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iPod nano の登場とスマイル・カーブが意味する日本産業の未来

i_pod_nano
先週、銀座のアップルストアでi Pod nano4ギガ(27,800円)を買い求めた。
その軽さ(42g)と薄さ(6.9mm)、高性能に驚かされた。フラッシュメモリーを採用し、私が購入した4ギガタイプでは、1000曲が収まってしまう。音楽のヘビーリスナーでもない私の場合、家にある100枚程度のCDなら、この42グラムの中に全て収まってしまうことだろう。

ネット上やデジタルグッズの情報誌などにもnanoに関するレビュー記事の掲載が始まっているが、どれも絶賛に近い。一方、競争相手のソニーは、nanoの発売日にあえてぶつける形で、iPod型ウォークマンの新製品発表を仕掛けたが、完全に霞んでしまった感がある。発表された新製品は、いずれも後手をとったソニーが巻き返しのために満を持して市場に送り込んだ「刺客」製品という触れ込みだったが、アップルのnanoに比べると第一にコンパクトさで、またデザイン面でも全く見劣りがしていて、既に返り討ちにあうことが確実としかいいようがない。

sony_new_walknan
アップルがnanoで実現した「小型化」ということは、古典的経営書「コアコンピタンス経営」(ハメル&プラハード)の中でソニーのコアコンピタンスとして紹介されているように、そもそもソニーのおハコ、すなわち最も得意とするところであったはずだ。そのソニーがどうしてここまで後手に回り、アップルの後塵を拝することになってしまったのか?その原因を考えていくと、グローバル化した世界と直面した日本のエレクトロニクス産業に共通する深刻な課題が見えてくる。

ソニーが後手に回った理由

コンパクトで高性能、いかにもアップルのブランドイメージを体現したようなカッコイイiPod nanoだが、冷静にその中味を見ていくと、実はアップルの固有の技術というものが製品に何も投影されていないことに気づくだろう。かつてソニーはウォークマンの製品化の過程でそれこそ血の滲むような努力で部品の合理化、小型化など行い、その積み重ねによって製品全体の小型化を実現した。しかし、iPod nanoには、そうした「ものづくり」の面における努力の痕跡や技術的な進化の跡は見られない。もちろんこのコンパクトな筐体に4ギガものデータ容量があることは、画期的なイノベーションといえるが、そのフラッシュメモリー自体は韓国・三星(サムスン)電子が供給しているものだし、またiPodのデザインを大きく特徴づけている背面の鏡面のようなステンレス板についても、新潟の燕市で加工されているものだ。端的に表現すれば、iPod nanoとは、モジュール化されたデバイスの寄せ集め、カッコヨク化粧された半導体(フラッシュメモリー)そのものである。
そこでアップルが果たし役割とは、iPod nano という製品そのものを開発したこと、そしてiTune という楽曲のネット販売のビジネスモデルを立ち上げ、将来にわたってそのビジネスモデルを通じて利益を上げる仕組みを構築したことにある。

スマイル・カーブが意味するもの

smile_curve
このことは、電子エレクトロニクス産業で数年前からいわれている「スマイル・カーブ」現象そのものといってもよい。スマイル・カーブとは、台湾エイサーのスタン・シー会長がパソコンの各製造過程での付加価値の特徴を述べたのが始まりとされている。付加価値を製造過程の流れに沿って図示すると人が笑った口のような形になることから「スマイルカーブ」と呼ばれている(図)。これが意味するのは、川上の開発や川下のアフターサービスなどの付加価値が高くなり、中流の製造・ものづくりの過程で付加価値が最も少なくなるということだ。パソコンでいえば、川上でOSやMPU(マイクロプロセッサー)を開発したマイクロソフトやインテル、あるいは川下でプリンタのトナーなどを販売するようなビジネスは儲かり、パソコン自体を製造するメーカは、低収益に苦しむことになる。
このスマイル・カーブの議論にそっていえば、iPodとは、周到にこのスマイル・カーブ化しつつある業界の事業構造を念頭に入れた上で、見事に付加価値の高い(利益の上がる)両極を押さえるべく立ち上げられたビジネスモデルだということが推察できる。一方、製造技術に圧倒的な強みを持っていたソニーは、その強みゆえにスマイル・カーブの谷に沈んでしまった。

危惧されることは、この問題は電子エレクトロニクス分野の他の企業、他分野の製造企業にとっても決して対岸の火事とはいえないことだ。次の稼ぎ頭として期待されているDVD、薄型TVなどデジタル家電分野でも、モジュール化は急速に進みつつある。仮に、日本のお家芸と言われている家電製品の「パソコン化」が進行するとすれば、日本の産業自体が、スマイル・カーブの谷底に深く沈んでしまうことだってありうるのだ。

(カトラー)

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