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チャイナ・リスクに備えよ

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呉副首相、小泉首相との会談中止 「緊急の公務」と帰国
 23日午後に予定されていた小泉首相と中国の呉儀(ウー・イー)副首相との会談が、「国内の緊急の公務のため」とする中国側の申し入れで急きょ中止になった。(asahi.comより)


冷え込んだ日中関係の関係改善のきっかけになるかと思われた中国の呉副首相と小泉総理大臣の会談が一方的にキャンセルされ、後味の悪さが残った。

これまで想像の域内の事柄であった「チャイナ・リスク」の問題が俄に現実味を帯びだしている。Nikkeibp.jpでチャイナ・リスクをテーマにした連載が始まり、ユニデンなど中国に進出している製造メーカーが、反日デモなどの動きを見て、中国にだけ軸足を置いていることに危機感を持ち始めているという実態がレポートされている。

潜在的に囁かれているチャイナ・リスクは、最近の反日ムード以外にもいくつかある。
第一には、元の切り上げ圧力である。財政赤字と貿易収支の赤字に悩み始めたアメリカが元の対ドルレートの切り上げについて正式に言及し始めている。中国政府は、当然こうした要求を無視、あるいはやり過ごす構えだが、通貨レートの問題は投機に直結しやすく、90年代後半の世界通貨危機を再び現出させないとも限らない。
これと関連するが、上海、北京など中国沿海部の不動産ストックは明らかにバブルを抱えており、既にその崩壊が始まっているという指摘もある。上海などでは、不動産バブルに湧いたかつての日本のように、都市労働者の生涯収入によっても購入できないレベルまでマンションの価格などが高騰しており、明らかに投機の連鎖が始まっている。投機が投機を呼ぶ循環に一度入れば、後は誰が最後にババを引くのかという問題になってくる。不動産に対する融資規制を始めたという話が伝わってきていることから、不動産市場で破綻が見え始めてくるのは時間の問題といってよいだろう。そして、こうした金融がらみの問題のひとつでも火をふけば、固定レート制によって保護され、国際金融市場での競争の荒波に揉まれていない、脆弱な体質の中国の金融機関はひとたまりもないだろう。
中国国営企業の抱える巨大な不良資産、それを担保している金融機関などが相次いで火を噴く可能性が顕在化しつつある。

こうしたチャイナ・リスクに関しては、これまでも指摘されてきたことだが、可視化されることがなかった。頭は共産主義なのに体は資本主義という原理的にリスクを孕む社会構造が外形的には破綻を見せずにやってきたのは、海外からの膨大な投資とそのことによってもたらされた年率で10%を超える高度成長がこうした矛盾を癒してきたからだ。しかし、仮に成長率が7%を切るようなことがあると、一気に失業問題が噴出してくる可能性があると指摘されている。成長スピードを緩めると転覆してしまう危うい均衡の中に中国経済が存在していることも事実なのだ。

靖国問題がリフレインする理由

今回の会談キャンセルなども含め、中国の高官が靖国問題に固執する背景を、日本の政治家の中で的確に分析していたのは、安部晋三だろう。安部はサンデープロジェクトのインタビューに答えて、中国共産党の正統性が、改革開放政策によって問われ始めているということを指摘していた。すなわち、経済システムでは、共産主義が標榜した「平等」なる世界は完全に瓦解し、貧富の差や都市と農村の経済格差は目を覆うばかりに拡大した。その結果、生み出された膨大な負け組の人民にとって中国政府は圧制者に映り始めている。そうした中にあって中国共産党が唯一、中国人民に対して統治の正統性を主張できるのが、日本の植民地支配に抗した「反日」の歴史を持っている点だ。
逆にいえば、この「反日」カードを切らないと、中国人民の中に生まれている矛盾圧力を押さえ込めなくなっているという見方もできる。つまり、「靖国問題」や「歴史認識」とは、中国にとって単なる過去の解釈や外交問題であることを超えて、共産党のガバナンスの正統性を思い起こさせる象徴になりつつある。小泉首相も含め日本の指導者は、この問題は両国間の過去の「歴史問題」としてけじめをつけ、さっさとこの先の「経済」の話をしようというのが基本姿勢だが、中国側は決してそうしたモードにはならないだろう。中国共産党にとってこの問題をリフレインさせることが、統治の求心力を保つ手段になっているからで、経済的な損得勘定を度外視してもナーバスに反応してくることが予想される。

中国の孕むリスクは原子力発電所と同じ?

そして、経済発展によって急速に社会が流動化しつつある中にあって、「政治」が前面に出ていかなくてはならない状況自体が、実は最大のチャイナ・リスクということができる。
日本の高度成長の時代は、経済が人々を主導し政治は後衛に退いた。日本の大衆は「所得倍増計画」のかけ声に乗って、冷蔵庫、テレビ、洗濯機などを買い揃えることしか眼中になくなった。中国でも同じような中産階級が生まれつつあるが、それは社会状況の安定につながるというよりも、広範囲にわたって格差を生み出し、澱が溜まるようにリスク要因として社会の基層に沈殿しつつある。

私の知人の中国専門家が、中国を「原子力発電所」に例えていたことを思い出した。リスクがあることは誰もがわかっているのだが、それが存在しなくては我々自身が生きていけないということの例えだ。
仮に、チャイナ・リスクが原子力発電と同じ種類のリスクであるとすれば、それは、人類がまだ制御に成功したことのない、封じ込みが不可能なリスクであることを意味する。

(カトラー)

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Comments

はじめまして。gackと申します。

チャイナリスクが思った以上に高いことがよく分かりました。中国共産党が延命しようが、瓦解しようが、その反動は日本に大きく跳ね返ってくることが予想されます。一国の思想的ご都合主義に、ここまで振り回されていいものでしょうか?
日本への被害を最小限に食い止めるのは、中国共産党瓦解時に、反日思想は間違っていることを明確に示し、今までの教育や思想の間違い、経済的な不公平感を共産主義と中国共産党に押しつけることができた場合にのみ、可能かもしれません。
そのためには、民間レベルでの交流と客観性のある歴史観の構築が欠かせません。今すぐ歴史を再検証し、日中間で草の根的な共通認識を造り上げる必要がある、と感じました。

Posted by: gack | 2005.05.26 at 09:32 AM

gackさんコメントありがとうございます。
中小企業も含め、日本企業の多くが中国に進出し、おっしゃるように、中国と日本は好むと好まざるとに関わらず、運命共同体になりつつあります。政治がここまでギクシャクして、チャイナ・リスクに何の手も打てないのが、最大のジャパン・リスクかも知れませんね。

Posted by: katoler | 2005.05.31 at 08:30 AM

  まったく「日本帝国主義」をいつまでも断罪するのが唯一の現中国政権の正統性パフォーマンスの根拠なのかもしれませんね。
  国内の不満そらしという面でも、対米関係で、ともに対ファシズム戦争を闘った同士というアピールをする面でも。
  ということは、日本の政治家が先の戦争への肯定的発言や反省の否定を繰り返し、ヒールを演じるのは、中国政府にとって好都合なのでしょう。
  日中の政治家たちは、共謀はしていないでしょうが、共依存しているわけです。持ちつ持たれつの関係。
  いい加減、保守だ革新だ、謝罪だ開き直りだというループをぐるぐる回る消耗なことはやめたいと思うけど…そういう言論が好きな人も多いみたい。

Posted by: kuroneko | 2005.06.01 at 02:53 PM

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