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ALWAYS 3丁目の夕日 ~昭和へのレクイエム~

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「ALWAYS3丁目の夕日」が公開されている。
昭和30年代の東京に生まれた人間として見ておくべき映画とは思っていたのだが、Yahoo!の興業成績ランキングなどでトップに躍り出ているのを見ると、人混みが苦手な性分の私としてはチョット気後れがしていた。が、今日、上野まで出向いたついでに上野セントラルという映画館で鑑賞することとなった。

「ALWAYS~」観るなら上野セントラルがおススメ

この上野セントラルという映画館に入ったのは偶然で初めてのことだったが、「ALWAYS3丁目の夕日」を見るのに絶対おススメの劇場である。映画館自体が昭和30年代のレトロな雰囲気で、昔の映画館に独特のすえたような臭いがかすかに漂っていて、席に座るや一気に昭和30年代の世界に入り込んでしまう。上野というロケーションもあり、六本木や有楽町のようにOLオネエサマやカップルの姿が少ないかわりに、下町のじいちゃん、ばあちゃんが列をつくって並んでおり、まさに「ALWAYS~」の世界なのだ。さらに、映画の冒頭に近い部分で、東北からの集団就職列車が上野駅に到着するシーンがあるのだが、まさにこの映画館の目の前が上野駅であり、今と昔の姿がシンクロする感覚を経験することができる。ueno_central
「ALWAYS~」の作品の話に戻ろう。実のところ、この映画を実際に見る前までは、内容についてほとんど期待を持っていなかった。VFX技術によって再現された昭和30年代の東京の映像を観たいというのが、この映画を観に行った最大の動機であったのだが、そうした私の期待は良い意味で裏切られた。

近年の日本映画の中でも指折りの傑作

「ALWAYS3丁目の夕日」という作品は、大衆的な娯楽要素をキチンと消化しながら、時代性やメッセージ性、そして普遍性を持ち得た映画に仕上がっており、近年の日本映画の中でも指折りの傑作だと思う。もちろん、事前の期待であったVFXによって再現された東京の街並みの映像も素晴らしい出来だった。設定としては昭和33年(1958)の春から東京タワーの完成の年末にかけての「夕日町3丁目」の物語である。トロリー電車が走る銀座の街並み、ビルの屋上から青空に向かって上がるアドバルーン、赤い屋根とクリーム色の公衆電話ボックス・・・記憶の底に沈んでいた様々な当時の映像がこの映画を観ることで甦ってきた。「泣ける映画」という前評判もその通りで、私などは不覚にも、映画の冒頭で子供達が空に向けてゴム巻きのヒコーキを飛ばすシーンであっけなく落涙してしまった。
この映画を観ていて思い出したのは、昔の東京は空が大きかったということだ。物理的に背の低い建物ばかりだったということもあっただろうが、当時の日本人が、毎日の生活は苦しかったけれど大きな空を見つめて生きていたからではないか。それは、この映画のメッセージにもつながる。その大きな空に向かって東京タワーが立ち上がっていくという、日本人にとっては幸福な時代であった。

死者たちがつくるノスタルジーの世界

男のくせに涙腺が弱いと周りからはバカにされることが多いが、いわゆる「泣ける」映画が好きなわけではない。そうした映画では「泣かされた」という感覚が先に立ってしまって、逆に見終わって嫌いになる場合の方が多い。けれどもこの「ALWAYS~」の場合、何故か気持ちよく涙を流すことができた。それは、この映画が、昭和30年代という時代の「レクイエム(鎮魂歌)」にまで高められているからだと思う。
この映画が持っている「ノスタルジー」は、こんな比較をするまでもないが、カラオケボックスで昴やグループサウンズの曲をでかい声をはりあげて歌うオヤジ連中が抱くノスタルジーとは根本的に異なる。この世には、カラオケボックスに行けば、追体験できるお手軽な世界とは違って、誰も決してそこに戻れない、その意味では彼岸のような、死者たちがつくる「ノスタルジー」の世界が存在する。「ALWAYS~」が描いているのは、そうしたモノいわぬ死者たちの世界なのだ。
この映画を観ながら、ふと別の映画のシーンが頭に浮かんだ。それは、山田太一の原作を大林宣彦が監督して映画化した「異人たちの夏」である。この映画では、主人公は、若死にした両親の幽霊と、子供の頃両親と一緒に住んでいた浅草の街並みの中で出会うというホラーストーリーなのだが、「ALWAYS~」のノスタルジーとは、この「異人たちの夏」の主人公が、死んだ両親の幽霊に感じた懐かしさと同質のものだ。
「ALWAYS~」に登場している夕日町3丁目の人々、亭主関白だけれど単純で心優しい、自動車修理工場「鈴木オート」の社長とその家族、そこに集団就職で東北から転がりこんでくる少女、わけありの過去をかかえながら居酒屋を開くヒロミ、そのヒロミと売れない小説家竜之介がひょんなことから育てることになった少年。この映画で描かれている人々と、その人々が織りなすドラマは、どれもが羨ましいくらい生き生きとしている。それはちょうど亡くなった友のことを語る時、その友人の生前の姿が生きている時以上に輪郭を持って甦ってくることにも似ている。彼らは、スクリーンの向こう(彼岸)の世界では生き生きとしているのだが、もし、何かの間違いで、高層ビルが建ち並び、家庭内暴力や階層化が進行する今の時代、すなわち、こちら(此岸)に呼び寄せたとしたら、たちまち色褪せ萎びてしまうだろう。

だから「ALWAYS3丁目の夕日」とは死者たちの物語であり、昭和という時代に対するレクイエム(鎮魂歌)なのだ。死者たちの前で、私たちは心おきなく涙を流し、その死者たちとは二度と同じ時間を共有できないことを悟る。

映画を見終わって、不忍池にまで足を伸ばした。ちょうど夕暮れ時で不忍池の秋空に夕日がかかっていた。映画の最後のシーンで、鈴木オートの家族たちが東京タワーにかかる夕日を眺めながら、この夕日の美しさは、きっと50年後だって変わらないと、祈るようにつぶやく。

不忍池にかかる夕日を眺めながら、私も同じような祈りにも近い気持ちを抱いていた。

(カトラー)

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Comments

|死者たちがつくるノスタルジーの世界

まさにそうでしたね。

私が何だろう、何と表現すればいいのだろう、と考えていたことを見事に言っていただきました。

そういえばメインキャストの薬師丸さん(いつのまにかお母さん役が似合う年になっていた)も「幽霊たちをみているようだ」と言っていますね。

Posted by: 大澤遼 | 2005.12.05 at 09:38 PM

大澤さま、コメントありがとうございます。

薬師丸さんは、コミカルでいてとても情愛深い母親役で、とても良い演技をしていました。セーラー服と機関銃から彼女の姿を見てきた者としては、感慨深いですね。
彼女が「幽霊たちをみているようだ」と言っていたとは知りませんでした。この世は、凄惨な事件ばかりが多発し、ゾンビの世界のようです。幽霊たちの世界の方が美しく見えるのは私だけでしょうか。

Posted by: katoler | 2005.12.12 at 02:03 AM

katoler 家の年賀状、ブログを見て早速、映画を見てきました
あれは私が通いなれた三田通りですね
私は東京タワーが完成して5年後からの3年間でしたが
なつかしくてなつかしくて
登場する子供たち あんな子がクラスにいましたネ
息子は昭和という時代があんなだったなんてピンとこないといっていましたが
私たちはよき昭和の時代をしっている貴重な世代なのでしょう


Posted by: 中川未知子 | 2006.01.07 at 08:26 PM

ちなみに昭和30年代は最も殺人や強姦が多かった年代です。
http://pandaman.iza.ne.jp/blog/entry/515564/

Posted by: はた | 2008.07.11 at 06:57 AM

いい記事ですね。
いまだに思い出して検索して読みに来てしまいます。
もはや映画を見直すよりもこちらを読む方が泣けます。

Posted by: SSS | 2009.10.14 at 11:22 PM

Thanks for youur personal marvelous posting! I seriously enjoyed reading it, you are a great author. I will ensure that I bookmark your blog and definitely will copme back in the foreseeable future. I want to encourage you to continue your great posts, have a nice evening!

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