負け犬たちよ！子どもをつくって、パリで遊ぼう！

日本をはじめとして少子化対策に頭を悩ませている先進国が多い中、出生率を上昇させることに成功しているのがフランスだ。そのフランスも８０年代までは他の先進諸国同様、出生率はジリジリと低下しつつあった。しかし、９０年代に入ってから手厚い育児支援策を実施した結果、合計特殊出生率は９５年から上昇に転じ、２００３年には１．８９という、先進諸国の中では希有な水準を維持している。フランスに学べという機運が高まり、日本政府もフランスの育児支援制度の調査を始めた。

このテーマについて、ブロガーの記事に水準の高いものが多い。・社会分析的ブログ：フランスに学ぶ少子化対策では、フランスの子育て支援の実際がとても詳しく紹介されている。
フランスの児童手当や育児支援制度が手厚いとは聞いていたが、パリのママンさんのブログが紹介しているように、手当の他に、子どもをひとりつくるたびに、年金受給に必要な労働期間が２年短縮されるというから驚きだ。それだけではない、１０人子どもを生むとなんとフランス大統領が名づけ親になってくれ、毎年プレゼントまでくれるそうだ。日本もこの制度を真似たら、これがホントの「小泉チルドレン」ということ？。

パリはいま、子ども天国！

このブログに何回かご登場いただいている、にむらじゅんこさんの「子どもと行くパリの旅案内」という、とてもカワイくて役に立ちそうな新しい著書がつい最近出版された。にむらさんによれば「パリはいま子ども天国！」なのだそうだ。しかも、子どもを持つことが「オシャレ」という風潮が生まれてきていて、手作りブランドの子ども服をつくるママン・デザイナーやキッズ・フレンドリーなレストラン、子ども専門のカフェまで登場して繁盛しているという。そして、こうしたトレンドの中心になっているのが「ボボ（ブルジョア・ボヘミアンBourgeois・Bohemian）」と呼ばれるフランスの新・富裕層だ。

「ボボは、クリエイティブな仕事に関わりつつも、収入はしっかりとあり、都会で快適に暮らす人種。『数十万円する金や貴金属のアクセサリーなどを買うのは俗っぽい』と思っているけれども、同じ値段でも『スニーカーなら買ってもいい』という人たちです」（子どもと行くパリの旅案内より）

ボボの特徴のひとつが子ども好きであること、結婚はしていなくても子どもをつくるカップルも少なくないという。こうした新しい価値観や家庭観をもったボボが、トレンドリーダーとなり、パリを変えつつあるのだ。

結婚しなくても子どもは欲しい

私の周辺のキャリア女性からも、「結婚はしなくても子どもは欲しい」という声を結構聞くようになった。もちろん、そうした声は、まだ願望の域に止まっており、実際に行動に移すとなれば、経済的な基盤や、育児の支援体制が不可欠となる。フランスでは片親で子どもを育てる家庭にも手厚い支援策が講じられており、社会全体で子どもを育てていくのだという明確な意志が感じられる。日本では３０代以上で未婚、子無しの女性のことを「負け犬」と呼ぶことが流行っているが、その「負け犬」たちが、結婚というステップをパスして、ポンポンと子どもを産み始めたらどうなるかと想像するのは、ちょっと楽しい。温泉巡りやヨガブーム、韓流スター人気からマンション購入まで、およそこの世のトレンドと呼ばれるものの影に必ず「負け犬」ありといわれるくらいだから、そうしたブームがみんな「こぶつき」になったら、世の中の様子がだいぶ変わることになるだろう。

もっといえば、未婚の負け犬たちが、競って子どもを生みはじめ、ゾロゾロと子連れでパリを旅行する・・・そんなラジカルな状況をイメージして、しかもそれをゴールイメージとして共有するくらいのことができなければ、日本の出生率の減少には到底歯止めなどかけられはしないだろう。「恋愛→結婚→出産→子育て」という、従来型のプロセスだけでなく、さまざまな家族の形や、色々な子育てのありようを許容しない限り、子どもを増やすことができないところまで日本の社会は来てしまったということなのだ。
確かに、両親がいて、その愛情に包まれて育つというのが、人間の育ち方としては、理想的な状況かも知れないが、今やそれをどの家庭にも望むのは不可能に近い。たとえ両親が揃っていたとしても家庭内暴力や児童虐待に陥る場合だってある。親としての能力に欠ける人たちに虐待を受けて育つことを考えたら、片親だろうが、ゲイやレズのカップルが親となろうが、とにかく子どもに愛情が注がれる環境が担保されることの方が大切なはずだ。

子どもの視点から世界を眺めて見る

こうした考えをもう一歩進めれば、「子どもを育てる」「命を育む」という地点から社会のありよう自体を再構築していくという態度につながる。
周知のように日本の中で飛び抜けて出生率が高いのは沖縄である。ちょっと余談になるが、沖縄でスナックなどに行くと、そこの若いホステスさんはたいていは子持ちである。そのことを沖縄の人に言うと、「島の娘は惚れっぽいから」といって笑っていたが、沖縄では、地域の人々が協力して子どもを見守り育ててくれるという背景がある。命を育む人の絆が沖縄では脈々と生きているのだ。

鳥瞰図（bird's‐eye view ）という言葉がある。空を飛ぶ鳥の視点から世界を眺めるということだが、同じように子どもという存在から世界を眺める「kid's-eye view」という視点があるのではないかと、仲間たちと議論をはじめている。
ユニバーサルデザインという考え方は、最初はハンディキャップの人々や老人のための環境をつくることから始まったが、今や全ての人のためのデザインポリシーになった。子どもが育ちやすい、命が育まれるシステムを持った社会とは、全ての人々にとって生きやすい世界になるはずだ。

（カトラー）

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