細木数子のマーケティング戦略
大殺界」というネーミングがナントモおそろしげである。しかも、芸能タレント相手に「地獄に堕ちるわよ」と凄んでみせるおばちゃんに「アンタは大殺界よ!」なんて言われたら小心者としては結構ビビッてしまう。なんでも、このおばちゃんが出るTV番組は20%を超える視聴率をたたき出しているそうで、占いに関する著書は100冊以上にのぼる。その売り上げは累計で3900万部以上といわれ、ギネスブックにも記録されているというカリスマおばちゃん占い師なのだ。
累計販売数3900万部
基本的に占いの類は信じないことにしているが、近所の本屋に行った際に、ついつい占い本のコーナーに足が向いてしまった。そして驚いたことには、まるで私を待っていたかのように、そこには数子おばちゃん(敢えて親近感をもってこう呼ばさせていただく)の本を山積みにしたコーナーが設置されていた(写真)。ナニナニ星人というようにそれぞれの星の今年の運勢をまとめた小冊子から、「大殺界からの抜けだし方」というノウハウ本まで、よくもまあこんなに書いたものだというぐらいさまざまな、それでいて皆同じような内容の本が並べられていた。
金の成るキーワード「大殺界」
「大殺界」という言葉が、細木数子が発明した金の成るキーワードなのだろう。六星占術は、易学をベースに算明学や万象学などをミックスして彼女が独自に編み出した占術とされている。カトラー家の母親が日頃から手元に置いて覗いている「高島易断本暦」などを見ても、私の星「八白土星」は、今年は停滞の年に当たると書いてあり、同じ易学をベースにしているからだろう、今年の運気に関する判断には共通性がある。
結局、言っている内容(コンテンツ)は昔からある易断とたいして変わらぬが、マーケティングの構造が違うというのが細木数子を考える場合のポイントとなる。
高島易断本暦の場合は、私の母親のようなジイサン、バアサンが毎年、一冊買って、一年間かけて読むのだが、細木の場合は、「大殺界」という言葉を、彼女が出演するTV番組でさんざん押し出し、ビビった人間を本屋に向かわせるという、巧妙なマッチ&ポンプのシステムが仕組まれている。毎年、大殺界に当たる人間が何万人いるのか知らないが、その中の一定割合が確実に彼女の本の新規読者になっていく寸法だ。それが証拠に、私が出向いた近所の本屋では、「土星人の運命」という本は既に売り切れになっていた。私と同じ大殺界の土星人たちがビビッて本を買っていったのだ。ウマイねえ、数子おばちゃん!
そして細木がさらに賢いところは、大殺界の人間にそのことを理由に壺だ掛け軸だと高額な商品を売りつけたりしないところだ。先祖供養をしなさい、仏壇を掃除しなさいというような、人間として当たり前のことを説いている。「大殺界」というキーワードを掲げたことで、入口こそオドロオドロしいが、出口としては基本的には良いことを言っているので、口コミが広がり、結果として3900万部も本が売れることになる。
占い師の成功の秘訣
占い師としての成功の秘訣というものが存在するということを夕刊紙で星占いのコーナーを担当している、ある占星術師に聞いたことがあった。その先生曰く「新聞などで運勢を占う場合、できるだけ具体的なことを書くようにしています。例えば、今日、あなたは赤いネクタイをしていれば良いことがあります・・・というように」
なるほど、メディア上でこうしたメッセージを発信すれば、赤いネクタイをした人が世の中には必ず一定の割合いて、その人たちの中では一定確率で良いことが必ず発生するはずだ。かくして、赤いネクタイをして良いことがあった人々は、占いが「当たった、当たった」と騒ぎ立ててくれる。逆に当たらなかった場合はどうなのか。赤いネクタイをしていて仮に良いことが無かったとしても、占いが「ハズレた、ハズレた」と言い立てる暇な人間はまずいないだろう。従って、占い師のマーケティング手法というのは、とにかく具体的なメッセージを市場に向けて発信することが基本となる。アタリは評判になるが、はずしてもあまりとやかくいわれないという非対称性が占いの世界には存在している。
細木数子もこの基本に忠実である。折に触れ、かなり具体的なご託宣をおこなっているのだが、残念ながら大ハズレが多い。
<細木数子ハズレご託宣> 超常現象の謎解き六星占術と大殺界より
- 黒川紀章と若尾文子はすぐに離婚。
- 三浦友和と山口百恵夫妻は「相性が最悪」で、昭和59年に離婚の危機。
- 谷亮子はアテネオリンピックで金メダルを取れない。
- 2004年に新庄はプロ野球界を引退する。
- 2004年、サッカー日本代表のジーコ監督は解任される。
ホリエモンは大殺界か?
ちなみに巷間、大騒ぎになっているホリエモンこと堀江貴文氏は、1972年10月29日
生まれ、強制捜査が入り、違法取引も発覚して、万事休すの状態だが、
なぜか、「大殺界」ではないようだ。
正月番組で細木おばちゃんとホリエモンが対談していたが、「2006年は新規事業でブチかまそうと思っているがうまくいくか」とのホリエモンの問いに、「大丈夫」とおばちゃんは太鼓判を押していたけど、細木おばちゃんこそ大丈夫だろうかと心配になる。なにせ世界一の売上を誇る占い本の著者である。細木おばちゃんのご託宣を信じて、来年からは運気が上向くと信じている読者だって大勢いるはずだ。
人間が占いにハマる理由
それにしても人間は、なんでこんなにも占いが大好きなんだろう。占いにハマることと知性や教養は関係がない。むしろ、論理的な人ほど占いにハマる傾向が強いといえる。
何故、人が占いに惹き付けられるかといえば、それは人間の認知行為それ自体が「占い」的だからとはいえないか。満天に輝く星を眺め、それらはただ無意味に並んでいるだけと考えられる人は、相当変わった精神の持ち主といえるだろう。普通の人間なら、星の並びに星座の存在を見たり、星の運行に運命を重ね合わせたりして、何かしらの意味を読み取ろうとするものだ。この世界に顕れている物事にはきっと意味があると信じることで、はじめて世界と自分のつながりを意識することができる。
人間が世界を認識する行為とは、視覚された映像をただ単に網膜にカメラのように機械的に投射することではなく、対象そのものに自分を投影し、何かしらの意味を見出す行為と言える。そこに将来の自分を投影すれば、それは占いと呼ばれるわけだ。したがって、理論的にはこの世のあらゆるモノが占いの対象になりうる。手相占い、人相占い、星占いは、当たり前として、そういえば今思い出したが、エレクトーンを弾いてご託宣を得る「エレクトーン占い」おじさんなんていう不思議な人もいたっけ。
要は、マーケティングの仕組みとカリスマになることを厭わない人生への思い切り、それと占いに関する何かしらのメソドロジーさえあれば、あなただって明日から細木数子になれる可能性があるのだ。
妙齢の美女Wさんから、その後、お茶目なアドバイス&はげましのメールをいただいた。
大殺界ですが、人生に関わる重要な決定や行動はしないほうがいいようです。・・・
基本的に自分らしさが失われる ということですので、かえって、いつもの自分とは違うことをするのはいいみたいです。例えば、カトラーさんの土星人は理性的、常識的な行動が多いのが特徴なので、この逆の行き方、感情的で突拍子もない行動をとったりするといいみたいです。思いっきりカラオケやバーで羽目をはずすとか??!
こんな大殺界ならもちろん大歓迎だ。
(カトラー)
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