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沖縄の「命を育むインフラ」をみならえ!

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週刊!木村剛に「地方自治体は破綻するのか!?がんばれ沖縄」という記事がエントリーされ、沖縄の経済格差の問題について「オレのアイ」さんの解説が取り上げられている。

沖縄県の個人平均所得は200万円を少し上回る程度です。40代で手取り20万円いかないということもザラにあります。沖縄県でお金(小金?)持ちというのは公務員や思いやり予算とやらで家賃補助等手厚い待遇を受ける米軍兵士、軍用地や宅地の地主さん、それと観光客ということになります。もちろん会社経営者は多少マシな収入がありますが、それでも(つい最近新聞に載っていた記事では)年収700万〜1000万円程度なのだそうです。・・・公務員は結局のところ国の税収の割り当てですし、米軍兵士も税収からの配分です。観光客にいたっては住民ですらありません。つまりこの三つは消費だけを期待する対象です。特に観光産業は沖縄県の基幹産業です。まあぶっちゃけ、タカリでしか沖縄県の経済は潤わないということでしょう。

この記事を読んで、20年近い昔、私がまだ大学生で、大塚の喫茶店でアルバイトをしていた頃に知り合った、沖縄出身の少女のことを思い出した。彼女は、当時中学を卒業したばかりで、昼は古びたビルの地下にあったその喫茶店でウェイトレスとして働きながら、定時制の高校に通っていた。20年前というと、もちろん安室奈美恵もデビューしていなければ、ちゅらさんのような沖縄を舞台にした人気ドラマなども存在しておらず、沖縄に関する情報は極めて限られていた時代だった。目鼻立ちがはっきりとして、黒々とした太い眉が印象的な、無口でシャイな少女だったが、店が暇な時など、こちらから問いかけると沖縄について色々話をしてくれた。女の子たちは結構若くして結婚するが、すぐ離婚してしまうケースが多いこと。当時も(今も)鉄道や地下鉄がなく、東京に来たら山の手線や迷路のような地下鉄にびっくりしたことなどを少女らしい無邪気さで話してくれたことを覚えている。
「東京にはもう馴れた?」と尋ねると、「えっまあ・・・」と曖昧な返事をしていたのが気になっていたのだが、それから2ヶ月ほどして、突然、彼女は店に姿を見せなくなった。店のマスターも心配していた。
そして、2週間ほど経っただろうか、ある日、彼女がひょっこり店に現れた。聞けば、沖縄に帰っていたのだという。しばらく店の隅でマスターと話し合っていたのだが、不意にボロボロと彼女の瞳から涙がこぼれ出し、こんなに人間の体には涙が溜められているのかと思えるほど、いつまでもその涙は止まらなかった。

「心配かけてしまったみたいでごめんなさい」と私に話し掛けてきたときは、少し表情は晴々していたが、「なんか海が見えないのが、落ち着かなくって・・・やっぱり東京で暮らすのは向いていないみたいです」といいのこして、少女は沖縄に帰っていった。それっきり、その少女とは会っていない。

今はもう死語になった「集団就職」によって東京に出てきた若者の中には、この少女と同じような「挫折」の物語が、それこそいくらでも存在したことであろう。
沖縄の少女に「もう少し頑張ってみたら」という励ましの言葉をかけて見ようかと一瞬思ったのだが、それは、直感的に見当違いのことのように思えた。
誤解を恐れずあえていえば、沖縄は昔も今も特別な場所なのだと思う。沖縄の人々は、沖縄以外の日本のことを「本土」といい、本土の日本人を「やまとんちゅ」と呼ぶ。少女のことを東京から逃げたと考えるのは、私のように東京でしか生きられない身体になってしまった人間の思い上がりで、沖縄という帰るべき「異国」あるいはもうひとつの世界が彼女には存在したということなのだ。

沖縄には優しさの原理が生きている

沖縄と本土(日本)を違えるものは、数多くあるが、決定的に違うと思えるのは、沖縄には優しさの原理がまだ生きていることだ。沖縄の人々の目は優しい。沖縄と本土の間には経済格差があるという指摘はその通りだが、逆の見方をすれば、それだけ東京を中心とした経済至上主義に浸食されていないということでもある。
東京の人間がいうことではないかも知れないが、所得水準が低いから沖縄の人々は不幸せなのかといえば、そんなことはないと思う。お金がなくても人が生きていくために不可欠な、自然や人々のつながりなど「命を育むインフラ」とでも呼ぶべきものが、豊かに存在するのが沖縄なのではないかと思っている。
そのことを証明するように、沖縄は日本の中でも最も長寿者が多く、さらに出生率においても数年来、全国トップである。沖縄の特定地域だけをとれば出生率3.14という所も存在する。「貧乏の子だくさん」と揶揄するむきもあるだろうが、子育てを地域や人々が支えるネットワークが失われていないことのあらわれなのだと思う。

教育にお金がかかるからといって、子供を生むことを自ら制限し、せっかく生まれた子供も育てる術を知らず、育児ノイローゼや幼児虐待が横行しているような、この国の傷んでしまった「命を育むインフラ」に比べて、沖縄はいかにのびのびと生命力にみちていることか。命を再生産する能力も失って、マクドナルドやブランド品の山に囲まれて生きていくことを経済成長と呼ぶなら、そんなものは糞食らえだ。キャッチアップすべきなのは、沖縄の方ではなくて、われわれ「やまとんちゅう」の方なのではないか。

今となっては確かめようもないが、あの沖縄に帰った少女は、きっと今頃は沖縄の母親として、多くの子供たちに囲まれ、晴々とした面持ちで海に沈む夕日を毎日眺めているかも知れないと夢想している。

私は沖縄を礼賛することで、沖縄を「ユートピア」に仕立て上げるつもりは毛頭ない。
沖縄に資本の論理ではなく、優しさの原理にもとづく「命を育むインフラ」がかろうじて生き残っているのは、経済至上主義の洗礼、あるいは産業化の恩恵を、たまたま受けてこなかったからともいえるからだ。米軍の存在が、沖縄の経済発展のデッドロックになっているという指摘がされているが、皮肉なことだが、米軍基地が、物理的にも経済的にも沖縄で大きな役割を占め、幅をきかせてきたことで、逆に開発・産業化が遅れ、自然やコミュニティが温存されてきたという面があるのではないか(名護沖への基地移転話はもちろん論外だが)。

今後の沖縄の開発や経済の活性化とは、沖縄をミニ東京化させることであってはならない。逆に命の再生産を可能にする「豊かな成長」とはとういうことなのかを、沖縄の開発を通じて、日本全体が学ぶべきなのだと思う。

(カトラー)

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コメント

丁寧なコメントありがとうございました。
町が子供を育てる。これがわたしも理想だと思っています。
江戸時代の庶民はそうだったようですね。
下町や大阪の、ふいに知らない人にも声をかける文化って、
とてもいいものだと思います。
実は、以前は苦手でした。
だから、ダメなんだとこのごろ我が身を省みて思います。
郷里は長野県ですが、たぶん、我が家の特性として
家族のなかだけでまとまろうという意識が強かった気がしています。
母は、良き妻、良き母になろうと一生懸命でした。
良い家庭というもののイメージを作り、
その型に合わせようとしていた面が多分あったと思います。
現代のようなお受験、ブランド信仰ではありませんでしたが、
この型であれば安心といった幻想に振り回されていたように思います。
そんな家庭のなかで、わたし自身「良い子のフリ」をしてきました。
上京することで、一気にその呪縛から解かれ、のびのびしたものです。
わたしは沖縄の少女と正反対でした。
夏休みになっても、お正月休みでも、
帰りたくなくて、帰りたくなくて仕方ありませんでした。
それがなせだったのか、ようやくわかった気がしています。
その結果、結婚もせず、子供も産まずに過ごしてしまいました(^-^;
たぶん、この記述からすると、katlerさんとほぼ同世代だと思います。
沖縄の少女は、きっと子だくさんの素敵なお母さんになっているでしょう。
沖縄には、実はまだ行ったことがありません。
是非、行ってみたいところです。

今日もまた、虐待事件が報道されています。
なんとかしなくてはいけませんね。
今後ともよろしくお願いします。

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