スーパーサイズ・ミーに見る、市場主義というナチズム

アメリカに行った日本人は、誰もがジャンクフードの氾濫と食べ物のデカさに呆れ返る。
話題の映画「スーパーサイズ・ミー」は、マクドナルドやコカコーラに代表されるファーストフード産業、食品メーカーの巧妙なマーケティングの罠によって、いかに多くのアメリカ人が肥満と不健康に追いやられているかを風刺的に描いた作品である。
監督自らが実験台となって、1ヶ月間、マクドナルドの商品を朝、昼、晩と食べ続け、その過程をレポートしている。実験の終盤では、体重が14キロ増え(スーパーサイズ)、肝臓が腫れ上がり、胸苦しさまで感じてようになり、ドクターストップ寸前までの状態に陥る。
数年前に、マクドナルドを相手取り、肥満になったのはマックに責任があるとする訴訟がおこされた。このニュースを聞いた時は、何でも訴訟に持ち込むアメリカ的訴訟社会の弊害と考えていたが、「スーパーサイズ・ミー」を見て考えが変わった。アメリカ人の肥満、不健康のかなりの原因はマーケティングにあり、その責めを負うべきである。
「消費者が欲しがるものを欲しがるだけ、しかも、できるだけ手軽に安く提供している」というのが、ファーストフード業界など供給側の論理であり、市場のニーズに応えるべくマーケティングポリシーを貫徹させているだけという見方もできるだろう。しかし、この映画でもリポートされているように、マクドナルドのマーケティングは判断力の無い子供たちへの刷り込みから始まっている。マクドナルドのキャラクター、ドナルドは、今や米国大統領やキリストよりも子供たちの間では認知度がある。子供への刷り込みを組織的、戦略的に展開しているという点では、実はアメリカが名指しして非難している悪の枢軸、北朝鮮と異なるところがない。永井俊哉氏によれば、実はナチズムとフォーディズムは親縁性があって、ヒトラーと自動車王フォードは互いに称えあっていたのだという。徹底した市場主義は、プロレタリア独裁を標榜したソ連共産主義独裁やナチズムと双子の兄弟なのだ。
どこを見渡してもマクドナルドやセブンイレブンだらけの同じ顔をした街ばかりだ。こうした国を全体主義の国と呼ばずして何と呼ぼう。
(カトラー)
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指数を発表しているのは有名ですが、今年も発表されたみたいです。
ニュースで見ました。
アメリカ....... [続きを読む]
受信: 2006.01.22 15:33
コメント
カトラーさん、こんにちは。
私もこの映画を観て、元から好きではなかったファーストフードが更に嫌いになったクチです。(汗
4年ほど前に下地として『ファストフードが世界を食いつくす』(エリック・シュローサー著 楡井 浩一=訳)を読んでいたのですが、今回のこの映画はやはり監督自身の身体が医者も予想しなかった程酷く変化していったという見せ方に、インパクトは相当強いし、ファストフード業界の経営手法がいかに狡猾であるか関心を引きやすい手法だなーと思いました。(ご本人は相当辛かったと思いますが)
投稿: fumi_o | 2005.01.27 12:42
うーん。国民性もあるという感じがします。そういったジャンクフーズに限らず、アメリカ人の多くはあきらかに食べ過ぎです。なんであんなまずいものをたくさん食べることができるのか、不思議な思いをします。食は文化だと思いますが、食の文化が育っていない感じですね。
市場主義とプロレタリア独裁主義が違うのは、市場主義は淘汰のしくみがあることじゃないでしょうか。T型フォードで大成功したフォードもシボレーにそのシェアを奪われてしまいます。
またプロレタリア独裁主義は、人間は完璧な計画ができるという理想主義ですが、市場主義は、神はマーケットにしか存在しないというところから出発しているのでちょっと本質的にことなるような気がします。
もちろん淘汰が進みすぎると社会が持たないので、市場主義も修正されましたが、人(独裁者)が粛正するのか、マーケットが淘汰するのではずいぶん違うような気がします。
投稿: 大西宏 | 2005.01.27 19:28
fumi_oさん、コメントありがとうございます。
「ファーストフードが世界を食いつくす」という本を私も読んだことがあります。そこで報告されていた、食肉処理に従事する人々の過酷な労働実態の上にマックのハンバーガーが成立していることを考えると、とても複雑な感情を持ちました。
ファーストフードというのは、大西さんが指摘されている文脈にそっていうなら、文化ではなく、ひとつの文明なのだと思います。文明はつねに文化を駆逐してきました。ファーストフードとはアメリカ文明そのものを象徴しているのであり、アメリカ人が食文化を持ち得ないのはそこに本質があると思います。
文明が文化をなぜ駆逐できるかといえば、文化は人々のものだけれでも、文明は神のものであるふりをするからでしょう。そしてアメリカという文明が信奉している神とは、大西さんがおっしゃるように、「市場主義」といえるでしょう。この神は、本来は人々の幸福や安寧を約束するはずの存在であったのが、今や肥満と画一化に人々を追いやっています。この映画が発しているメッセージとは、市場主義という神を100%信じられなくなったアメリカのジレンマだと感じました。
投稿: katoler | 2005.01.28 01:34
TBありがとうございました。
自分のところで書きましたが、スーパーサイズ・ミーを観てやっぱりいちばん深刻だなあと思ったのは、子どもたちの学校給食の部分。大人の利益がらみで不健康な食事を与えても平気ってのが信じられないですねえ。こちら(宮城県)では、子どもたちの食育にとても熱心なものですから・・・。
投稿: tamago | 2005.01.30 10:05
カトラーさん、こんにちは。
既にご存知かも知れませんが、一部で小さいサイズ(それもまた極端に小さい)を提供しているマック店もあるようです。
まあ、「NYだからかな?」という気もするのですが。
個人ブログより↓
http://madonna.girly.jp/blog/archives/000206.html
投稿: fumi_o | 2005.02.09 10:34