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タテタカコという名のカナリア

sora_tatatakako.jpg
「そら」タテタカコ
23日の昼、吉祥寺のライブハウス「STAR PINE’S CAFE」で、「うたたねホリデー」と銘うったタテタカコのライブコンサートがあった。

前の記事でも紹介したように、タテタカコの「宝石」という曲は、是枝裕和監督の映画「誰も知らない」の挿入歌になっているが、映画の作品世界とこれ以上ないくらいマッチしていた。恐らく、是枝監督は、この「宝石」という歌と出会ったことで、むしろこの歌が持っている世界に寄り添うように、映画の作品世界を創り上げていったのではないかと想像している。タテタカコという無名のアーティストの歌との出会いがなければ、あの映画は、全く違った作品になっていたはずだ。

 タテタカコの歌声は、暗い闇空に向かって放たれた一筋の光のような深い到達力を持っていた。
彼女のステージは、キーボードだけの弾き語りで、他の楽器は無いシンプルなスタイルだが、豊かな音楽性に裏打ちされている。聴衆は弾き語りというより、むしろアリアを聴いているような印象を持ったことだろう。硬質なボーイソプラノのようにまっすぐなその声は、無垢な少年のように美しいが、けっしてナイーブなだけでなく、さまざまな痛みや絶望をくぐりぬけて、奇跡のように成立している“声”だということを、実際にその声に接した聴衆は理解し感動するのだ。

      「宝石」 作詞・作曲 タテタカコ

      真夜中の空に問いかけてみても
           ただ星が輝くだけ
      心から溶け出した黒い湖へと
           流されていくだけ

      もう一度天使はボクにふりむくかい?
       僕の心で水浴びをするかい?
      やがてくる冬の嵐に波が揺られて
          闇の中へぼくを誘う

         氷のように枯れた瞳で
          僕は大きくなっていく
         だれもよせつけられない
           異臭を放った宝石

長野の飯田に在住し、アルバイトで生計をたてながら音楽活動を続けているというタテタカコは、小柄なショートカットの似合う少年のような女性で、日々のアルバイト先の失敗などを訥々と話す姿は、とてもチャーミングで親近感が持てた。
しかし、一瞬目を閉じて意識を集中し、鍵盤をたたいて歌声が響き始めると、「だれもよせつけられない」凛とした彼女の歌の世界が立ち現れてくる。「異臭を放った宝石」とは彼女の歌の世界のことでもある。
歌は彼女にとって生きることそのものであり、別の何かとひきかえにしたり、他人の手に委ねることのできない、かけがえのない宝石なのだろう。だから彼女は、歌を手段にBigになることを夢見たり、東京でスターのような暮らしをすることなど眼中にない。歌うことを運命められた生物、例えば、カナリアのように闇空に向かって自分の歌をうたい続けていくことだろう。

カナリアという言葉が思い浮かんだとき、全く唐突に、オウム真理教の宗教施設・サティアンへの強制捜査の際に、先頭に立った機動隊の隊員が、サリンガスを感知するためにカナリアのはいった鳥カゴを持っていたシーンが思い出された。カナリアは、空気の汚れに弱く、鉱山などでは、有毒ガスの発生をいちはやく知るために、地底の仄暗い坑道で実際に坑夫たちによって飼われていた。

「歌を忘れたカナリア」という童謡があるが、カナリアは時として本当に歌を忘れるのだという。交尾の時期など季節的な要因が関係していることまでは知られているのだが、どうしてそのようなことが起きるのかはよくわかっていない。オウム真理教のサティアンに持ち込まれたカナリアは歌を忘れていなかっただろうか。

これは私の頭に浮かんだひとつの妄想なのだが、世のカナリアたちは、日増しにひどくなるこの世界の汚れを感知して息苦しくなり、ある日、パタリと歌うことを止めてしまうのではないかと密かに怖れている。

ライブの最後でタテタカコが、「幸せの歌」という曲をうたっていた。手元には歌詞カードが無く、記憶だけに頼っているので正確な歌詞ではないが、おおよそ以下のような歌だ。

     「幸せの歌」 

  幸せの歌をうたいましょう。
  君が笑うまで、歌をうたいましょう。

  幸せの歌をうたいましょう。
  君に届くまで、歌をうたいつづけましょう。

  この歌をうたうのは、幸せと感じた時・・・

タテタカコという新しい才能をもったカナリアには、息苦しいことばかりに取り囲まれ、「幸せ」という言葉が色褪せていくような時代にあっても、この「幸せの歌」を、彼女が愛する飯田の地で(たまには東京でも!)いつまでも歌い続けてほしいと心から願っている。

(カトラー)

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Comments

ライブ行かれたのですね!
今回のはお昼からスタートだったので、、ききごたえがあったのではかと思います。
katolerさんの文章はものすごく的確なので、
読んでいるだけで、うんうんと頷いてしまいます。
まさしくそんな感じですよね。。。

♪しあわせのうたを~しあわせのうたを~~
あの歌、聴いているだけでなんか温かくなれますよね。
ぱんもだいすきな歌です。
タテさん、いつまでも歌い続けて欲しいです。
なかなかこんなことをいえるアーティストは少ないのですけれど。

Posted by: ぱんスキュー | 2004.09.27 at 12:08 AM

トラックバックありがとうございます。
「宝石」と「誰も知らない」は互いが溶け合って相乗効果みたいなのが出てますよね。
「誰も知らない」はカトラーさんの言うように、「宝石」あってこその映画な気がします。
逆に、あの曲を聴くと映画のいろいろなシーンが思い浮かんで、映画を観たときに感じたことまで思い出して何となく切ない気分にさえなります。

Posted by: Rene | 2004.10.03 at 01:48 AM

お久しぶりです。
タテさんのライブにいらしたのですね。
私も、先月アタマに京都で観たライブの記憶、彼女の声の質感・・・私の中に鮮明に残っています。 ^0^

Posted by: hanna | 2004.10.09 at 01:54 PM

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