女王の教室と郵政民営化の隠された関係
日テレ系のドラマで天海祐希が女性教師役で主演する「女王の教室」の最終回が先週末放映された。帰宅が不規則なので、ドラマを見ることはほとんどないのだが、これだけは毎週欠かさず見ていた。視聴率も好調だったようで、平均で15%を超えていたという。
だが、番組放映当初から、天海祐希が扮する「阿久津真矢」という女性教師のキャラクター設定に対して視聴者から苦情が寄せられ、番組スポンサーが提供名の表示を一時とりやめるという事態にまで発展した。というのも、小学6年生のクラス担任のこの女性教師が、成績が下位の生徒に掃除や動物の世話など雑用の一切をやらせるなど、徹底した競争原理、効率主義を教室に持ち込んでいたからだ。誰にでもわかることだが、それは、現代の大人たちが形成している社会の縮図そのものである。
<阿久津真矢語録>
「愚か者や怠け者は、差別と不公平に苦しむ。賢いものや努力をしたものは、色々な特権を得て、豊かな人生を送ることが出来る。それが、社会というものです。あなたたちは、この世で、人もうらやむような幸せな暮らしが出来る人が、何パーセントいるか知ってる?たったの6%よ。この国では100人のうち6人しか幸せになれないの」
「あなたたちは、もう有名私立小学校に通う生徒たちからずっと遅れをとっているんです。
イメージできる?彼らはこうしている間にも、あなたたちが経験したことのないような裕福な生活をし、決して手に出来ないような、特権やサービスを受けているんです。そういう特権階級の人たちが、あなたたちに何を望んでいるか知ってる?今のままずーっとおろかでいてくれればいいの。 世の中のしくみや、不公平なんかに気づかず、テレビや漫画でもぼーっと見て何も考えず、会社に入ったら、上司の言うことを大人しく聞いて、戦争が始まったら、真っ先に危険な所に行って戦ってくればいいの。」
「いいかげん、目覚めなさい。あなた達の夢や希望を理解して、好きなようにさせてくれる親なんて、この世にいないんだから。親なんて、所詮いつまでも子供を自分の言いなりにさせたいだけなの」
阿久津真矢が放つ言葉は、いかにも辛辣だが、中流幻想が崩壊してしまった、この国の現実を見事に言い当てていて、似非(えせ)ヒューマニストや事勿れ主義者たちの化けの皮を剥ぐ破壊力を持っている。
ドラマの最終回で、この阿久津真矢という謎めいたキャラクターに、ひとつの答えが与えられる。阿久津真矢は、この世の現実を子供達にわからせるために、あえて悪役となり、自らが子供達の前に立ちはだかる壁となって、その壁を自力で乗り越えさせることを意図していたのだ。
ドラマは、ある答えを用意して終わりにすることができるが、私たちの現実は終わることがない。
このドラマが私たちに投げかけていたものは、この国が、かつてのように学校や会社という共同体を軸に、皆が等しく和気あいあいと成長することができた牧歌的な世界が崩壊し、競争を原理とした階層化した酷薄な社会に生きるしかなくなったという、辛い現実である。
「郵政民営化」選挙で隠蔽された争点
唐突に聞こえるかも知れないが、このことが、「郵政民営化」をめぐる総選挙において、争われることなく隠蔽されてしまった本当の争点だったという気がする。この問題を政党の主張として唯一取り上げていたのが、実は鈴木宗男が率いる新党大地であった。
「小泉純一郎総理は、郵政民営化を踏み絵にして、今回の総選挙を国民投票になぞらえている。今回の総選挙が日本の進路を決める国民投票になりうるということで、私も小泉総理と同じ認識だ。但し、私の理解は、争点は郵政民営化の是非ではなく、日本が新自由主義政策を継続するか否かだ。
新自由主義とは『強い者を優遇してもっともっと強くしそれで日本経済を活性化させる』という考え方だ。社会的弱者や首都圏以外は切り捨てられる。・・・中略・・・私は新自由主義政策には反対だ。一部の者だけが強くなる政策では、結局、日本全体の国力が弱体化すると考えるからだ。公平配分を担保して、日本国民であるならば、親の経済力や地位、生まれ育った地域に関係なく平等なチャンスを与えるのが日本の伝統にも即しているし、経済力を強化すると考える」(新党大地のHPより)
隠蔽された争点と述べたが、鈴木宗男のこうした主張に政策的な実現性があるかどうかは、疑わしい面もある。これこそ単なる票稼ぎのためのポピュリズムと呼ぶべきものかも知れない。
しかし、一方で郵政民営化を巡る議論は、あまりに短絡、あるいは稚拙に過ぎたのも確かだ。
小泉首相が脳天気に信奉する新自由主義と呼ばれる経済政策にしても、本当はかなり疑わしいものだ。市場原理に任せれば、おおよそ物事はうまくいくのだという考え方は、公共経済学の立場から厳しい批判を受けている。
一般に、市場システムが最適資源配分を達成するためには、次の4条件が必要といわれる。
①費用逓減産業が存在しない ②外部効果が存在しない③公共財が存在しない ④不確実性が存在しない
実際には、このような状況は存在しないから、それは「市場の失敗」と呼ばれている。
この議論にそって言えば、郵政民営化の先にある、新自由主義的現実とは、単なる「市場の失敗」に過ぎず、「女王の教室」で子供たちや阿久津真矢が格闘した酷薄な現実を再現することに他ならないのかも知れない。仮にそうした社会にこの国が変質していくにしても、一体そのことをわれわれはいつ選択したことになるのだろう。
阿久津真矢が言うように、私たちはこうした現実に対して「目覚める」必要があるようだ。
「女王の教室」最終回の終盤で、主人公の少女、神田和美と真鍋由介の別れのシーンが描かれる。同志のようにして1年間、戦ってきた2人だったが、中学に進めば和美は、私立中学、由介は公立中学へと別々の道を歩かねばならない。
卒業式が終わり、橋のたもとで、由介は和美にこう問いかける
「俺たちまたいつか一緒に会えるかな」それに対して和美は
「あったりまえじゃん」と笑って答える。
ドラマと知りつつ、2人の心が離れず、いつかどこかで再び出会えることを心から祈ってしまった。
(カトラー)
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コメント
マスコミ業界は現在間違いなく特権階級の一つで
あるだけに、ドラマとしてこのようなメッセージを
自ら提示するのはとても画期的なことだと思いました。
(「ドラゴン桜」の”ルールを作る側になれ!”も
そうですね)
こうした自己批判が娯楽として成立するだけの
リタラシーや、インターネットの力が競争原理の
行き過ぎを抑止する力になるのではないか・・
と希望的観測を持っています。
投稿: from | 2005.09.22 01:47
「小泉首相が 『脳天気に信奉する』 新自由主義」
こーゆー印象操作、やめようよ。
投稿: | 2005.09.22 10:59
女王の教室は、おもしろいドラマでしたね。ただ、自分自身、あるいは自分の子供が、実際にこの教師に教わりたいか、といえば絶対反対ですが。寓話として成り立つ非常によいお話だったと思います。(現実の教師の側ではどうしようもない問題が子供を悪化させている状況では、このタイプの先生ではむしろ状況が悪化する。)あとは、特権階級の生徒ほど勉強しているという事実を真矢先生から話してほしかったな、と。
郵政民営化は・・・、首相は昔っから主張しているから十分に議論がすんだと思っているんだろうな。
投稿: | 2005.09.22 12:00
初めまして。
目覚めるべき「私たち」には
小学6年生もふくまれるのでしょうか?
投稿: faaa | 2005.09.24 01:01
「女王の教室」「ドラゴン桜」中学生と高校生の息子達と見ていました。筋書きはともかく主人公の先生達の言葉をメッセージとして伝えたくてこの番組は作られたのだと思います。(後者には原作の漫画がありましたね。こちらは読んでないのでわかりませんが、ドラマ化するにあたっては意図して抽出たと思うので)
数年前に「ゆとり教育」が打ち出された時、これはつまり教育も国は民間に放り出したものだと思いました。中学受験のために毎月どれだけ塾の費用がかかるか、休み中の講習の費用も万札に羽が生えて飛んで行くという感じです。私立学校の学費、交通費その他二人あわせて、安い方、と言われている学校でも14万円かかります。
塾に通う子が増える、教育産業が潤うと税金も入りますよね。物を考えない人が増えた方が為政者は楽です。厳しく勉強勉強と言われないととストレスが減って暴力も減るかもしれません、「総合学習」なんていう教科の壁を取り払った科目も、難しい概念を教えるより子供達があくびする回数も減りそうです。土曜も休みにしたら勉強したい子は塾に行ってくれるし、遊びにでかけてお金を使ってくれると税金も入ってきます。その結果は今の世の中を見ればわかりますよね。そんな現実に対して疑問を投げかけようとあえて過激な内容になっていましたが、そのくらいでないと思考停止の人たちには届きませんよんね、
騙されないためにも人は勉強しなくてはならない、その基礎を教えるべき小学校が文部科学省によってアウトソーシングされてしまった日本に不安を感じます。貧富の差イコール教育の差、というような国の先には何が待っているのでしょうね。
蛇足ながら子供達は「女王の教室」の最終回は内包がよかったと言ってました。謎のまま消えた方がよかったと。
投稿: バジル | 2005.09.24 14:56
バジルさん、katoler家でも「女王の教室」と「ドラゴン桜」は家中で見ておりました。日頃は共通の関心にのぼるテレビ番組などというのは、ほとんど無いのですが、特に女王の教室については、「わが家のブーム」といった感がありました。
最終回については、ご子息のおっしゃるように別のおとし方もあったかも知れませんね。私の周りでも、ここまで過激に問題提起をしたのだから、変に解決感を出さずに、マツケンサンバのように、みんなで踊って終わりというのはどうか?というような過激な意見も出ておりました。
faaaさん、書き込みありがとうございます。
あなたも小学6年生だということですか?
だとしたらすごいですね。既にじゅうぶんめざめていますね。僕が小学生の頃は、マンガとベーゴマのことしか頭になかった。
投稿: katoler | 2005.09.25 01:21
このドラマは見ていないのですが、「成績が下位の生徒に掃除や動物の世話など雑用の一切をやらせる」ことが、「徹底した競争原理、効率主義を」持ち込むことに繋がるのか疑問です。
竹中平蔵の押し進めていることは、上のイメージに近いかもしれませんが、自民党の「改革派」が矛盾に満ちた存在であるという見方もあるわけですし、経済自由化と彼等の提言を同一視するべきなのでしょうか?
また小中学校に「関する」自由化の問題で従来言われてきたのは、教師や学区を生徒の側が自由に選択できるようにするということです。
取り替えられない教師の強情さが主要なモチーフになるというのは、従来の学校ドラマのアンチテーゼとしては良くできていかもしれませんが、「自由」の問題を鋭く描き出すための舞台設定が箱庭というところで私は首を傾げてしまいました。 また「お前のためを思って」というのはセクハラの横行する小中学校において、護送船団的に問題を隠蔽するレトリックとして働いていたのだし、教師の側で意図すべきことなのかとも思います(この点はkatolerさんは評価していなかったかもしれませんが)。
投稿: forth | 2005.09.27 15:48
本当に私はこの女王の教室を見て感動しました。私は目が他の人より見にくいいのですが、今ままでだったら、あんまり何を見ても興味を持てませんでした。ですが、女王の教室を見てから、興味を持ち、女王の教室ではあくつ真矢先生が一番美人で好きです。私は、真矢先生にあこがれてます。私も将来は先生みたいな教師になりたいです。
投稿: 財木里歩 | 2006.03.24 09:08
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