都心マンションブームの落とし穴
週末が近づくと、都心マンションの売り出しを告知するチラシ広告が、毎週のように入ってくる。
秋葉原の旧青果市場跡地には、40階建ての高層マンション「TOKYO TIMES TOWER」が、品川では、2000戸をこえる巨大マンションプロジェクト「ワールドシティタワーズ」の建設が進んでいる。
私が住んでいる足立区はとても「都心」とは言い難いが、ここでもあちこちで大規模な再開発が進みはじめた。以前エントリーした記事で「北千住」について書いたが、近隣の南千住や西新井でも再開発プロジェクトが進行している。こうした再開発に共通するのは、工場や操車場など広大な敷地を専有していた事業者が廃業、もしくは移転することで種地ができ、それをベースに再開発計画が組み立てられている点だ。都心で大量のマンション供給がはじまっている背景には、こうした企業用地の大規模なリストラが進展している事情がある。
加えて、マンションの購入層の変化もある。かつては、マンション購入の中心はファミリー層であったが、団塊シニア層や30代のOLなどが、マンション購入の主役になりつつある。郊外に一戸建てを保有していたシニア層が、子供が成人して巣立ち、それまで住んでいた一戸建てを売り払って便利な都心のマンションへの買い換える動きが進んでいる。また、経済力を高め、結婚幻想から解き放たれたOLたちは、自分独りでいきていく「城」を買い始めているのである。
200~300戸の高層マンションは、もはや珍しくなく、2~3年先の竣工予定の物件まで前倒しで販売が進められている。販売が好調なうちに売れるものは売ってしまおうということなのだろうが、危うい状況になりつつあるなというのが率直な感想だ。
日本のマンションが抱える時限爆弾
日本で販売されているマンションという商品は、実は大きな時限爆弾を抱えている。
ひとつは建て替えのリスクである。60~70年代に建設されたマンションは、容積率に対して余裕があり、建て替えの際にさらに高層化すれば、居住者たちは経済的な負担が軽くて済み、建て替えの同意が得やすい。しかし、80年代以降に建設されたマンションは、地価高騰の影響もあり、容積率ぎりぎり、目一杯で建てられているので、将来の建て替え時のバッファが全くないのだ。建て替えをするためには、居住者に購入時と同じような経済負担がのしかかることが避けられない。これでは、2/3以上の住民の同意が必要なマンションの建て替えを進めることは不可能に近いだろう。マンションのコンクリート躯体そのものの寿命は、本来は100年近くあるといわれるが、配管などは30~40年でだめになるといわれている。あと10年もすると、80年代に供給されたマンションの建て替えが社会問題化するかも知れない。
建て替えよりも早く問題が顕在化するのではないかと考えているのが、マンションの構造、特に断熱の問題である。
一般にはほとんど知られていないのだが、日本のマンションは「内断熱」という、世界的にみれば極めて特殊な工法によって施工されている。周知のようにコンクリートは、蓄熱体としての性格を持っている。暖められたり冷やされたりするとその熱量を貯め込むのだ。したがって、この蓄熱体としての性格をうまく利用して建物を建築すれば、夏涼しく、冬暖かいマンションというのができるはずなのだが、日本はこの常識に逆らって「内断熱」という工法を採用している。マンションのコンクリート躯体の内側、部屋側に断熱材を敷き詰めているのだ。これでは、夏の日差しを直接受けて暖められたコンクリート躯体は、夜中じゅう熱をもち、いつまでも暑さが続くことになる。冬がさらに問題なのは、部屋の中で暖められた水蒸気が、外気に冷やされたコンクリート面と壁の中で接して結露し、ダニ、カビの発生原因になっていることだ。
マンションの結露やそれに伴う健康被害の問題は、最近になって大きく社会的問題化しつつあるが、そうした議論以前に、こうした建物としての構造問題が存在することはほとんど知られていない。
欧米では外断熱マンションが常識
ちなみに欧米では、コンクリートの集合住宅はコンクリート躯体の外側に断熱材を施工する「外断熱」が主流である。
コンクリートの外側を断熱材で保護する形にもなり、外気の寒暖の影響でコンクリートが収縮を繰り返すことも避けられ、結果として躯体自体の寿命を延ばすことにもつながる。日本では30~40年といわれるコンクリートの集合住宅の寿命は、欧米では100年近く持つというのが常識となっている。
一体どうしてこのような事態になってしまったのか。
外断熱工法は内断熱に比べて、施工コストが1~2割アップするという。また、日本のように変形地に建物を建てると形状が不規則になるために、断熱材を凹凸のある建物の外側に隙間無く施工するのはかなり難しく、施工面積も大きくなり効率がますます悪くなってしまう。こうしたさまざまな理由が積み重ねられて、「内断熱」が採用されてしまった。さらに一番大きな影響力をもったと考えられるのが、マンションディベロッパーの姿勢である。内断熱のマンションをさんざん供給してきた手前、今更、外断熱のマンションの構造的優位性を主張したら、それまで供給した商品を否定することになってしまう。業界全体として口裏を合わせていた方が都合良い。どうせマンションは、一戸建てを最終的には購入するまでのつなぎ役だから、30年ももてば、まあいいじゃないか・・・という「どうせマンションは」論理がまかり通ったためだと推測している。
一般戸建て住宅の分野では、「外断熱工法」が、2~3年前からブームになっている。住宅雑誌のハウスメーカーの広告などを見ると「外断熱」でなければ、家でないというようなメッセージが溢れている。戸建てでは常識化しつつあるのだから、マンションでも同じ議論が起きてくることは当然と思えるのだが、不思議なことに、リクルートの「住宅情報」なども含め、住宅関連メディアや業界もこの問題には口をつぐんだままなのだ。「住宅情報」などは、いつでも「マンションは今が買い時!」という記事が載っているのだから呆れてしまう。こんな雑誌に騙されてマンションを買うことだけは止めにしたい。
大手が外断熱工法に乗り出す日
話を元に戻そう。こうした業界あげての「外断熱隠し」も綻びが見え始めている。
ひとつには、冒頭に指摘したマンションの大量供給である。2~3年先の物件を前倒しにして販売しているのだから、早晩、需給が逆転するのは目にみえている。都心という利便性だけで売れなくなったマンションをどうやって売るか?差別化のポイントを探しあぐねたあげくに「外断熱工法採用」というキャッチフレーズはその場合の切り札になるだろう。実際、大手ディベロッパーに対して中堅ディベロッパーが、外断熱工法の優位性に着目して、外断熱工法によるマンションの供給を2~3年前から開始しており、販売は極めて好調だ。
北海道の札幌に本拠をおく、日本省エネ建築物理総研が開発したEV外断熱工法が代表的なものだが、首都圏でも康和地所、南海辰村建設などが供給を始めている。
今のところ、一部の中堅ディベロッパーが、外断熱工法に取り組んでいるだけだが、大手も水面下では独自工法を研究中と聞いており、マンションの需給関係が緩めば、早晩、大手ブランドによる外断熱マンションが登場してくることは明らかである。
そして、外断熱マンションが市場で認知され始めた時点で、過去に販売された内断熱マンションがどのような見方をされるかも目にみえている。バブル時代に高値の物件を掴まされ、地価の下落で泣かされたマンション購入者が、今度は、「内断熱」だからといって泣かされるはめになるのだろうか。
(カトラー)
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
カトラーさん
コメントありがとうございます!
昨夜は23区内も結構強く長く揺れましたよね。
私は一回目の地震の後、余震と余震の間もずっと揺れているような錯覚に陥り、家の中で船酔い状態でした。(汗
実家のローカルな話なんですが、やはり冬場の灯油代電気代をいかに節約するかというのが重要な問題なので、よく家を建てる前後には断熱材の話や工法をどうするかというのは話題になるのです。
カトラーさんから教えて頂いた先をチェックしに行きましたが、みなさんこの夏も快適だったような話をされていて、本当に羨ましい限りです。(^^;
これからは、外断熱&地震に強い&セキュリティー強化と本当にマイホームにつぎ込む予算が増えていくばかりという悩みを抱える方がますます増えそうです。
投稿: fumi_o | 2004.10.24 18:04