2010年 映像・メディアビジネス 未来への旅(7) ~ライブドアvsフジテレビ問題の行方:攘夷論を排す~
ライブドアに批判続出・与党内で
与党内で18日、ライブドアが東京証券取引所の「立会外取引」を活用してニッポン放送株を大量に買い付けたことに批判が続出した。(NIKKEI NETより)
ライブドアvsフジテレビの問題で、ライブドア叩きの論調が強まりつつある。論点の中心は、ライブドアが「立会外取引」を活用してて「抜け穴的」にニッポン放送株を取得したという指摘。加えて、ニッポン放送株取得の資金を米投資銀行リーマン・ブラザーズを通じて調達しており、結果としてライブドアが外資の傀儡となって、日本のメディアの公共性を脅かすことにつながるという主張である。
予想はしていたが、相変わらずのステレオタイプな反応が始まっているといえよう。これまでは、ライブドアが堀江社長、フジテレビは日枝会長が、連日、取材対応し、広報合戦の様相を呈していたが、ここ数日で出てきているのは、第3者、特に政府与党関係者の発言である。産経新聞出身の森善朗元総理が登場して教育上いかがなものかとトンチンカンなライブドア批判をしていたのはお笑い草で、逆にライブドアの株を上げたと思うが、自民党武部幹事長あたりが「報道は社会の公器」であると述べたり、細田官房長官が時間外取引の問題の見直しに言及しているのを見ると、この国の権力構造がメディアといかに密接に結びついているのかを今更のように見るようで嫌な気分になった。
夕刊フジのプロパガンダ
「メディアは公器である」ということ自体に異論をはさむ気はない。しかし、今回の一連の議論にこうした建前論を持ち込むのはそもそも不毛だし、建前論を政治的に利用しているに過ぎない。この点については、次のことを指摘しておけば十分だろう。
昨日、発行されたフジサンケイグループの夕刊紙「夕刊フジ」の1面でフジTVがニッポン放送株の24%を確保したという見出しが躍っていた。この記事の意図するものは明らかに株価操作である。言うまでもなく、フジTVがニッポン放送の発行株式の25%を取得できるかどうかが、投資家の関心の的になっている中で以下のような記事が書かれている。
フジの逆襲
フジテレビはニッポン放送のTOB(株式公開買い付け)で発行済み株式の24%を弱を確保していることが18日、分かった。フジ側は「TOB期間中なのでコメントできない」としているが、TOB成立に必要な25%超まで残り1%強。フジのTOBの成功が確実な情勢になった。
この記事を読めば明らかなように、「24%を確保したことをフジTVが表明した」とは一言も書かれていない。そこは夕刊フジの取材で「分かった」と書かれているだけで、何を根拠にあと1%の所までTOBが進んだと判断しているのかは、一切説明されていない。言い換えれば、夕刊フジは、フジTVによるTOBがもう少しで成功しそうだという、根拠無き情報を流しているわけで、これは、明らかにライブドアの株価の下落を狙ったものである。こうした記事はジャーナリズムもしくは公器たるメディアの文章とは呼べない。典型的な「プロパガンダ」と考えるべきである。
もっとも、ライブドアvsフジテレビという構図のもとで事態が進行している中にあって、こうした記事を出すこと自体を非難しようとは思わない。要は企業防衛のため、なりふり構わずライブドアに対して情報戦を仕掛けているということにつきる。しかし、フジサンケイグループ自身が、企業論理をむき出しにしてメディアを武器にライブドアと戦っている以上、「メディアは公器」であるという議論を今回の問題に持ち込むことは、全く無意味だということを指摘しておこう。
ガバナンス構造が招いた今回の問題
もうひとつの論点は、相も変わらずの「攘夷論」である。リーマンブラザーズの存在がやり玉にあがっているが、外資の投資銀行が、日本のメディアの経営に影響力を持ち、言論を操作しようなどという面倒臭いことを考える筈がないことは議論するまでもなく明らかである。彼らは投資に対してリターンがどれだけとれるかを考えているだけであり、その観点からすれば、ライブドア堀江社長の志もフジテレビのプライドなどもどうでも良い問題だ。
外部資本との関わりで問われているのは、実はフジサンケイグループ側のポリシーである。
というのもフジテレビ、ニッポン放送がそもそも上場を果たしたのは、資金調達に加えて鹿内家の経営に対する影響力を排除することがそもそもの原点にあった。今回の問題の大元になっているのが、かつてフジサンケイグループの中で独裁者のように絶大な権力を誇った鹿内信隆氏が、グループを掌握するためにニッポン放送を持ち株会社として位置づけ、その上でニッポン放送の筆頭株主となるというグループ支配の構造を作り上げていたことであり、堀江氏は、その支配の構造うまく利用してフジテレビに対する影響力を獲得しようとしている。一方、フジテレビの日枝会長は、フジテレビ、ニッポン放送の上場によって、資本の独裁構造を正し、鹿内家の影響力を排除し、経営のオープン化、民主化を進めた功労者である。日枝氏自身はフジサンケイグループをさまざまなステークホルダーに支えられた、より開かれたメディアグループに進化させていくことを願っているだろう。村上ファンドや今回のライブドアの問題では、その構造転換の過程で生じた狭間をうまくつかれる形になった。
明治維新の際もそうであったが、「攘夷論」は、この国の純血主義と呼応する傾向があり、分かり易い分だけプロパガンダの材料になりやすい。夕刊紙で株価操作をしているくらいならまだカワイイものだが、血迷って「攘夷論」に飛びつくことは慎むべきである。「日本のマスコミが外資に操作されるのはいかがなものか」と発言する麻生太郎のような低脳な日本の政治家の言説の尻馬に乗っていると、確実に外資や通信・IT産業から見向きもされなくなるだろう。世界の資本や他産業との接触を忌避して「穴熊」となってしまうのは、激変するメディア産業の中で「冬眠」すると宣言するのにも等しく、それは結果としてフジサンケイグループの死を意味する。「攘夷論」と組してはならない。
(カトラー)
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コメント
カトラーさん、トラックバックありがとうございました。今回のホリエモンの話では、受け止め方が二極に分かれていて、その人の主義主張や生き様がわかるようで面白いですね。わたしの受け止め方はカトラーさんに近いように思います。
投稿: 湯川 | 2005.02.21 10:59
katolerさん、またまたトラバさせていただきました。
それにしても、せっかくフジテレビが変身する「きっかけ」をホリエモンが作ってくれているのに、シカトはないんじゃないの?
「きっかけはフジテレビ」ってCMで連呼しといて、あれはないんじゃないか?と思います。
投稿: napo | 2005.02.21 17:17
まさに正論だと思います。それにしても、25%を目標にしたというところから、フジテレビ、大和証券SMBCの敗北だと思います。それでは、ライブドアに勝てません。何を騒いでいるんだろうと思います。
それにしても、森さん、麻生さんたちは、どの問題にしても時代遅れというか、とんちんかんというか、困った人たちですねぇ。
投稿: 大西宏 | 2005.02.22 19:14
>外資の投資銀行が、日本のメディアの経営に影響力を持ち、
>言論を操作しようなどという面倒臭いことを考える筈がないことは
>議論するまでもなく明らかである。彼らは投資に対して
>リターンがどれだけとれるかを考えているだけであり、
>その観点からすれば、ライブドア堀江社長の志もフジテレビのプライドなども
>どうでも良い問題だ。
ここのところ、同感です。
危機感を訴えている人もいるようですが、外資は結局取引でどれだけ利益が出るかしか考えてないですよね。
投稿: tamago | 2005.02.28 16:54