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「今日も元気だタバコがうまい!」といえない時代

ikoi

前回のJT(日本たばこ産業)に関するエントリー記事

「最近の『禁煙ファシズム』『健康ファシズム』の蔓延はどう考えても行き過ぎだと考えており、天の邪鬼を自認するカトラーとしては、数年前からあえて『開煙』を宣言している」

と書いたところ、Domizさんから以下のようなコメントをいただいた。

Domiz さんは那須在住の環境ベンチャーの社長さんで、とても素晴らしいブログを立ち上げられている。そのコメントは、ユーモアに富み軽妙な語り口だが、筋金入りの環境論者として手厳しい指摘をされていた。

「私もカトラーさんに負けないくらいの天の邪鬼を自認していますが、タバコに関してはまだまだ締め付けが足りないと思います。かなりの『禁煙ファシスト』です。JTの経営などどうでもよかとです。
ある調査によると、喫煙者の7割以上が「タバコをやめたい」と考えています。そんな喫煙者を禁煙させにくくする要因がまだまだ日本には多すぎます。肉弾戦などもってのほか。可愛い娘に誘惑されたら、意志の固い私だって危ない・・・・タバコの有害性は健康面だけではありません。
葉タバコの乾燥に大量の木材が必要です。そのため、世界で毎年2,000k㎡の森林が伐採消失しています。世界中で薪として伐採される樹木のうち重量比で80%、森林伐採総面積の12%は、葉タバコの乾燥のためだけに消えており、毎年長野県ふたつ分の森が地球上から無くなっていることになります。タバコは健康被害だけではなく、環境破壊の面からも人類と地球の未来を危うくしていることは間違いない!。
http://www.who.int/tobacco/statistics/tobacco_atlas/en/
http://www.who.int/entity/tobacco/en/atlas16.pdf
また、タバコのフィルターはセルロース・アセテートとポリマーというやっかいなもので、分解まで長期間かかるため、環境を確実に汚染します。喫煙率が高く、ポイ捨てタバコの多い日本は、世界有数のタバコ汚染国家といえます。
JTに雇われた肉弾娘がそんなことは露しらず、『私ってエコにはうるさいの』などとほざいているとしたら頭殴ってやりたくなります。『おまえのお色気が環境破壊を助長してるんだこのボケ!』と・・・・・」

Domizさんの「タバコが健康被害だけでなく、環境問題の観点からも大きな問題を抱えている」という指摘は、これまでほとんど意識していなかったことなので大変学ぶところが大きかった。
また、タバコ会社のマーケティングのあり方については、健康被害の問題を長年にわたり隠蔽しつづけ消費者を欺いてきた歴史的経緯を考えれば、厳しく糾弾されて当然で、そのマーケティングや広告活動に対しても規制や監視が必要だという議論に賛成する。

議論をすれば喫煙者に分はない

タバコの害については、未成年者の喫煙や妊婦を通じた胎児への影響など子供にまで及んでいる問題も指摘されている。しかし、以前の記事でとりあげたように、ファーストフードやジャンクフードが人の健康を蝕んでいると批判されている場合とは本質的に異なる面があると思う。それは、先進国においては、タバコは大人の文化と定義されており、健康リスクを承知している成人が嗜好品として選択的に消費しているという前提があるからだ。肺ガンになることも覚悟しているという人たちが「それでもタバコを吸う」という自由まで奪うべきではないというのが私の基本的な考えだ。
といってもこうした議論は立場が弱い。副流煙による周囲に対する健康被害を裏付けるデータなどもあり、喫煙者は「それでもタバコを吸う」と大声ではいえないのが現状である。健康であることは、不健康であることより良いことであるのは自明の話なので、「健康」の話を盾に議論をすれば喫煙者に分がなくなるのは明らかだ。
だが、もともとタバコの問題がこうした対立の構図の中で成立してしまうこと自体が不幸なことであり、貧しいというか少し子供っぽい感じがする。さらにいえば、人が吸っているタバコの煙の害が、何よりも気になるような関係性しか他者との間で取り結べなくなってしまったことのほうが「病的」だとはいえないだろうか。副流煙の健康被害に関する科学的データを認めないといっているのではない。そのデータが独り歩きして、いたずらに周囲の喫煙者に対する攻撃材料になったり、「他の誰よりも長生きしてやる」という、果てのない「健康幻想」の補強材料になってはいないかということだ。

健康の話に生まれやすい排他意識

健康の話で注意しなくてはならないのは、「人間は健康であるべき」というテーゼと「自分の健康は自分で守る」という自意識が組み合わせられると、往々にして強烈すぎる排他意識が生まれてきてしまうことだ。電車のつり革や他者が触れたものに付着した細菌が気になって、何であれアルコールで拭かないと気が済まないという「雑菌恐怖」という神経症がある。こちらの方は明らかに「病気」という分類に入れられるが、タバコの問題についても、時として同じような自他意識の歪みあるいは未成熟が目についてしまうことがある。少なくとも、一部の人々が主張しているようにタバコを麻薬並みに禁止すべきだという議論は、ほとんどビョーキに近いのじゃないかと思う。大人になるということは、本来、清濁併せのむという言葉があるように、「穢れ」や「リスク」を受容することでもある。タバコを吸うという行為は、もともと体に悪いことだから意味があるのだといったら、健康至上主義者の方々からは顰蹙をかうだろうか。

タバコというと思い出す情景がある。幼い頃、父親に言われて、よく近所のタバコ屋に「いこい」を半箱買いにいかされた。当時は、まだ貧しい時代でタバコをバラ売りしていたのだ。その買ってきた「いこい」を父親が1日の終わりにうまそうに一服する姿を見るのが好きだった。また、隣家のばあさんが、縁側でひなたぼっこをしながら煙管をやっていて、子供心に大人になったら俺も煙管を吸ってみたいと考えていた。思えばこの頃は、人とタバコの関係は、牧歌的だった。「いこい」のポスター広告をネット上で見つけたので紹介したが、そこでうたわれている「今日も元気だタバコがうまい!」というコピーは、この時代の雰囲気や活力を伝えていて郷愁さえ感じられる。それにひきかえ現代の喫煙者たちは明らかにタバコの吸い過ぎで、その関係は依存症的、神経症的になってしまった。「タバコは大人の文化と定義されている」と言ったが、今やそうした言い方は現実からかけ離れているだろう。タバコは単なる暇つぶしの道具であったり、ストレス緩衝剤あるいは依存物になってしまった。そう考えると「禁煙ファシズム」によってタバコをいったん取り上げてしまった方が、大人の文化がどうのこうのと言う前に、Domizさんが指摘されているように「タバコを止めたい」と考えている7割の人々にとっては、ひょっとするとハッピーな選択になるのかもしれない。

最後につけ加えれば、JTのキャンペーン・ギャルの色香に迷い、鼻の下をのばして、長いこと吸っていなかったタバコに手を出した私の行いなどは「大人の文化」とは全く関係がないことはいうまでもない。

(カトラー)

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コメント

愛煙家のカトラーさんのお気持ちは充分お察し致しますが,禁煙運動の世界的な高まりは,喫煙によって生じるとされる肺癌,慢性肺気腫などの治療法がいまだに見つかっていないことが最大の原因です.もちろん愛煙家で長寿の方も多くいらっしゃいます.しかし肺癌や慢性肺気腫などの病気の罹りやすさ,は多分遺伝的に決まっているだろうと推測されています.遺伝的にこれらの病気に罹り易い人が喫煙をすれば更に罹り易くなる,という推論です.国立ガンセンターの抗がん剤の臨床研究をされている先生によれば今世紀中に肺癌を治癒し得る抗癌剤の開発は難しいとのことです.もちろん医療費の削減というのが国としては非常に大きい.専売品であるタバコからの収入が減っても長い目で見れば医療費削減につながります.そういえば喫煙の害,放射線の害などを最初に伝えたのは戦前のナチス・ドイツなそうです.「健康帝国ナチス」という本に書いてあります.私自身はあまり過激な禁煙キャンペーンは嫌いですが,知り合いにはタバコは止めたほうが良いよと云っています.それではお元気で!

投稿: tantanmen | 2005.04.04 08:42

僕はタバコを吸わないので分煙、禁煙が進むのはうれしいですね。
吸いたい人は吸ってもいいと思います。

将来の健康に害が出るから分煙・禁煙が嬉しいわけではなくて、
タバコの煙を吸いますと、まずその場で頭痛がしてきます、気分が悪くなってきたりするので、嬉しいです。

煙が充満しやすいところは近寄りませんね。

投稿: sasaking | 2005.04.04 11:55

『禁煙ファシズム』『健康ファシズム』に白旗を振って、4週がすぎました。食欲がでてきたので要注意です。
それはそうと、反捕鯨運動のような、人の国の文化を土足で踏みにじるファシズムも困ったモノだと感じます。

投稿: 大西宏 | 2005.04.04 16:27

開煙を宣言していますが、普段はタバコを吸っていません。健康でいたいとは思いますが、東京で暮らしていること自体、不健康なことなので「健康生活」は半分あきらめています。健康増進法の施行などでタバコの規制が強化されているのは、国民の健康を思っているというよりは、tantanmenさんがおっしゃるように医療費削減という大目的が先に立っているのかも知れませんね。税収の方は、消費税という打ち出の小槌を手に入れたわけですから。
sasakingさんのような「吸いたい人はすってもいいよ」といってくれる寛容な非喫煙者がいてくれることで、世の中の風通しが良くなるのだと思います。「健康帝国ナチス」だけは、死んでも御免こうむりたい。でも、大西さんには「禁煙」がんばってくださいとエールを送ります。

投稿: katoler | 2005.04.05 17:07

私は葉巻を吸います。
見た目は普通のタバコと同じような大きさのミニシガリロというのをおもに吸っているのですが、やはり臭いがかなりキツいので吸う場所には気を使っています。
シガーバーのようにお店丸ごと喫煙オーケーならいいのですが、たいていは禁煙席と喫煙席がしきりもなく分けてあるだけ。エアカーテンなども無いお店がほとんどです。
私は吸わなければ吸わないで全然平気(半年吸わないでも平気でした。)なので、吸える場所に行ったときに葉巻を持っていれば火をつける程度ですが、タバコ飲みからも完全分煙でのびのび一服できる場所が増えてほしいですね。

投稿: 通りすがり | 2005.04.13 01:45

bunと申します。


17年間一日30本吸ったのち禁煙して7か月目という、この論考にはメインゲスト的確な経歴の持ち主であろうと自負しております。行き届いた議論で気持ちよく拝読しました。上のコメントにも散見されますが嫌煙権論者は論破のされかたとか試合や喧嘩の負け方が実に下手くそで心底見苦しいので、ついいたずら心でその見苦しさを見たくなるのです。こんなクソガキに俺の個人的な嗜好を云々されてたまるかと、人を不必要に意地にさせる無粋さがありますな。嫌煙論者の側にも、一人の人間のタバコをやめさせるためなら、喫煙所に堂々と立ち入り、一時的にはやむなく数本吸いながら説得するくらいの趣向が欲しいところですね。喫煙所の外から指さして軽蔑されたからといってやめるやつはいないのですから。
自分の言うことが聞かれなかったときの芸のなさたるやひどいもので、あんなつまらない人間になるくらいだったら俺はむしろどんどん吸ってやろうかと思わせるのに十分なものがあると思います。裏目っているのに気づいていない。#そうそう、このコメントに言及するのは
やめてくださいね。嫌煙権者諸君。イライラして吸いたくなるのもなんですから(笑)。

投稿: bun | 2005.04.14 19:25

煙草を二十歳になってから吸い始めるというのは、二十歳になるまでにどのような情報を受けていたか疑問を感じ心配になってしまいます。
大抵の喫煙者は未成年の十五・六か遅くても十八位に勧められたり、日常的に大人が吸っているのを見ていて、背伸びして吸ったりするのではないかと思います。
そして正しい判断ができる二十歳頃には習慣というか中毒となっていて止めたいと思ってももう手遅れ状態です。
そのような止めたいが止められない状態が何十年も続き、四十歳頃に体の調子が悪くなって死を覚悟した時に止められるのでしょうか。
嫌煙者は長生きしたいからと言うよりも、健康で逝きたいと思っているだけでしょう。

投稿: くり | 2005.04.20 11:20

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投稿: assoftetililt | 2011.05.13 12:01

煙草を吸う場所の選択肢をなくしている
真犯人は誰か?

それは、ところ構わず吸わないといられない
=吸う場所を選べない
そういう状態に追い込んでいる人、あるいはモノ。

ということに行きあたりました。

まあ、私は今の状態、ってのは、
元々の自分の喫煙スタイルを
変えるほどのアレじゃないので
たいして苦労はしてませんが。

それはそうと、

筆者さんが、ただ単に被害を避けたいだけの
苦痛を味あわわされたくないだけの人々の
動機やらなにやらを
一生懸命悪いように、そして劣っているように
表現しているのが、
ああ、筆者さんは煙草、ほんとは好きじゃないんだな
というのが痛いほど伝わってきました。

昨今の規制とその反応は、
本当の煙草好きと、
そうでない、実は好きじゃない人を
はっきりと分けた感が
個人的にはありますね。

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