRON技術に対しては敬意をはらいつつも、「TRONが普及することは、世界をコンピュータ(計算機)だらけにすることになる」と断言する。コンピュータやPCは、そもそもが計算機であり、本来がコミュニケーションのツールではない。それゆえ、人はコンピュータに自分を無理に合わせるようになるのであって、その逆は原理的にありえないーというのが原氏の基本的な考え方である。

彼が構想するPUC技術に基づく、ユビキタス社会では、人の感覚や感性にフィットしたスマートな情報空間が形成されるという。人の感覚、感性にフィットするということは、IT(情報技術)とArt(芸術)が限りなく接近する世界といっても良いだろう。電話、テレビ、家電製品などデジタル化されたデバイスの全てが共通のコミュニケーション・プラットホームにより連携することで、ストレスなく情報がやりとりされ、映像、音声、テキストなどの様々なタイプの情報が統合的に処理される・・・確かに、そうした「ユビキタス社会」であれば、コンピュータ音痴の私の妻なども、恩恵を享受することが可能になるだろう。しかし、そんなファンタジーのような世界を実現するテクノロジーが、この世界のどこかに現に存在しているというのだろうか?

「そのテクノロジーを探し出し、投資するのが私の仕事です」と原氏は自信を見せる。

原氏は、学生時代、考古学者になることを志し、中央アメリカなどでマヤ文明の発掘などに夢中になっていたという。シリコンバレーに渡り、スタンフォード大学のビジネススクールに入ったのは、事業を興し、考古学研究と発掘のための資金を稼ぐことが目的で、そのための手段だったというから驚かされる。実際にその後、29歳で光ファイバーを用いた大型ディスプレイを開発し、ディズニーへの売り込みに成功する。そして、その会社の売却によって得た資金をもとにベンチャーキャピタルを始めたのだ。

「世の中にまだ知られていない価値あるモノを世界中から探し出してくるという意味では、考古学もベンチャーキャピタルも同じ仕事かもしれませんね」といって、少年のように笑ってみせた。

考古学者にとって、最も必要な資質は何かといえば、それは「強運」である。フォーラムを主宰した原氏の話を聞きながら、運命の女神が、仮にどこかに存在していて、誰かに微笑むというのであれば、それは原氏のような、自分の思いや確信に対して少年のように純粋になれる人物に対してなのだろうと感じた。この人は、子供の頃から実在を信じ続けていたトロイの遺跡を遂には発見したシュリーマンのように、ひょっとするとメディアや通信の世界を根底から変える新しいユビキタス技術を、本当に「発掘」してしまうかも知れない。

2010年、通信・メディア世界のコアとなる次世代テクノロジーが、「発掘」されれば、ユビキタスという新たな神が、この世界に降臨することになるだろう。

(カトラー)

追伸

「週刊!木村剛」で木村剛氏が、拙文を「Words of the Blogger」に選んでくれた。
これまでトラックバックした記事の中からマスコミ論に類する文章を編み上げ、「カトラーのマスコミ原論」というタイトルまでつけていただいた。「週刊!木村剛」のような、大きなパワーと求心力のあるブログが存在しなかったら、オピニオン性が強く、冗長ともいえるような内容の、私のような無名ブログにスポットライトが当たるようなことは無かっただろう。また、かめはめ波という励みになるようなインセンティブがなければ、ズボラな性分の私としては長続きもしなかったのではないかと考えている。この場をかりてあらためて感謝したい。

今回のエントリー記事もメディアの話になってしまったが、結果的にマスコミ論に近いことを数多く取り上げてきたのは、大きな変化の波がこの世界に押し寄せてきているからだと考えている。ブログを書くことで得られた収穫は、そうした変化や進化の輪郭が自分なりに書くことで見えてきたということではないかと思っている。

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Comments

「神は同時に、いたるところに存在する」ということばにビビッときました。
トラックバックさせていただきます。

Posted by: やま | 2004.09.21 at 09:56 AM

僕の記事からリンク貼らせてもらいました、ご報告です。
いまさらこういう考え方を知りました、勉強足りてないですね。

Posted by: Show Paddistein | 2007.01.06 at 04:58 AM

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