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ハーフリタイアという生き方

scout
米国のベンチャー経営者や、猛烈な仕事ぶりで知られる金融ディーラーの中には、30代で稼いで40代になったらリタイアすると公言している人が少なくない。スポーツ・アスリートと同様、ベンチャーや金融ビジネスの激務とストレスには、若い体力と知力がなければ耐えられないということなのだろう。日本では、あまりそういう話を聞かなかったので、日本人には馴染まないライフスタイルなのだろうと勝手に思いこんでいたが、「ハーフリタイア族」と呼ばれる人々が登場してきているらしい。

「ハーフリタイア」とは、リクルートからこの8月に創刊されたスカウトという雑誌がつくった造語で、以下のように定義されている。

「仕事偏重型の生活から脱して、自分のライフスタイルを確立しながら、生活を楽しむために仕事をしている人」

スカウトには「ハーフリタイア」した人々の生き方の実例がいろいろ紹介されている。
海外で通信ビジネスを起業して成功、その事業を売却してハワイでサーフィン三昧という「プチ富豪」生活を送る人、東京のサラリーマン生活を止めて、農業を始めたり、森林作業員になった、UターンあるいはIターン組、自分の趣味や身につけた特殊技能を活かして海外で暮らす人などなど・・・、昔でいえば、こうした人々は「脱サラ」という言葉でひと括りにされていたのかも知れないが、働くことの価値観を、個人のライフスタイルという軸にシフトさせることで、「ハーフリタイア」という言い方が生まれてきた。

働き方のゴールイメージになるか?

リクルートがどうしてこのような雑誌を発行し始めたかといえば、ドル箱となっている他の就職・転職情報誌のように、この雑誌も収益装置化していくためというよりは、20、30代の転職世代の若い人たちに、働き方の新しいゴールイメージを提供することを目的にしていると考えられる。マーケティング上の手法として、「頂上」の姿を見せることで、「すそ野」としての転職市場を活性化させることを狙っている。雑誌名が「スカウト」となっているのは、そのためだ。確かに、今の20、30代の若いビジネスパーソンの置かれた状況を考えれば、何のために働くのか、あるいは、ビジネスパーソンとしてのゴールイメージをどのように描くのかという問いに答えることは簡単ではない。20年前、社会人になったような人であれば、将来の自分のイメージを重ねることのできる先輩を社内や身の回りに容易に見つけることができたはずだ。彼らはそうした先輩を手本に自分のビジネスキャリアを磨いていった。しかし、今の若い人たちにとって、そうした良きロールモデル(手本)は消失してしまった。なぜなら、そうした先輩社員の多くは、リストラされて企業から消え去ってしまったからだ。会社とは一生居る所ではなく、居続けられる所でもないという現実が、この10年で露わになってしまった。そうした白けた現実の中で、「ハーフリタイア」という言葉は、若い人たちに対して心地よく響くことだろう。

こうした「ハーフリタイア族」を対象にした新しいビジネスも生まれつつある。

ハーフリタイア族をターゲットにした新ビジネス

栃木県には、地元の建設会社、不動産会社、工務店、設計家、陶芸家、農家などが集まって構成されている「那須田舎倶楽部」というネットワーク組織がある。この那須田舎倶楽部は、「新古民家」というユニークなコンセプトの住宅を提供している。nasuinaka_club

農村で住み手のいなくなった民家を解体移築して住むという古民家ブームが、何年か前から続いているが、希望に合った物件を探し当てるのには相当な労力が必要だ。また、補修や改修にも手間とコストがかかる上、昔の家だから、都会の冷暖房完備の楽な生活に馴れた体には結構こたえる。
そこで考え出されたのが、「新古民家」というコンセプトで、古民家を模した住宅のことをいう。太い大黒柱を中心に、家屋が組み立てられ、囲炉裏(いろり)などがある点も古民家さながらだが、耐震性や断熱性能などは現代の基準にマッチしているという。問題は価格だが、このプロジェクトの参加メンバーで地元で不動産仲介を営む堀さんによれば、「さまざまな合理化によって坪60万円からの提供が可能になった」という。

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この新古民家は、もともと熟年世代をターゲットに構想されたものだが、東京から那須や益子などに移り住むことを目的とした、若い「ハーフリタイア族」からの問い合わせが増えているのだという。那須田舎倶楽部は、こうした人たちに単に住宅の提供だけでなく、農園のあっせんや、陶芸の手ほどき、地元の人々との交流など、ソフト面のサポートまで提供することを目標としている。住宅を単にハードとしてだけ提供していくことは、明らかに限界が見えはじめている。住宅産業は、今後、この那須田舎倶楽部のように「ライフスタイル」そのものを提供していく方向に向かわざるを得ないだろう。

「ハーフリタイア」とは、「引退」とは異なる。それまでの会社生活、ビジネスマンとしてのキャリアにいったん区切りをつけるが、仕事をやめるわけではない。仕事中心から個人としての生活スタイルにこだわりを持ち、同時に仕事もやっていくという、新しい生き方のことを指している。
仕事に振り回されている私としてはナントモ、うらやましい生き方だが、考えてみれば、私の身近のブロガーにもそうした人がいた。「napoさんの那須的生活」というブログを運営されているdomizuさんだ。domizuさんは、東京で某ゼネコンの経営に携わった後、環境分野のビジネスを起こされ、東京と那須を行き来しながら仕事をされている。「ハーフリタイア族」などと分類したら怒られてしまうかもしれないが、domizuさんのブログを見てもらえれば、ハーフリタイアという生き方の豊かさが実感できるはずだ。

(カトラー)

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コメント

ご紹介していただきありがとうございます。

リタイアしたつもりはないのですが、東京で暮らしていたときよりも生活の質を重要視していることは事実です。

田舎暮らしというオプションを一人でも多くの方に知っていただきたくブログを書いています。場所を選べば、日本の地方には素晴らしいところが多く、都会暮らしでは味わえない「匂い」や「空気感」が田舎にはあります。

田舎といってもちょっと車を走らせればホームセンターやコンビニはあります。病院や公共施設もバブル時代からのばらまき予算のおかげで充実しています。ADSL回線も相当山奥まで来ていますし、数年後には光回線も期待できます。唯一不便なのは携帯の受信範囲が不安定なことです。FOMA やAUはいまだ使用不可です。

東京へはドアツードアで2時間あれば通えますので、埼玉県や千葉県、神奈川県の奥地よりも、那須や軽井沢の方が便利だと思います。

投稿: napo | 2005.10.16 17:17

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受信: 2005.10.18 02:42

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カトラー:katolerのマーケティング言論: きみは電車女を見たか? 好エントリ。 山形浩生の批評を引きつつ、「自己ゴミ化」のなれの果て=電車女(電車化粧女)としている点で安原顕的な視点だよなあとは思う。ていうかさあ要するにこの写真は「悲しき熱帯」なんだと思う(いろいろ複合した意味あいで(笑))。一見、現代の文化と断絶しているような写真(電車の中で座り込む女子高生)だと思うが、そこにどのような構造が内在してるのかを考えた方が面白いし有意義かなあ。 カトラー:katolerのマーケティング言論: ハ... [続きを読む]

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