新・禁酒法時代とコモンセンスの死
宮城県多賀城市で起きた暴走RV車の仙台育英高生死傷事件で、業務上過失致死の現行犯で逮捕された同市山王、会社員佐藤光容疑者(26)が事件前日の21日夜から直前の22日未明まで約7時間にわたり、3軒の飲食店をはしごして飲酒を重ねたことが23日、塩釜署の調べで分かった<河北新報より>
横断歩道を通行中だった仙台育英高校の生徒達に、飲酒運転の自家用車が突っ込み若い命が奪われた。自家用車を運転していた男は、その直前まで飲酒をしており、事故を引き起こした際には居眠りをしていたということであり、全く情状酌量の余地の無い、反社会的な犯罪事件といってよいだろう。
飲酒・酒気帯び運転に関連した交通事故が、急増しているという認識から、2002年に道路交通法が改正され、飲酒運転に関する罰則規定が大幅に強化された。新・禁酒法とでも呼ぶべき改正道路交通法のもとで「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」という標語とともにドライバーの間での「禁酒意識」は浸透しつつあるように見える。が、試しにグーグルで「酒気帯び運転」というキーワードでニュース検索してみると、この種の事件が、ほぼ全国的に発生しており、むしろ地方都市で多発している事実に気づく。地方では自動車に代わる交通機関がなく、従来から「酒気帯び運転」が常態化していたという現実が背景にあるのだろう。
目にとまったのは例えば以下のような報道である。
中央病院医師を減給2カ月
酒を飲んで車を運転したとして、県は26日、県立中央病院(甲府市)の女性医師(28)を、減給2カ月(10分の1)の懲戒処分とした。・・・ 県の調べでは、女性医師は4月29日夜、知人と昭和町のレストランで食事し、ワインをグラス半分ほど飲んだ。帰宅途中、警察の検問で酒気帯び運転が分かり、今月25日に罰金20万円の略式命令を受けた。<asahi.com山梨より>
レストランで食事をした際に飲んだ半杯のグラスワインによってこの女性医師は、罰金以外に職場では減給処分となり、こうしてメディアにも「犯罪者」として取り上げられることになってしまった。
しかし、この程度の減給処分で済めばよい方で、地方を中心に「飲酒運転」に対して懲戒免職などの厳罰でのぞむ地方自治体などが増えている。
富士市課長酒気帯び運転:逮捕の課長、基準通り懲戒免職 /静岡
富士市の職員が今月3日、道交法違反(酒気帯び運転)容疑で現行犯逮捕された問題で同市は13日、「刑事処分が確定した」として、この職員を同日付で懲戒免職処分にした。<毎日新聞・msnより>
富士市ばかりではない、高知市では、平成9年より飲酒運転は原則懲戒免職となるという規定を実施しており、この規定によって、現在までに22人が免職処分を受けたという。いくらなんでもこうした免職処分は重すぎるという声も上がっている。
処分取り消し求め申し立て/酒気帯び運転で懲戒免の元県立大教授/秋田
酒気帯び運転で昨年7月、旧本荘市(由利本荘市)で現行犯逮捕され、県立大を懲戒免職となった元システム科学技術学部教授(62)が、免職処分は重過ぎるとして、処分の取り消しを求めて県人事委員会に不服を申し立て、今月から双方の意見を聴く準備手続きが始まったことが27日、分かった<さきがけon the webより>
大学教授の免職というと、あの手鏡・植草早大教授のことが思い起こされるが、2日酔いでクルマを運転したこの秋田大学の先生も手鏡教授と同じような反社会的行為を行ったということになるのだろうか。
あえていわせてもらえば、私の「常識」に照らせば、ワインを半杯飲んでクルマを運転し、検問にひっかかった女医さんは、ナントモ運が悪かったということであり、ニュースにまで取り上げられ、減給処分まで受けなくてはならないような反社会的な行為を行ったわけではないと考えている。秋田大学の教授のケースも同様である。法律に違反したという点ではいっしょだが、手鏡・教授と同じ「免職」というのは、あまりにバランスを欠いているのではないか。
誤解してほしくないのは、私は酒気帯び運転を昔のように大目に見ろといっているのではない。法律は定められたように厳しく運用すればよい。問題は、企業や自治体の中で実施されている「社会的制裁」あるいは「暗黙のルール」の方である。
こういうと、「奴らはルールを破ったのだから仕方がない」という反論が返ってくるだろう。
では、そのルールとやらは、一体誰が何のために決めたものなのだろう。法律に定められた懲罰以上の制裁を何を根拠に科そうというのだろうか。
ルール至上主義に対する疑問
株取引やビジネスの世界ならいざ知らず、市民生活にまでルール至上主義を持ち込むことに少なからず疑問を感じている。ルールを持ち出す前に、常識(コモンセンス)というものを私たちはもっていたはずではないか。確かに「ルール!」と叫ぶことは聞こえがいい。曖昧なものがなくなり、フェアな感じがするからだ。しかし、「ルール」とは、そもそも「ゲーム」のために作られた「きまりごと」に過ぎない。
こうしたルールを叫ぶ原理主義者たちは、無意識にゲームに参加していることに気づいていない。彼らの無意識が欲しているのは、実はルールそれ自体ではなく、ゲームに負けてこぼれ墜ちていく落伍者たちの姿である。些細な過ちを犯し免職などの憂き目にあっている人々を見て、彼らは内心のどこかで「ざまあみろ」と喝采しているのだ。
地方新聞にこれほど多くの酒気帯び運転に関する記事が掲載されているのも、単に「酒気帯び運転」という事件に対する関心というよりも、むしろ、それによって免・停職、減給など社会的な制裁が科せられていることに向いているといったほうがよいだろう。要は、他人の不幸が見てみたいのだ。
この国は、いつからか常識(コモンセンス)を失い、原理主義者ばかりが跋扈する不寛容な世界になってしまったのだろうか。
(カトラー)
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コメント
酒の王国・秋田から㌧でまいりました。確かに「飲酒=免職」が重すぎるという意見があることは事実で、ある町の職員が県人事委へ審査請求した結果、処分が覆ったという事例もあります。
ただ秋田県は昔から酒飲みに対して甘いと言いますか、訪問先ではお茶より先に酒が出てくるという慣習があったようで、飲酒運転がさほど悪いことではないという認識の甘さがありました。これまで飲酒運転はスピード違反と同様「まず、運が悪かったスな」程度の感覚で、おっしゃるような社会的制裁はホトンド働いていませんでした。
このような状況への反省と対策として「飲酒運転ができないシステムをつくる」ため、秋田県では2003年5月から知事部局と県教委を対象に「飲酒運転で摘発されれば原則的に懲戒免職」との規則をつくりました。ご指摘のあった大学教授は、この規則の適用第1号だった訳ですが、この件で秋田県知事はわざわざ記者会見を開き、県民に対して陳謝しています。この免職規則は現在でも適用されており、知事も方針を変更しないと明言しています。
http://www.sakigake.jp/servlet/SKNEWS.News.kiji?InputKIJICODE=20050822i
決して“他人の不幸が見てみたい”ばかりでなく、酒の王国ならではの苦悩があることも知って頂きたく、コメントさせていただきました。
なお、“この秋田大学の先生”とありますが、免職になった教授の所属は『秋田大学』ではなく、正しくは『秋田県立大学』です。 失礼いたしました。
投稿: ぢぞう | 2005.09.28 09:41