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幻獣リヴァイアサンになりたかった男  ~堀江貴文の蹉跌~

ホリエモン逮捕から11日、いまだ調書ゼロ

ライブドアグループの証券取引法違反事件で、前社長堀江貴文容疑者(33)がいまだに東京地検特捜部の調べに対し否認を続け、徹底抗戦をしていることが3日、分かった・・・

(nikkansprts.comより)

仕事がたてこんだのとある人のためにどうしてもまとめなければならない文章があり、ブログの更新を怠ってしまっていた。その間にライブドアの強制捜査から堀江貴文社長および経営幹部が相次いで逮捕されるという事態に発展した。

Leviathan

「3年後には時価総額世界一の企業になる」と豪語し、日本中のマスコミを巻き込んで、話題を提供し続けていた主人公の幕切れとしてはいかにもあっけないものだった。

堀江は、東京地検特捜部の取り調べ下にあり身柄が拘束されたままだが、調書はいまだゼロで容疑を全て否認していることが伝えられている。

ニッポン放送の大量株取得をめぐる一連の騒動の頃より、堀江貴文という人物を興味を持って眺めてきた。「想定の範囲内」という有名になったセリフも含め、既存の体制的価値観に挑戦を仕掛けている姿勢や、その過程で生じるコンフリクトに関する個々の言動では同感させられることもあったのだが、不思議なことに、そうした言動を繋ぎ合わせて見ても、この人物は一体何をやりたいのかが皆目見えてこなかった。特に、昨年末の衆議院選への出馬は、何を意図しているのかと首を傾げざるを得なかった。同じように、ライブドアという会社もマスコミの喧伝にのって短期間の内に知名度を上げ、今や田舎のじいさん、ばあさんでも知っているという企業となったが、では実際に何をやっている会社なのかと問うと誰も即座には答えられない。見えているようで、実は何も見えていないというのが、堀江貴文とライブドアという企業に共通する特徴である。

ライブドア株主総会の参加者

昨年のクリスマス、品川で仕事があり、駅前を歩いていると、長蛇の列に出くわした。高輪プリンスホテルの飛天の間などでタレントのイベントなどがあると、よく駅前まで列ができているのだが、その行列は一種異様だった。というのも、タレント系のイベントであれば、若い人たちが列をなしているのが普通だが、その時は、中年のオバサンあり、初老の夫婦あり、私のようなオヤジはもちろん若いOL風の女性なども居て、全く脈絡がない。

ちょうど、以前参加した、「マツケンサンバ」東京ドームイベントの客層に近いという感じがした。一体、何の列なのだろうと思ったら、ライブドアの株主総会に向かう列だった。

私は、ライブドアの株主ではないので参加はできなかったのだが、後で総会に参加したという知人の話を聞くと、なかなかの熱気だったという。通路にまで人が溢れ、壇上のホリエモンは、しきりにそうした人たちのことを気遣っていたという。株主総会というよりは、何かの決起集会という雰囲気さえあったという。

発行株式16億株、株主22万人

ライブドアは、報道されるように「株式分割」を繰り返し、発行株式数は16億株に達し、株主は22万人にも及ぶといわれる。飛天の間で開催された株主総会に参加した人々もそのうちのほんの一部ということになるのだが、特徴的なのは、堀江氏個人とニッポン放送株取得の際に株主となったフジテレビを除くと、いわゆる大株主は存在しないということである。小さなゴミのような個人投資家のマネーが集まって、ライブドアという企業を成り立たせていたということだ。

旧約聖書にリヴァイアサンといういくつもの頭を持つという海の怪物が登場する。この名が知られるようになったのは、17世紀の哲学者トマス・ホッブスが、「国家主権」のメタファー(暗喩)としてとりあげ、その国家論「リヴァイアサン」を著したからである。ホッブスは「万人の万人に対する戦いの世界」が現出しているような混乱の時代にあって、社会の自然状態から生まれる混乱と対立を解消するために「国家主権」というフィクションを設定し、それを旧約聖書に登場する幻獣リヴァイアサンになぞらえた。弱いゴミような個人が主権を委託することで構成されているのが「国家主権=リヴァイアサン」ということになる。

自らが「国家」になることを渇望

唐突に聞こえるかも知れないが、堀江貴文が渇望していたのは、この幻獣リヴァイアサンになることではなかったかと考えている。それは、自らが「国家」になることと言い換えてもよい。堀江はそうした考えを一度たりとも表明したことはないが、明らかにそうしたゴールイメージを持っていたと推測している。

まず、個人投資家を集めてライブドアという企業体をつくり、M&Aを繰り返し、拡大路線を突っ走った。次に、ブログのサービスを開始することで、私も含め膨大なブロガーたちの集合体をつくり、既存ジャーナリズムの世界に対しても力を持とうとした。衆議院選挙に出馬したことも、そう考えると彼の中では当然の行動で、現存の「リヴァイアサン」である日本国の元首になるということは、彼の中では矛盾は無かったはずだ。

経済(企業社会)、メディア、政治というそれぞれの世界で、インターネットというツールを使って、リヴァイアサンを作り上げるというのが、堀江貴文の秘した野望ではなかったかと考えている。 老若男女の区別なく株主総会に喜々として集まってくる株主の顔を見て、そこに堀江は、未来の幻想の王国の「国民」の姿を見ていたのかもしれない。

先の衆議院選挙で広島7区で亀井静香の対抗馬として出馬した際も、大方の受け止め方は冷笑的だったが、堀江自身はこの選挙に勝てば、ポスト小泉は自分のものだと本気で信じていた。この選挙戦の際に自民党の公認から最終的にはずされた経緯が伝わってきているが、真偽のほどはともかく、堀江が天皇制を否定していたことが公認を見送らせた最大の理由になったといわれている。

インターネットが与える万能感覚、超人思想

先日、起業家支援組織「スプリングボード」の関淑子さんと久しぶりにお会いして、ホリエモンの話となった。関さんによれば、シリコンバレーでもある種の「超人思想」が流行っていて、アイン・ランドAYN RAND)の「肩をすくめるアトラスAtlas Shruggedなどが熱心に読まれているらしい。インターネットというツールはゴミのような情報をまとめあげ、ひとつの生命体に仕立て上げることができるという意味では、ある種の万能感覚を経営者に持たせるところがあり、堀江もそうした魔法をかけられた経営者のひとりという言い方もできるかも知れない。

強制捜査の実施以来、一般マスコミは一斉に、ライブドアや堀江の虚業性を言い立てて、ライブドア叩きに走っているが、堀江がやろうとしていたことを過小評価すべきではない。マスコミの自分のことを棚に上げて他を批判するという姿勢もいい加減にすべきだろう。「実体がなく、幻である」というライブドア叩きの言い方は、そのままマスコミ産業全体、株式市場全体に対しても当てはまる。もっといえば、この日本国そのものでさえ幻獣リヴァイアサン、すなわち幻想に過ぎぬといえるからだ。うがった見方をすれば、堀江貴文は、自らの「幻獣リヴァイアサン」を作り上げることに夢中になり過ぎたことで、既存の社会システムの幻想性を結果として暴いてしまったがために、制裁を受けるはめになったとさえいえると思う。

ライブドアは確かに実体のない企業だ。幻獣リヴァイアサンという言い方が、格好良すぎるというなら、別の喩えをして、ヤブ蚊が集まったようなものだといえば分かり易いだろう。大量のヤブ蚊が集まって形を成し音をたてているので、それはあたかも怪物のように見えただけだ。けれども、そのヤブ蚊のような集団に買収を仕掛けられ右往左往し、結果的に株価がつり上がり、テレビの視聴率がハネ上がっていたとしたら、マスコミや株式市場自体がライブドアと大差のない、ヤブ蚊の集団ようなものとはいえまいか。

浮気なヤブ蚊は、今回の事件が発生してから、あっという間に雲散霧消した。ひとり堀江貴文だけが、今もリヴァイアサンの幻を見続けながら取調室で戦っているとしたら、その姿はなんとも痛ましい。

(カトラー)


関連記事:ホリエモンの拝金主義とは?

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コメント

おはようございます。私も堀江という人がなにを求めて「闘っていた」のか、わからんかった一人ですが、カトラーさんの説を読んで、頓悟したような気がします。それにしても恐ろしいのは日本という国自体が、リヴァイアサンあるいはヤブ蚊の集合したものみたいな気がすることです。

投稿: 北村隆男 | 2006.02.05 13:48

堀江がリバイアサンになりたかったんじゃなくて我々と時代がソレを欲してるんですよ。
彼の戦略が、我々の欲した既存権益破壊力や投機機会を提供している内に、ソレそのものに憑依されて加速しかできないスピードで登って行ってしまったわけです。
この閉塞感の逃し口という役割は、既存権益が十分温存されて彼らが有効に使いこなせない低金利下の膨大な流動資金のだぶつきがある限り、常に求められます。

投稿: トリル | 2006.02.08 01:37

「やぶ蚊」の集まりとは、言いえて妙です!
何事もまずは全体のイメージを把握することが大事だと思います。役に立ちました♪

投稿: 花ふぶき・てんちょう | 2006.02.14 23:24

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