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絶望して去る人と絶望もできずに徒党を組む人々

ネットは新聞を殺すのかblogの湯川さんが、憤っている。
地方新聞の記者の立場にありながら、ブロガーとしてマスコミや新聞ジャーナリズムが抱えている問題に鋭い発言をされていたガ島通信さんが新聞社を辞めることになったというのだ。私はガ島通信さんとは一面識もないので、辞められることになった詳しい事情はわからない。ただ、湯川さんは、問題は「ガ島さんが新聞というものに対して絶望した、ということだ」と断じ、その「絶望感」が、実はガ島通信さんだけのものではなく、ジャーナリズムを志して新聞の世界に入ってきた若い人たちにも広がっていると指摘している。そして、そうした絶望感を生み出しながらその現実に対して無自覚もしくは見て見ぬふりをする新聞マスコミ界の体質に深く憤っているのだ。

ライブドアのニッポン放送株のTOB問題にからんで、ニッポン放送の社員が声明をだした。
いわく「私たちニッポン放送社員一同はフジサンケイグループに残るという現経営陣の意志に賛同し、ライブドアの経営参画に反対します。」
ニッポン放送には、知り合いもいるのであまり非難めいたことは言いたくないが、この声明には、ガ島通信さんや湯川さんが共有されている「絶望感」のカケラも存在しない。この声明は端的にいえば「徒党を組む」ことしか眼中にない人々の言葉である。徒党を組むことが必ずしも悪いとはいわない。力のあるものに対して力の無い者たちが戦うためには力を合わせなくてはならないのは当然のことだ。しかし、本来、労働組合のような社員組織であれば対峙すべき「現経営陣の意志に賛同」してまで徒党を組み、戦わなくてはならない「ホリエモン」という相手は一体何者だというのだろう。モンスター(怪物)やヒトラーのような人物だともいうのだろうか。ニッポン放送の社員の名誉のために言うが、私はこの声明がニッポン放送の社員全体を代表しているものかどうか甚だ疑問に思っている。少なくとも私の知っているニッポン放送の社員は、見境もなく経営陣の意向に同調したり、徒党を組んで既得権益を守ることに汲々とする人たちではない。

繰り返して言おう。この声明に同調した「ニッポン放送社員」と称する人々の言葉には、ガ島通信さんや湯川さんが抱いている絶望感のカケラも存在しない。そして、最も絶望的な状況というのは、人が「絶望感」さえも持てなくなってしまった状況に他ならない。

 これは私の妄想に近い信念だが、人は本当に深く絶望する時、そこに真の希望が生まれてくると信じている。湯川さんが指摘されるように、ガ島通信さんの転身の背景にメディアの現状に対する深い絶望が存在するのだとしたら、それは悲しむべきことだが、むしろ逆に希望への門出を意味するのだと考えたい。

希望ということに関して魯迅の「故郷」という作品に好きな言葉があるので門出のはなむけに紹介したい。

「・・・(前略)・・希望という考えが浮かんだので、わたしはどきっとした。たしか閏土が香炉と燭台を所望した時、わたしはあい変わらずの偶像崇拝だな、いつになったら忘れるつもりかと、心ひそかに彼のことを笑ったものだが、今わたしのいう希望も、やはり手製の偶像にすぎぬのではないか。ただ彼の望むものはすぐ手に入り、わたしの望むものは手に入りにくいだけだ。  まどろみかけたわたしの目に、海辺の広い緑の砂地が浮かんでくる。その上の紺碧の空には、金色の丸い月がかかっている。思うに希望とは、もともとあるものとも言えぬし、ないものとも言えない。それは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」

魯迅作「故郷」より

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コメント

はじめまして。いつも興味深く読ませていただいております。
今回のガ島さんの一件、同じ業界に身を置く一人として複雑な心境で皆さんのご意見を読ませていただきました。それに、タイムリーなだけかもしれませんが、ガ島さんのこととライブドアVSフジテレビ問題と、実は問題の根源は同じところにある…、という気持ちでいたので、大変このエントリーに共感しました。TBさせていただきます。これからもエントリー楽しみに読ませていただきます。

投稿: テサラック | 2005.03.07 00:00

 はじめまして、TBありがとうございました。
 ちょっと不躾だったかもしれませんが、関連エントリーを3つ連続してTBさせていただきました。
 これからもよろしくお願いします。

投稿: stochinai | 2005.03.07 10:09

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