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イナムラ ショウゾウのレモネード

inamura
パティシエ イナムラ・ショウゾウが大変なことになっていた。
オーナーシェフの稲村省三氏は、ホテル西洋銀座のパティシエをつとめていた頃からスイート好きの人々の間では、知られた存在で、2000年から谷中霊園に近接した上野桜木にこの店を構え、多くのファンから愛されている。この辺りは私の散歩のテリトリーなので何度か足をのばしてケーキを買っていたりしたが、久しぶりに出かけてみると、ナント!店の前に50人近い人々の長蛇の列ができていた。

イナムラ・ショウゾウは、行ってみればわかるが、谷中霊園に続く桜並木の一角にあり、周囲は民家のみ、ケーキショップはもとより商店のようなものは全く無い。地下鉄・千代田線の根津駅から歩くと、だらだらとした坂をのぼり、着くまでに15分はかかるだろう。つまり、こうして列をつくって並んでいる人々は私も含め、何かのついでに並んでみたのではなく、この店を目当てにやってきたということなのだ。デパートなどには出店せず、ここだけで営業している店なので全国から客が訪れる人気店であることは知っていたが、ここまでの状態になっているとは夢にも思わなかった。
一緒に並んでいた人たちの会話からすると、最近の日経新聞のランキングの記事でここのショートケーキがNo.1にランクされたのと、TBSの「チューボーですよ」という番組で取り上げられるなど、どうやらマスメディアに取り上げられた影響が大きいようだ。

私がこの店を気に入っているのは、ケーキがおいしいということはもちろんだが、この店の佇まいや周囲の緑、根津からテクテクと歩いてこの店にまで辿り着くプロセスそのものが好きだからだ。汗ばむような季節、このお店では、フラペチーノ(かき氷)なども出しており、店の前に置かれているベンチで、そうした冷たいスイートや買ったばかりのシュークリームなどをムシャムシャと頬張るのも楽しい。さらに特筆すべきは、イナムラ・ショウゾウの店内には訪れた客のために、無料の冷たいレモネードが用意されていることだ。青空に向かって蝉が鳴く季節、冷たいレモネードを手にした人々が木陰で涼をとり、緑を眺めながら喉を潤す情景はこの店の風物詩といってもよい。
たぶん稲村氏がデパートなどに出店せず、この地だけで店を開いているのは、この店を取り巻く木々の緑や静かな環境、そしてこの店を目ざして足を伸ばしてきた客とのふれあいそのものが「商品(=スイート)」であることを良く認識しているからだろう。だとすると、長蛇の列が出来ている今の状況は、この店が本来持っているシーンの喚起力を弱める結果になっており、稲村氏にとって見れば、うれしい反面、内心忸怩たるものがあるのかも知れない。

日経新聞のランキングでNo.1になったというだけあって、ショートケーキはもちろんのこと、この店のスイートはどれも絶品である。でも、イナムラ ショウゾウを何度か訪れたことのある「顧客」であれば、この店の最も心に残る「スイート」とは、ここを訪れた客に無料で供される1杯の冷たいレモネードであると答えるに違いない。

(カトラー)

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Comments

大阪人なので絶対並ばない人種だからというのではないですが、いい店もマスコミに紹介され、人が並ぶと雰囲気が台無しになってしまうということがあり考え物ですね。それにしても、谷中霊園に近接した上野桜木に店があるのも意外ですし、そのレモネードも読むだけで心が伝わってきます。いいお話ありがとうございました。

Posted by: 大西 宏 | 2005.05.25 at 06:44 PM

大西さん、コメントをありがとうございます。
平日は、長蛇の列ということはないようです。
東京に来られてお時間があれば、ぜひ足をのばして見てください。おすすめは、上野の森のモンブランです。

Posted by: katoler | 2005.05.31 at 07:47 AM

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