湯島デリーのカシミールカレー
天気予報に反して、朝から冷たい雨が降り始めた空の下、告別式が行われた。若くして亡くなった人の葬式に参席するのは、本当にせつない。幸か不幸か彼には奥さんや子供がいなかったので、運命の無情を恨む悲痛な影こそ薄かったが、彼の人柄を慕う大勢の人々が集まった分だけ寂しさがつのった。
彼とは仕事上の接点はあまりなく、私的にも深い関わりがあったわけではない。社内ではパソコンとネットの達人として知られていたので、何度かそうした面での相談ごとをメールで投げかけたことがあった。その度に適確で丁寧なアドバイスを返してくれた。
記憶に残っているのは、彼と私がまだ30代の頃、昼休みに何人かで湯島のデリーというカレー店まで遠出をした時のことだ。この店は彼のお気に入りで「カシミールカレー」という一番辛いカレーを注文するのが常だと言って笑っていた。外はもう涼しい秋風が吹く頃だったが、大汗をかきながらうまそうにカシミールカレーを平らげていた彼の姿を思い出す。
告別式の帰り、その湯島のカレー店、デリーに立ち寄った。辛いものはあまり得意な方ではないが、「カシミール」を注文した。いつかの彼のように汗が吹き出したが、一気に平らげた。うまかった。
気が付くと、皿に小さな骨とローリエの葉が残った。このカレーを彼はもう食べることが無いのだと思うと、彼がこの世にいないということを実感した。
合掌
(カトラー)
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