マツケンサンバ・ブームのLong tail構造
海外メディアまでも注目しているということは、先のエントリー記事「n個のヲタとマツケンサンバ」でも紹介したが、わに庭さんから以下のようなトラックバックも
うちの子のクラスでは最後に「マツケンサンバ」を唄って踊ることに、いつの間にか決まったらしい。 先生も、こんなクラスにしようとは思っていなかったと思う。 ものしずかな女性である。困惑してるだろうなぁ。 全員踊りまくって、強制的に、一緒に踊らされているらしい。 そして、クラスの音楽の時間の終わりになると、他のクラスから廊下に数人飛び出してきて、 やはり廊下でも踊っているらしい。 学年でも、うちのクラスだけらしい。何故だ!さすが、わに庭ママのご子息が通学されているとあって素晴らしい小学校である!先生以下、クラス中が腰を振ってマツケンサンバを踊る光景を想像して爆笑してしまった。他の小学校でもこれにならえば、いじめ問題などは吹っ飛ぶに違いない。
老若男女かかわりなく「マツケンサンバ」が次々と伝染、蔓延していく様を、幕末の「おかげまいりの再来」と評する人もいるように、まさに国民的パラノイアに進化しつつある。
東京ドームのイベントに参加していた人々も、先のエントリー記事の中でも紹介したように種々雑多で全くとらえどころがない。セグメントされたターゲット市場に向けて、メッセージを発信することでいかに顧客のニーズや満足を獲得するかというのがマーケティングの課題だとすれば、そのマーケティングという考え方そのものが破綻していたのである。
「こういうイベントは誰かが仕組んでできるものではないな」というのが、その時、現場に立ち会った私の率直な感想であった。
マツケンサンバとLong tail
ネット・マーケティングの分野で、「Long tail(長いしっぽ)」という考え方に関心が集まっている。
これまでマーケティングの世界では「80:20の法則」という常識が存在した。どんな商品でも全体の売上の80%を占めるのは、実は全体の2割のコア・マーケット(=中心顧客)になるという法則だ。とすれば、マーケティングの課題とは、いかにこの「2割」の顧客を顕在化(ターゲット・セグメント戦略)させて、効率的にメッセージを送り込んでいくかということになる。ところがインターネットの登場でこの常識を根底から覆す状況が生まれてきている。つまり、従来であれば全体の8割を占めるはずの2割(コア・ターゲット)よりも、その他の8割(ロング・テイル)が占める売上の方が大きくなるという現象が生まれ始めているのだ。
言い換えれば、ニッチの集積がコア部分を上回り、80:20の法則は成り立たなくなるのではという仮説である。こうしたLong tail 現象を示す例証に引かれるのが、Amazon.comの書籍の売り上げが、ベストセラーよりもニッチな少部数の書籍の売り上げの集積が伸長しつつあることや、GoogleやOvertureが提供している検索キーワード広告でも、中心となるコア・キーワードよるアクセスよりも周辺部のニッチ・キーワードによる集積の方が大きくなる現象が生まれているという話だ。
この仮説をマツケンサンバ現象にあてはめるのは、多少、強引かも知れないが、私が東京ドームで抱いた感想やわに庭さんの「これは一体どういうことなの?」という疑問に答える鍵になるかも知れない。
マツケンサンバのブームは直接には、インターネットとは関係がない所で発生してきたように見える。しかし、そのブームの構造を見ていくとこの「Long tail」の仮説を体現していることがわかる。
マツケンサンバブームの起源と構造
マツケンサンバの起源、発祥の地は、松平健が中年の暇なオバサン(失礼!)方を相手に歌謡ショーをやっていた新宿コマ劇場である。そもそもはオバサンたちを喜ばせるために「マツケン・マンボ」(1987年)というアトラクションとして発案されたもので、ショー全体の中での単なる余興に過ぎないものであった。それが、マンボからサンバへと発展し、松平健が本来的に持っていたゲイ・ピープルとしての感覚が吹き込まれ、マツケンサンバⅡに進化するに至って、新宿コマ劇場という狭い空間を飛び出すことになる。どこに飛び出したのか?そのひとつは「新宿2丁目」である。私は出入りしているわけではないので、この点については伝聞になるが、新宿2丁目を中心としたゲイバー、ゲイパブのアトラクションとしてマツケンサンバはかなり早い時期からポピュラーな演目になっていたという。新宿2丁目のコミュニティでレビューされるということは、ショー・エンタテイメントビジネスやテレビ関係者に伝播するということを意味する。この時期(2003年頃)を境にマツケンサンバⅡは、メディアへの露出にドライブがかかっていき、その流れが頂点に達しブレイクしたのが、昨年末の紅白歌合戦であった。「紅白」全体は史上最低の視聴率に終わったわけだが、その中にあってマツケンサンバだけが最高視聴率をマークし、ひとり気を吐いた。
日本中にブームを巻き起こしたという意味では、かつてのピンクレディのUFOなどと比較できるだろうが、マツケンサンバの方がブレイクに至るまでの潜伏期間が圧倒的に長い。UFOの場合はメディア主導型であり、ピンクレディのファン層(2割)を中心にブームが起動し、その他の層(8割)に広がっていくという、まさしくマーケティングの教科書通りの展開を示した。一方、マツケンサンバの場合は、メディアの役割はあくまでも補助的なものであり、むしろブームを後追いしたに過ぎない。マツケンサンバは、あたかもウイルスが宿主を乗り換え、その度に突然変異を繰り返しながら増殖するように、長い潜伏期間を経ながらブームに転化していったのだ。
n個のヲタ=ニッチ市場の集積がブレイクにつながった
そして、ここ最近のブレイク現象は、あたかもマツケンサンバ・ウイルスが一気に感染爆発したような様相を呈している。もともとは「スギリョウ菌」などとともに新宿コマという限定された場所で、「オバサン」という動物?だけに感染していた「風土病」だったマツケン・ウイルスは、新宿2丁目に飛び火してゲイ・ピープルの間でも広がり、アーティスティックな感覚とエンタメ性を付与されて、一般ピープルへの感染力を飛躍的に高めたと考えられる。
こうして見てくると、マツケンサンバ・ウイルスが増殖するために不可欠なのは、宿主である。しかも、その宿主はヲタ性を持っていなければならない。n個のヲタが存在する土壌があって、このウイルスはn倍化することができる。言い換えると、n個のヲタが抱えるニッチな市場の集積(Long tail)がマツケンサンバのブームを構成している基本構造なのである。
さて、話を冒頭のわに庭さんのご子息の件に戻そう。マツケンサンバのウイルス的感染構造について理解できたとしても、「だから何なの?」ということになるだろう。そうなのだ、分析や評論というのは、現実に対して無力な場合がほとんどである。結論からいえば、このウイルスに対処する方法は存在しない。その意味で不治の病である。
ウイルスというと悪玉扱いされるが、ウイルスの専門家から言わせると宿主の遺伝子がむしろウイルスを呼び寄せているという見方もできるらしい。人類の遺伝子は外部のウイルスの力、遺伝子情報を使って進化を遂げてきたという面もあるということだ。人間、本当に嫌なことはできないもの、息子さんと一緒に踊っているという音楽の先生も結構普段とは違う自分を発見したりして楽しんでいるのでは?
今のところこのウイルスは、「毒にも薬にもならない」という評価を与えられており、人間社会に対してニュートラルポジションを保っている。その専門家によれば、ウイルスというのは実は「常に意図を持っているかのよう振るまう」そうなのだが、マツケンサンバ・ウイルスに何かしらの隠れた意図があるとすれば、それは、この世にヲタ族を蔓延させることではないかと密かに確信している。日本中の小学校の朝礼でマツケンサンバが流れ、世界中の紛争地域でもヲタが、マツケンサンバを踊り出せば、もっとましな世の中になるかも知れない。
(カトラー)
Long tail に関する参考サイト
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コメント
授業参観で踊らない、という理性は、約半数が残していたようですが。
今年のうちの子のクラス、何やるかわからないタイプが多い様子です。
それまでも、音楽の時間にノリはじめると止まらなくなっていたみたいなんですけど。
ある日、スカートはいてきた男子がいたそうです。理由「かあさん、スカートとズボンってどう違うの?」「あ、私の古いのはいて一日学校行ったら?」そのうちは男兄弟です。論より証拠、と、思ったのでしょう。その子はガタイのデカイスポーツマンです。頭は坊主狩りです。一応、勝負パンツ(ティラノサウルス柄)で登校して「あんな動きにくいもん、二度とはかねぇ。」が結論。親も子も、大胆すぎます…。
これは、うちの話ではありませんからね!
投稿: わに庭 | 2005.03.21 14:08
はじめまして。
「ポトラッチ」&「ライブドア」という検索ワードの組み合わせで、貴サイトにたどりつきました(笑)。今回のマツケンサンバのエントリーといい、大変読ませる面白いブログだと思います。
これだけの質のものを維持するのは大変でしょうが、是非更新を頑張って下さい!
投稿: 児玉 | 2005.03.23 22:13
こんにちは。
LongTailとマツケンという組み合わせ、はじめ不思議な感じがしてましたが、おかげさまでLongTailのことがよく分かりました。
TBさせていただきましたのでご報告します。
投稿: テサラック | 2005.04.08 14:08
ここで特集やってますよ!
http://www.ongen.net/
投稿: 平田 | 2005.09.27 10:29
Hello. And Bye.
投稿: Incupeeasesee | 2010.12.27 04:16