グローバル企業「Starbucks」と喫茶「ひよ子」のビミョーな関係
コーヒーを1日に10杯近く飲むといったら、「それは完全にコーヒー中毒ですね」と周りからいわれてしまった。
メルヴィルの「白鯨」にコーヒー中毒の一等航海士が登場するが、その名前、スターバック(Starbuck)に因んで設立されたのがスターバックスコーヒーである。
私のようなコーヒー中毒者を世界中に蔓延させる というスタバのグローバル戦略は、今のところ順調に機能しているようにみえる。全世界の出店拠点は30カ国、5400ヶ所を超え、初の海外進出地であった 日本では、ここ数年で地方都市にもスタバが浸透しはじめた。中国に行って驚いたのは、上海の豫園や北京の故宮のような名所旧跡にまでスタバがしっかり出店 しているという事実だ。さぞかし、共産党幹部に大枚の袖の下を使ったのだろうと思ったが、スタバのCEOハワード・シュルツは、世界中をスタバだらけにしてやるという野望をもっているに違いない。
反グローバリゼーションの標的になっているスタバ
スターバックスコーヒーは、ここ数年、ナイキやコカ・コーラなど他のグローバル・ブランドとともに反グローバリズム運動の標的になっている。1999年には、シアトルで開催されたWTO(世界貿易機関)の会議に対して、グローバリゼーションに反対する10万人規模のデモがおこなわれ、暴動にまで発展、マクドナルドやスターバックスがグローバリゼーションに反対する活動家たちによって襲撃されるという事件があった。
こうした標的になること自体、スタバが世界ブランドになったことの証であり有名税のようなものという見方もできるだろう。因みにシュルツに対しては、彼がシオニストだという批判の声が上がり、スターバックス商品の不買運動が展開されている。
反グローバリズムの立場からは、「グローバリ ゼーション」とは、単に「国際化」を意味するのではなく、多国籍企業が、より安いコスト(賃金、原材料)とより大きな市場を求めて全世界に展開し、政治や 社会生活にも大きな影響力を行使している現実のことをさす。すなわち、自由競争と生産性を低下させる社会規制を撤廃させることが是とされ、弱者の淘汰を社 会的に容認することで「勝ち組」と「負け組」が峻別される。コーヒー豆は昔から存在した国際商品だが、90年代にベトナムなど社会主義圏の国が市場参入し たため需給バランスが崩れ、国際価格が暴落した。その結果、メキシコなど従来の産地では、貧困化が進み、スタバが契約しているコーヒー農場でも児童労働の 実態があったことが指摘されている。また、内側に目をむければ、スタバの出店が加速するに従って、日本でいえば昔からの「喫茶店」がどんどん廃業に追い込 まれた。スタバの成長が雇用に貢献しているとはいえ、働いている従業員の多くはパートタイマーだ。
グローバル企業の台頭は、雇用の海外流出と正規 雇用者の著しい減少につながった。その結果、安定した中産階級が崩壊、社会不安が広がっている。もちろんこうした問題のすべてがスタバという一企業の行動 によって引き起こされたということではない。グローバリゼーションという新たな段階を迎えた自由主義資本主義体制が抱える共通の問題であり、その体制に対 するアンチテーゼの象徴的対象として、スタバのようなグローバル企業が攻撃の標的となっているのだ。
教条主義的イデオロギーを排せ!
反グローバリズムの主張は、現在の資本主義体制が抱える矛盾の指摘として見た場合、共感できる部分が多いが、問題は、その思想をどのように行動として表現するかだ。
反核運動の時も強く感じたことなのだが、声高に 反グローバリズムを叫ぶ運動には、ある種「教条主義的イデオロギー」の臭いがつきまとう。経験的にいうと、この種のテーマを学者やインテリが主張しはじめ るとロクなことがない。政治家がその動きに乗っかりはじめたら最悪である。連中は偉そうなことを言っては、さんざんミスリードを繰り返してきた。「米国の 良心」とも呼ばれ、反体制的な言動で知られるノーム・チョムスキーでさえも、かつてはカンボジアのポル・ポト政権を支持していたこと、北朝鮮が拉致活動を 続けていた只中で旧日本社会党が金日成を褒め称えていたことなどが端的な例だ。
もっとも、左翼勢力が全くの腰抜け状態になってしまった今の日本では、反グローバリゼーションの動きそのものを日本共産党や社民党も全くといっていいほどネットワークできておらず、「教条的」と批判する以前の状態だ。
とにかく、インテリがワーワー騒いでもミスリードするだけ、グローバリゼーションに対抗しうる唯一有効な手段は、草の根レベルで「体を張る」ということしかないと考えている。
どっこい「ひよ子」は元気だ
築地に「ひよ子」(中央区築地2-10-2)という元気な喫茶店があることをこの辺に詳しい女性編集者に教えてもらった。
銀座・築地地区はいわずと知れたカフェ激戦区で ある。「ひよ子」の周りにも、スターバックス、タリーズ、ヴェローチェ、ドトールなど有名カフェチェーンが一通り軒を連ねる。店内は昔ながらの喫茶店で、 スタバのように「クール」とはいえないが、昭和のレトロな薫りが心地よい。私たちが店を訪れたのは、午前中だったが、サラリーマンがドアを開けて次々と 入ってくる。「ひよ子」は、グローバル企業のカフェチェーンに抗して、どっこい互角の勝負を挑んでいるという感じでうれしくなってしまった。
ジャンボコーヒー200円、トースト100円
たっぷりとしたマグカップのジャンボコーヒーは200円でバタートースト(マーマレード付)は100円という安さだ(写真)。一緒に行った女性編集者がバ タートーストを注文するとウエイトレス(といってもオバサン)が「パンのミミを切りますか」と聞いてきた。なぜ、そうした質問を投げかけてくるのかよくわ からなかったのだが、果たして、運ばれてきたバタートーストは、トーストが2枚分もあり、ミミを切ると女性にはちょうど良い分量になるということがわか り、彼女は感激していた。
マニュアル化されていない気遣い、古びた店内、年季の入ったマスター、これらはポッと出のスタバが逆立ちしたって真似できない「ひよ子」の魅力である。こうした「ひよ子」の魅力に感激する客がいる限り、「ひよ子」は健在である。
蛇足ながら、ひよ子たちのために戦略話をあえて 付け加えさせてもらえば、スタバのような巨大グローバル企業に対して同じ土俵で勝負を挑んでも叩き潰されるだけだ。喫茶「ひよ子」のように私は関係ありま せんという顔をして、わが道を往けばよい。そして、スタバのような巨人にとっては、「ひよ子」なんかは、どうでもいい存在でしょといって、生き延びてしま えばよいのだ。大きくなる必要はない、生き延びることが「ひよ子」にとって最強の戦略となる。
グローバリズムvsヒヨコイズム
そして、こうして生き延びた「ひよ子」たちが、 ある日、ピヨピヨと巨人の足元に群れとなって現れ、巨人が足場を失ってひっくり返ってしまう・・・というのが、私が密かに妄想している「ひよ子」たちと巨 人の戦争に関する結末である。グローバリズム(Globalism)に対峙させて、敬意を込めて、こうした「ひよ子」たちの戦略を「ヒヨコイズム (hiyokoism)」と名付けたい。
「ひよ子」みたいな店が踏ん張って、そうした店 を皆がもりたてれば、どこを見渡してもマクドナルドとスタバばかりという空恐ろしい風景になることから街を救い出すことができる・・・なるほど、そのこと はわかったが、「もっとスタバやグローバル企業に直接アタックできることはないの?」と考える方もいるかもしれない。
私の知っているある女性活動家は、原稿書きのためにほぼ毎日、近くのスタバに通っているのだが、内緒で毎回、大量にスタバのナフキンやシュガーをいただいてくる。
あまりお薦めはできないが、こんな「抵抗手段」もある?・・・ということだ。
(カトラー)
ヒヨコイズム(hiyokoism)の定義:グローバリズムに対抗する反グローバリゼーションの戦略。市場において適正サイズを志向し、成長するよりも小さくても生き延びることに優先順位を置く考え方。
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コメント
こんばんは、きょうのはすごく共感しました。ヒヨコイズム、いいですね。別にスタバは嫌いではありませんが、増殖したスタバにはなにか恐怖を感じます。
ただ、これをきっかけにみんなが「ひよこ」に大挙しておしかけてはいけませんね。節度をもって、さりげなく、おずおずとうかがいましょう。
投稿: 北村隆男 | 2006.03.27 20:33
こんばんは
溢れるばかりのモノやコトに囲まれすぎて、
小さく、身の丈ほどで慎ましくあることがますます難しくなっていますね。
ただ、その溢れるばかりのモノやコトは実はごく一部の独占によるものばかり。
世界各国の都市はすべて同じ顔になりつつあります。
「小」という漢字は、木の枝をどんどん削っていく様から生まれたとか。
余計なものをそぎ落としてその本質を見つめるように感じます。
私のバイブルは「le petit prince」
「small is beautiful」
なので、私の活動も
「小小」xiaoxiaoと名がついています。
投稿: xiaoxiao | 2006.03.28 00:49
>そして、こうして生き延びた「ひよ子」たちが、ある日、ピヨピヨと巨人の足元に群れとなって現れ、巨人が足場を失ってひっくり返ってしまう・・・
これを読んで、「ぴよだまり」のアニメを思い出しました。w
http://www.piyodamari.com/top.html
投稿: Baatarism | 2006.03.28 17:18
北村さん、xiaoxiaoさん、コメントをありがとうございます。
小という漢字の語源がそういうことだとは知りませんでした。このことに倣っていえば、自分の本質を知るということが結局、小さき者が生き延びる強さにつながるのかも知れませんね。
Baatarismさん、早速、ご紹介いただいたサイトでアニメを拝見しました。キャラクターグッズもかわいい。これが流行って「ひよこブーム」が到来したらうれしいですね。
投稿: katoler | 2006.03.29 01:59
たまたま銀座のスタバでうとうとしながらひよ子のことを考えていた私が来ましたよ。築地人間であれば一度はひよ子でうとうとしていて「寝ないでください」と注意された経験はあるはず。いや、ないか(^^;。それはそれで貴重な人生勉強だったり(^^;。
投稿: ツキモトユタカ | 2006.03.29 12:29
ツキモトさんコメントありがとうございます。
確かにひよ子はウトウトするほど妙に居心地がよいですね。でもコーヒー200円で客に寝られてしまったら、さすがに経営的には困るので起こしにかかるのでしょう。築地にはひこ子のような渋い店が色々あるので、築地に仕事場があるみなさんがうらやましいですね。
投稿: katoler | 2006.03.30 15:31
スターバックスとて、もとはシアトルのパイクプレイスの片隅に店を構えるひよ子のような店だったわけですが。
やつらに買収されるまでは。
そう言う意味で、ひよ子が突然変異で巨人になることだってあるのが今わたしたちが生きている世の中です。
投稿: k | 2006.04.09 00:18
スタバやマクド、所謂ファーストフード系が立ってきてるのは現代気質・性格からくるのかもしれませんね、、
干渉されたくも、したくもないという‥‥
投稿: ピンクノワニ | 2006.04.10 12:47