２０１０年 Ｘ日、「ＯＬ」「サラリーマン」が死語になる日。

２００７年から２０１０年をピークとして、戦後ベビーブームのなかで生まれた、いわゆる「団塊の世代」が60歳の定年を迎え労働市場から退場していく。大量のベテラン社員が労働市場から姿を消すことで企業社会にも大きな影響を与えることが懸念されている。最近俎上に乗せられている「２０１０年（２００７年）問題」である。日産自動車のカルロス・ゴーン氏が今春、社内でそのことを「２０１０年問題」として提起したことが報道され、議論されるようになった。

1947年（昭和22年）から1949年（同24年）にかけて生まれた第１次ベビーブーム世代は、現在54～56歳。300万人ともいわれるこの世代が大量に定年退職することにより、労働力不足やナレッジの継承に大きな問題が生じると指摘されている。
もうひとつ、この問題に関係して「コンピュータの２０１０問題」というのも指摘されている。ＩＴ技術者向け専門サイト「IT Pro」の記事によれば、企業の基幹システムの中心を担っているメインフレームの技術者も大量に労働市場から消えていくためにシステムの保守や改良ができなく可能性があるという。
もっとも「２０００年問題」の時も、飛行機が落ちる、原子力発電所がメルトダウンする、あげくの果てには世界戦争が勃発するなど、さんざん脅された記憶があるが、結局、何事もなかったことを考えれば、今回も話だけに終わる公算が強いが・・・。

「ＯＬ」と「サラリーマン」という概念の終わり

では、団塊世代が大量に定年退職する２０１０年が到来することによって何が決定的に変わるのか？
私はそれを「ＯＬ」と「サラリーマン」という概念が、終わりを告げ、死語になることではないかと考えている。「ＯＬ、サラリーマン」という言葉は、一見、正反対の言葉のように思えるが、実は双子のような関係にあるデュアル・コンセプトである。「美女」と「野獣」、「聖」と「俗」、「王」と「乞食」、などの言葉に続けて「ＯＬ」と「サラリーマン」と並べてみればわかるように、リストラだ、セクハラだと虐められている団塊のオジン・サラリーマンという存在があることで、ＯＬというコンセプトが存在可能なのだ。そして、昭和、平成と企業社会を背負ってきた団塊世代こそが、「サラリーマン」という言葉の基底イメージを形成してきた世代に他ならない。新橋の駅前広場で、ホロ酔い気分で「ナベツネのバカヤロー！」とカメラに向かって叫ぶ、ヨレヨレＹシャツで頭の薄くなった団塊オヤジは、ＯＬたちからは嘲笑や罵倒の対象になりつつも、日本のサラリーマンの基底イメージを体現してきたのである。

その愛すべき団塊世代サラリーマンが、職場や新橋の駅前広場から消え去ろうとしている。その結果、「サラリーマン」という言葉が死ぬとしたら、それに代わってどんなイメージが生成されてくるのだろうか。

日本経済新聞が、交通広告で「はじめる日経、つづける日経」というキャンペーンを展開している（写真）。そのキャンペーンポスターに登場しているのは、団塊ジュニア世代と思われる男女だが、むしろ女性が広告イメージの中心になっている。
日経新聞は、メディアの中でも２０１０年問題の影響を最も大きく被るだろうといわれている。周知のように、日経は朝日、読売などと併読されているケースが多いのだが、会社をやめても、日経の方を読み続けるというシーンはちょっと想像しにくい。したがって、団塊世代の企業社会からのリタイアが本格的に進めば、直接的に読者が減ることも予想される。加えて、その子供世代である団塊ジュニア層は、「無読層」とも呼ばれ、新聞を読まない世代といわれている。
だから「はじめる日経。つづける日経」というキャッチフレーズは、団塊世代および団塊ジュニアの世代に向けられた広告メッセージであることが推測できる。

ショムニは遠くなりにけり

そして、この広告イメージが物語っているように、ビジネスの現場には、抜け落ちた団塊サラリーマンを埋めていく形で、女性が台頭してくるだろう。彼女たちを「ＯＬ」という言葉や「サラリーマン」という言葉で表現することはできない。
最近のビジネス誌などを見ていくと「ビジネスマン」という言葉に代わって、「ビジネスパーソン」という言葉が増えてきていることに気づくだろう。こうしたこともビジネスの現場の言葉が、男性中心から中性化し始めていることを示すものだ。

「サラリーマン＆ＯＬ」に代わって「ビジネスパーソン」？
そうなることは、理屈ではわかったつもりでも、何か顔が見えてこない、味気ない世界である。２０１０年、ショムニは遠くなりにけりと懐かしむことになるのだろうか。

（カトラー）