賃貸住宅の悦楽
日本の住宅市場や住宅政策は、どうしようもないほど「持ち家」に偏っており、いびつな構造になってしまっていることは、従来から指摘されてきたことだ。学生や独身者時代は安アパートで暮らし、結婚したら、新婚向けのちょっと小綺麗な3DKぐらいの賃貸アパートかマンションに住んで、頭金が貯まったらマンションか資力があれば戸建て住宅を購入して上がり!というのが、日本の平均的な勤労者の「住宅スゴロク」であった。このスゴロクに従えば、賃貸住宅は、持ち家取得までのつなぎでしかないことになり、ウサギ小屋以下と言われても返す言葉もないようなシャビーな住空間が、賃貸マンション、アパートという形で大量に供給されてきた。
私自身のことでいえば、35歳後半のいわゆるローン年齢を迎えた頃、周りは続々とマンション購入に走っていたが、とても買う気になれず、「カトラー家は、一生賃貸でいくのだ」と宣言して、商店街の製麺店の3階の賃貸マンションなどを逃げ回るように転々としていたのだが、子供が成長すると、そうした住居ではどうしても手狭になってしまう。もう少し、広い物件は無いのかと不動産屋を回ると、それだけ家賃を払うなら、マンションでも買われたらどうですかと逆にたしなめられてしまった経験がある。ことほど左様に、日本人の持ち家信仰は根強く、その分、賃貸物件市場がプアになるという構造が長く続いていた。
空間コンシャスな人々の登場
しかし、ここにきてようやくその構造が崩れはじめている。
有名な案件としては、都市機構(旧住宅都市整備公団)が手がけた東雲(しののめ)キャナルコートプロジェクトが上げられる。有名設計事務所を起用して、当時の公団が手がけた初の「賃貸デザイナーズ・マンション」として話題を呼んだ。この東雲プロジェクトは、現在、第6期目を迎えている。
また、最近になって、先のエントリー記事で紹介した「東京R不動産」のように、もともとオフィスや倉庫であった物件をリノベーションして、賃貸住宅として再生するという取り組みが続々と登場している。こうした流れの背景には、賃貸住宅だから享受できる空間の遊び心を評価する一方で、画一的なこれまでの住空間に反発する、新しい住み手の意識が生まれていると考えられるだろう。
今の30代の人々は、我々の世代が、バブル前後でマンションなどを高値づかみして大損をしているのを見ているので、「持ち家信仰」に洗脳されていない。それよりも自分なりのライフスタイルを表現してくれるような「空間」に対して強い感度と渇望を持っているようだ。建築雑誌でもないのにCasa Brutus(カーサ ブルータス)の建築特集が、一般の読者に支持されるのも、空間コンシャスな人々が市場に現れているからであろう。
ブルースタジオ 東日本橋プロジェクト(写真の物件) *写真の中央左寄りに見えるのはバスタブ
都市デザイン リノベーションユニット
ネット上でこうした物件を探してチェックして見るのも楽しい。
さて、どうでもよいことだが、カトラー家の住宅問題は、その後どうなったのかといえば、マンション購入こそしなかったものの、色々ないきさつから、2世帯住宅を建設することになってしまい、カトラーの母親と同居して「嫁姑問題」に悩まされる日々を暮らすはめになっている。
この記事で紹介した次世代型の賃貸住宅に惹かれるのも、実は、単にその後悔の念の裏返しかも知れない。
(カトラー)
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コメント
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投稿: 東日本橋 マンション | 2007.01.12 11:17