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n個のヲタとマツケンサンバ

matsuken_kyoudou3月8日は、誰が決めたかしらないが、サンバの日で、「マツケンサンバⅡin東京ドーム」の公演日だ。前の記事でも報告したが、Tinkleさんのブログでドーム公演のことを知り、思わずチケットを購入してしまった。数時間前まで参加していた「マツケンサンバin 東京ドーム」は大変な盛り上がりであった。世の中の評論家の皆さんは、こうしたイベントを社会現象として「あーだ」「こーだ」と解釈・分析するのだろうが、そうした言説のほとんどは余計なお世話である。現場に来なさい、そして踊りなさい。

マツケンサンバ現象は、東京ドームを越えて今や世界に広がろうとしている。2月17日付けのニューヨークタイムス(要登録)がマツケンサンバを大きく取り上げていた。「暴れん坊将軍」という言葉を「The Violent Shogun」と訳していたのは、ちょっとあんまりだぜと思ったが、内容としては、日本の深層で進行している社会の変容をマツケンサンバ現象から鋭く分析しているなかなか読み応えのあるものであった。特にゲイカルチャーとの関係にまで言及し、「マツケンの本来のマッチョイメージに女性的なものが加わったことで大きなインパクトが生まれた」という明治学院大学の講師でゲイ作家の伏見憲明氏の見解を紹介している。

The shows also developed a following in Japan's gay subculture, said Noriaki Fushimi, a gay author and lecturer on sociology at Meiji Gakuin University. The image of "Matsuken" (as Mr. Matsudaira is familiarly known) featured prominently in gay festivals last year in Sapporo, in northern Japan, and Shinjuku 2-chome, the gay district in Tokyo. "Matsuken's original image was that of a samurai, a macho image," Mr. Fushimi said. "And there was a huge impact when someone who had a macho image, a sophisticated samurai image, absorbed a kind of femininity."

私の前回の記事でもマツケンとゲイカルチャーの関係について指摘したわけだが、ついにニューヨークタイムスも取り上げるところとなり、まさに世界的なトピックになった。

matsuken_kourakuen2
東京ドームの公演だが、2部構成になっており、第一部は白馬に跨って登場したマツケンがメドレーで歌う歌謡ショーである。これが美川憲一ばりのギンギラ女王様系のコスチュームとオネエサマ発声で独特の世界を醸し出していた。「暴れん坊将軍」のイメージしか無い人たちが見たら、この姿にはたぶん度胆を抜かれたことだろう。第一部でもマツケンサンバは歌われたが、観客の多くは、まだ鑑賞モードのまま。しかし、第二部になって私も含めサンバ券を握りしめた観客(約1万人)が一斉にグランドに降りてサンバタイムとなると雰囲気がガラリと変わった。
マツケンサンバの振付指導などもあり、いやがうえにも盛り上がり、再度、マツケンが舞台に登場する頃には会場は最高潮に達していた。1万人を越える人たちが一斉に踊り出す様はなかなか壮観である。踊りの渦の中で、気がついたことがある。ロックコンサートなどと違って、アーティストに煽られて踊らされているという感じではないのだ。マツケンは単なる触媒に過ぎず(失礼)、気がつくと皆、自分で踊り出している。別の言い方をすれば、マツケンはアジテーター(煽動者)ではない、もっと的確に表現するとすれば「巫女」である。巫女であるがゆえに、マツケンという人物が暴れん坊将軍であろうがゲイであろうが1万人が踊り出した時点でそれはドウデモよくなり、「マツケンサンバ」という神が降臨する。

n個のヲタが2万人、東京ドームに集まった

私とグランドで一緒に踊っていた人々は、本当に様々なひとたちであった。右隣はOLの2人組、前は初老のオバサングループ、左隣は若いカップル、後ろには子供連れの家族連れが来ていた。たぶん生活パターンも趣味志向も考え方も全く異なる人々であろう。広いグランドを見渡すと、マツケンルックできめている人もいれば、ナース姿やハリーポッターの魔女などコスプレスタイルの女性達、スーツ姿にちょんまげのヅラだけを頭にのっけたサラリーマンなど全く脈略の無い人々が一心不乱に踊っていた。マーケティング的にいえばクラスターとして括れない塊である。この人たちの共通点は何なのだろうと考えていた時に「n個のヲタ」という言葉が不意に頭に浮かんだ。全く!私も含めてこんなことに血道を上げるなどアホなヲタ連中だ。一体何を考えてこんなことをやっているのだろう?
結論からいえば、何も考えていないのである。この文章の冒頭で「解釈することが余計なお世話」といったのはそういう意味である。あえていえば、東京ドームに集まって、2万人もの人間がサンバを踊るなどということは、全く無意味であり、くだらなさの極地であり、誰もほめてくれないことである。戦後60年を経過して、日本人はここまで無意味なことに没頭するような国民になったのかと戦前・戦中派の方々からは顰蹙をかいそうだが、私は声を大にして、何の役にも立たない、このヲタイベントを肯定したい。そして、マツケンサンバがヴァージョンⅡからⅢ、Ⅳとパワーアップして、「Samuraiの次はMatsukenだ」と世界のマツケンサンバとなり、ヲタ文化をグローバルスタンダードにまで高めていってほしいと切望する。

このイベントに並行して、マツケンサンバコンテストというのが行われ、全国から200組以上のグループが参加した。当日、優秀賞に輝いたグループがバックダンサーとして舞台に立っていた。どこかのダンス教室だと思うが、子供達を中心とした30人余りのグループが一糸乱れぬラインダンスをマツケンサンバに乗って披露しているのを見た時、不覚にも涙を流しそうになってしまった。さらに印象的だったのは、東京大学医科学研究所付属病院の医師と看護師のグループだった。夜勤の合間や勤務時間外に皆で練習してイベントに参加したという。心臓外科医の先生がマツケン役で、本物のナース姿の看護師さんたちが腰元ダンサーズだ。心臓外科医の先生は、学会を休んでこのイベントに参加したのだという。
ストレスの多い、多忙な職場環境の中にあって、こうしたアホなことに血道を上げられるというのはナント素晴らしい集団だろう。もし私の身に心臓手術が必要になった場合は迷わずこの人たちに命をあずけようと密かに決心した。

(カトラー)

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コメント

「n個」にひっかかりを感じてトラバです。
もちろん「えぬこ」ですよね。

投稿: わに庭 | 2005.03.09 19:19

>「巫女」である。
ぶはーっ!
拝見していて、飲んでいたコーヒーを噴出しそうになりました。
カトラーさん、筋肉痛は大丈夫でしょうか?
お疲れ様でした。今回もエントリー、楽しませて頂きました。:-)

投稿: fumi_o | 2005.03.09 20:16

コメント&トラバ、ありがとうございます^^
いや、素晴らしいイベントだったのですね!
この記事を読んで、マツケンサンバが何故こんなに支持されているのか垣間見えたような気がしました。
マツケンが巫女で、マツケンサンバという神が降臨する、というのは、ありありとその空気を想像できます。ちょっと神に触れてみたくなりました。
DVD、さがしてみようかしら・・・。

投稿: Tinkle | 2005.03.10 09:40

とうとう小学校にマツケンサンバ上陸ですぅ。
トラバ打ちました…。
うちの壁には歌詞が貼ってあります…。

投稿: わに庭 | 2005.03.20 14:07

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