「ハウルの動く城」にみるファンタジーの力
[映画産業活況]「大切な『資産』として育てたい」
(YOMIURI ON-LINEより)
「ビデオやDVDの時代なのに、なぜ」と意外な印象を受けるかもしれない。
昨年一年間の日本国内の映画の興行収入は、対前年比3・8%増の2109億円で、一九五五年に調査が開始されて以来、最高を記録した。しかも、二年連続である。映画館入場者数も過去二十年間で最多の一億七千九万人だった。
2004年のさまざまな経済統計が発表されているが、日本映画の活況がめざましい。洋画に大ヒットが無く、落ち込んだにもかかわらず、日本映画のヒットによって映画館の入場者数が過去最多になったことが報じられている。なかでも圧倒的な動員力を誇ったのが宮崎駿監督作品「ハウルの動く城」である。現在も公開中だが、興行収入は200億円を突破した。
「ハウル~」は、イギリスのファンタジー作家、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「魔法使いハウルと火の悪魔」という作品が原作になっている。
「ハウル~」を見ている時に、昨年公開された「スチームボーイ」(大友克洋監督作品)にも「動く城」(スチーム城)がモチーフとして登場していたことが思い出された。「スチームボーイ」は制作費、24億円を投じたという大作アニメという触れ込みだったが、どうしようもない駄作だった。確かに映像は作り込まれていたが、ただそれだけで心に刻まれるものが何もない空虚な映画だった。この差は何だろうという疑問に捕らわれた。
ハウルの城とスチーム城の差
もちろん「ハウル~」に対しても、さまざまな評価がある。ファンタジーを原作にしていることからある種の荒唐無稽さが作品全体を支配しており、そのことを捉えて「深みがなくなった」と評する人々もいる。確かに宮崎作品には「もののけ姫」までは、自然と人間の共存というような、明らかなテーマ性が存在したが、前作の「千と千尋の神隠し」以降、そうした思想性は影をひそめた。「ハウル~」に至っては、映画の冒頭では戦争否定のようなメッセージが組み込まれているようにも感じられるのだが、そうしたメッセージの展開を期待していると肩すかしを食らう。物語の意味性、メッセージ性が注意深く剥ぎ取られており、この作品から特定のメッセージや意味を読み取ろうと思っても不可能なようにあえて仕組まれているといったほうが適切かもしれない。
宮崎駿がこの作品で構築を試みたのはファンタジーの世界そのものであったと考えている。たとえば、この映画に登場する「ハウルの城」とは何を象徴しているのかという観点から、さまざまな解釈が可能だろうが、最後まで、あるわかりにくさ、荒唐無稽さが残る。それに対して、私が駄作と評したスチームボーイの「スチーム城」は、現代機械文明の象徴であることは、誰がみても明々白々である。わかりやすい分だけつまらないのがスチーム城に抱く観客の思いだ。
ファンタジーは人間固有の力
人間という生き物はどうもファンタジーがなくては生きていけない動物のようだ。この点に関して、脳科学者の茂木健一郎氏が、ユリイカ12月号で以下のように述べている
人間は、何故ファンタジーに惹き付けられるのか?その意味を考える上で、最近報告された「スケール・エラー」と呼ばれる認知現象は示唆を与える。「スケールエラー」とは、ある発達段階の幼児に特有に見られる奇妙な認知現象のこととであう。子供たちが、ある条件の下で、対象のスケールを無視して、不可能な動作をしてしまう。例えば、自分のお尻に隠れてしまうくらい小さな滑り台を滑り降りようとする。自分の足元にある小さな車のおもちゃのドアを開け、乗り込もうとする。・・・・・(後略)
こうしたスケール・エラーの現象について聞くと、誰しも不思議の国のアリスの話を思い起こすだろう。そして、茂木氏によれば、このスケール・エラーという認知現象は、生後20~24ヶ月の人間の子供に特有のものであって他の動物には見られないことだという。さらに、大きさの異なるものを同じ「車」だとカテゴライズして認知する能力が、実は人間の知の本質であり、「そもそも、生まれ落ちたばかりの子供が投げ込まれる世界が、ファンタジーの世界でなくて何であろうか」と喝破している。つまりファンタジーを見る力とは、人間の知性のあり方そのものと深い所でつながっているということなのだ。
現代はファンタジーを渇望している時代といえるだろう。宮崎作品やハリーポッター、そして以前このブログでも取り上げたがバトルロワイヤルなど、ある種、荒唐無稽で無意味(ナンセンス)な物語に私も含め、多くの人々が惹き付けられている。そのことは裏返していえば、この世が「意味」にまみれ、わかりきった退屈な事柄の塊になってしまったということを示している。
(カトラー)
<追伸>
わに庭さんから、な・ナント挑戦状をいただいてしまった。
わに庭さんが書かれた<12歳の殺意>と題された書評を読んで、その書名を当てるべしということなのだが・・・・う~む、これは「ハウル~」的に表現すれば呪いをかけられたようなものか!
基本的に降参なのですが、「ハウル~」の原作者ダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品で「バウンダーズーこの世で最も邪悪なゲームー」という12歳の少年が主人公のファンタジー作品があるんですね。本屋でチラリと立ち読みしただけなので、詳しい内容はわからないんですが、全く無抵抗というのもシャクなのでこの作品をあげておきます。
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コメント
うっしゃ!
カトラー撃沈!
本家からヲタを呼びまーす!
投稿: わに庭 | 2005.02.16 03:08
2005/02/16 10:52 AM 終了!
本家と分家、違うものよのう。
カトラーさんも、読んだら?あれとハガレンとワンピのアラバスタまでは、エポックメイキング的作品だよ?
投稿: わに庭 | 2005.02.16 17:07
自分のやったことが、後で恥ずかしいと思うぐらいに育ってから起こす「スケールエラー」は単なる認知障碍なんでしょか?
単にボケ噛ましただけかもしれませんが。
ってなことは、さておいて。
ファンタジーと現実の境目が曖昧なところを好む自分は、昨今の明確なファンタジーが少し納得行かないです。
指輪物語も、本で読んで作り上げていた映像が、想像以上に実現しているのは凄いのだけれど、映画を先に見てしまった人は、自分の脳で映像を捉え直しているのだろうか?
今、求められているファンタジーは、明確に映像化されてしまうことによって、逆に現実味を失って、単なる明確なファンタジーになってしまっているのが歯がゆい。
(ああ、無駄な語句の繰りかえし。表現力が乏しいのはお許し頂きたいです。)
最近、松谷みよこあたりを読み直したりしちゃったもんで、子供が頭に描いてしまった情景と、大人になってから描ける情景の差異とか、恐かったモノが悲しいモノに変わってしまうことなんかに、感動したり。
人の心と経験が、見える物を変えていく、そんな余地がなんだか少ないんだよなー。
「大人の鑑賞に耐える」って、「想像の余地なく圧倒的な説得力」じゃないような。
だから、ハウルのほうがいいな。もののけ姫より。
あ、トトロって大人には想像の余地少ないですよねー。
単なる懐かしのふるさとだったんだもの。
でも、子供には、現実に近いようでちょっと違った違和感のある、ファンタジックな世界なんだろうなぁ。
目の前の出来事の原因が、この世で一番ファンタジック。
投稿: kemeko | 2005.02.16 21:18
また、別の挑戦を考え中!
今、「魚屋のおっちゃんをブロガーに育成する」ゲームと「トトロによく似たゴジラの娘をブロガーに育成する」ゲームにはまって、おもしれーのなんのって。
そのうち、サメやのツネと、へなえもんをここにトラバさせてみせるぞ!
投稿: わに庭 | 2005.02.17 18:07
kemekoさん、書き込みありがとうございます。
おっしゃるようにファンタジーの本質、楽しさというのは「想像力」と不可分なのかも知れません。スケール・エラーの話からもわかるように脳の柔らかい子供たちは、現実(リアル)との関わり、手探りの中で想像力という翼の羽毛を使って「ファンタジー」を紡ぎ出していくのでしょう。
ハリウッド映画になった作品を単に受け身で見るということは、想像力を働かせる余地が無くなり、その分だけ逆に「ファンタジー」から遠ざかることになるのかもしれませんね。
わに庭さん「挑戦歓迎です」と受けて立ちたい所ですが、とてもかないそうにありませんね。
NARUTO26巻も読ませてもらいます。
それにしても「トトロによく似たゴジラの娘をブロガーに育成するゲーム」というのは、タイトル聞いただけでスゴイ!爆笑してしまいました。
投稿: katoler | 2005.02.18 08:31
爆笑ついでに、ここをゴールにしちゃいましたぁ!
投稿: わに庭 | 2005.02.18 15:10
はじめまして。突然、ほんとに申し訳ありませんm(_ _)m
うたた寝から目覚めたらこんなことになってました>ワニ庭ゲーム
あちこち、ぽちぽちさわってご迷惑かけてしまったらすみません。前もってお詫びしておかねば、と思って伺いました。ごめんなさい!!
投稿: トトロによく似たゴジラの娘(へな) | 2005.02.19 01:48
カトラーさん、へなえもんは、すでにここを知っていてロムってたんですって。で、あせりまくっています。
だから、何ヵ月後かわからないけれど、このサイトのどれかのエントリーにトラバさせますので、よろしくお願いします。
投稿: わに庭 | 2005.02.19 09:49
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投稿: groupjk.com | 2013.09.29 06:24
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