ベトナム料理店「LOTUS PALACE(蓮花館)」の戦争と平和
ここのところ、何かとバタバタしていて、ブログの更新がすっかりおろそかになった。
私は毎日通勤で千代田線の赤坂駅を利用しているのだが、駅に近い、みすじ通りと赤坂通りが交差する場所にLOTUS PALACE(蓮花館)というベトナム料理店が昨年からオープンしていて、とても気に入っている。
気に入っている理由は2つある。仕事で遅くなった帰り道、疲れて立ち寄った時に食べたフォ・ガー(鶏のスープ麺)が素晴らしくおいしかったことと、この店の増田さんという日本人の女性店長とベトナム人の従業員がとても仲が良いことだ。「癒し」というような言葉は嫌いなのだが、この店のドアを開けて席に座ると、遙か遠いメコン河の川面をわたる爽やかな風に触れたような思いがする。ベトナム料理は、基本的に優しい。増田さんにすすめられて食した料理のどれもが「平和」な味がした。それは、幾世代にも渡り、他国から強いられた戦火をくぐり抜けてきた誇り高き人々の平和への願いが料理に結晶しているといってもよいだろう。当たり前に食事ができる日常の価値をベトナムの人々ほど知っている民族は他にいないに違いない。フォ・ガーが絶品だということはすでに述べたが、この店のベトナム風お好み焼き「バインセオ」もおススメだ。外側がパリパリ、中はしっとりとした食感で、とても懐かしい味がする。最近号の週刊ダイヤモンドのコラムで勝谷誠彦氏が「本場のサイゴンに持っていっても3本の指に入る」と絶賛していた。
赤坂という街の地力
赤坂という場所は、商売を成り立たせるにはかなり難しい場所だ。地名としてのブランド力に比して、実際の市場購買力が伴っていない。大人の街といえば聞こえはいいが、要は若者が少なく、活気に欠ける。地名に惹かれて新しい店が次々とオープンするのだが、大抵は2~3ヵ月も経つと商売にならなくて、どこかに消えてしまう。
LOTUS PALACEがオープンした場所も、これまでにもいくつも店が入れ替わっていた。以前は確かイタリア風カフェみたいな、冴えない店で、ビールを一杯ひっかけるのに立ち寄っても、いつもガラガラなので個人的には逆に重宝していたが、案の定、早々と店じまいとなった。
LOTUS PALACEのことは気に入っていたのだが、密かに心配していた。同じ赤坂通り沿いには「アオザイ」という、日本のベトナム料理の草分け的レストランもあり、赤坂という土地の小さなパイを分け合うことができるとはとても思えなかったからだ。
しかし、うれしいことに私の心配は杞憂に終わった。このあいだの週末、会社の連中と食事に訪れた時には、すぐに店内は満杯となり、順番待ちの客が並ぶような状態になった。厨房もてんてこ舞いのようで、私たちが注文した生春巻きもなかなか出てこない。日頃は穏やかな増田さんも気が気で無い様子で、時々厨房に入って指示を飛ばしている。
経済という名の戦場を生き抜く
一時は厨房と店内の間は戦場のような様相を呈していた。といっても、従業員のベトナムの人々は、慌てた様子もなく、とても静かで落ち着いたものだ。黙々と注文をこなし、アオザイがとても似合っている接客係のベトナム女性も店内を飛び回ってにこやかに応対している。
平和とは誰かに与えられるものではなく、勝ち取らなければ実現できないものである。だからこそ、かけがえのない価値がある。ひょっとするとLOTUS PALACEのベトナムの人々は、日本という異国の地で「経済」という名の戦場をあらためて経験しているのかもしれない。そして、平和の価値を誰よりも知っている彼らはまた「戦争」はいずれスコールのように過ぎ去り、穏やかな平和な日常が最後にはやってくることを誰よりも強く信じているのに違いない。
(カトラー)
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント