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水上・湯檜曽温泉、「ホテル湯の陣」の闘い

yunojinn このブログにも何回か登場していただいている慶応大学SFCの渡邊先生の紹介で群馬、水上・湯檜曽(ゆびそ)温泉にある「ホテル湯の陣」に仲間と投宿する機会を得た。

「ホテル湯の陣」は、水上温泉の奥座敷ともいわれるこの湯檜曽の地で44年前に創業した老舗旅館で、源泉掛け流しの良質な温泉と美人女将(おかみ)を中心とした行き届いたサービスで評判を呼ぶ繁盛旅館である。

水上温泉郷も世 の他の温泉場と同様、バブル崩壊以降の深刻な不況に苦しんできた。ピーク時年間230万人あった宿泊客が180万人まで減少、数多くの旅館・ホテルがバブ ル時代に銀行からいわれるままに借金をして設備投資に走り、抱えた負債が重くのしかかり、倒産・廃業も相次いだ。

 

「ホテル湯の 陣」にも悪戦苦闘の歴史があった。もともとは客室数が600を超える大型旅館で、企業の慰安旅行や宴会を数多く手がけていたのだが、バブル崩壊後は、法人 客が激減し、個人客に軸足をシフトせざるを得なくなった。個人客に喜ばれる旅館にするためには、設備や食事メニューの見直しはもちろんのこと、従業員の再 教育など、手をつけなくてはならないことが山積していた。

「ホテル湯の 陣」の日垣社長は、ピアニストを志したこともある芸術家肌の方だが、女将(おかみ)との二人三脚(写真)で経営の「構造改革」に取り組んだ。最も苦労が多 かったのが人の問題だったという。新しい経営方針についてこれなかったり、異をとなえて辞めていった古参社員もかなりの数に及んだ。「痛みは大きかった が、早めに改革に手をつけられたので生き残ることができました」と女将(おかみ)の日垣千景さんはふり返る。

 

巨大テレビ局との闘い

 

今は、にこやかに当時のことを語る日垣さんだが、3年前にもうひとつの闘いがあった。

それは巨大メディア、テレビ局との戦いである。

某在京キー局の日曜日、夜10時の枠に報道番組があった(今は、別番組になっている)。ある日、その報道番組の下請け制作会社から声がかかり「湯の陣」にドヤドヤと取材クルーがやってきた。取材は2ヵ月に及び、撮影カメラがどこに行くにも女将の後を追った。

当初、告げられていた番組の趣旨は女将の日垣さんを中心に旅館の人たちが改革に向けて頑張っている姿を取材した「細腕繁盛記」的な内容のものということだったが、オンエアされた番組を見て腰が抜けるほど驚いた。

「負債20億円・・・ガケっぷち温泉旅館35歳女将が挑む(秘)構造改革大作戦80日間」というタイトルで、越後湯沢の某旅館との対比で、稼働率の高い越後湯沢が成功事例、湯の陣がその逆という、まさに「ガケっぷち」の状況にあるという扱いがされていたのだ。

旅館の新しい経営方針をめぐって従業員と口論する姿や、女将が難題に思案して涙ぐんでいるシーンなど、本人も了承していない私的な映像なども使われていた。周囲の人々や水上温泉組合のメンバーからも「どうしてこんな番組に出たんだ!」という非難が女将に集中した。

近隣ばかりでは ない、「番組を見た」といってくる、質の悪そうな経営コンサルタントや女将をわざわざ罵倒しにくる客なども現れた。心労のあまり、体調もおかしくなった が、日垣さんは女将として毎日客を迎え、先頭に立ち続けた。番組がオンエアされた翌日には、全従業員を集めて、テレビ局に対して徹底的に抗議し闘うことを 宣言した。

 

報道被害を訴え徹底抗戦

 

といっても、対 抗するようなメディアを持っているわけでもない。日垣さんは、ホームページ上に抗議のメッセージを掲載し、番組のキャスターなどに対して直接手紙を出すな ど、考え得る限りのあらゆる伝手を通じて、テレビ局の上層部に対して抗議の働きかけを始めた。最終的には訴訟を起こすことも厭わないと覚悟をきめた。

3年前のメディ アの世界では、報道被害の問題がクローズアップされ、議論され始めていた時期に当たっていた。こうした時期だったことも功を奏したのだろうが、日垣さんか らの抗議がテレビ局の上層部の知るところとなり事態は動き始めた。しばらくして調査が入り、「誤編集」に近い、かなり強引な番組づくりがなされていた実態 が明らかになった。話し合いの末、テレビ局はこの件について、番組中で謝罪し、経営改革の状況を再度取材してオンエアするという異例の措置をおこなった。

日垣さんの完全勝利だった。

テレビ局が約束した2度目の特集がオンエアされた夜、ホテルの従業員からは歓声が上がったという。

日垣さんは、23才の若さで湯の陣に嫁ぎ、女将としての教育を先代の女将から受けてきた。先代の女将が亡くなられてからは、湯の陣の実務を実質的に取り仕切り、経営改革を主導する立場となった。

湯の陣のご主人は、青年の頃は、ピアニストを志したほどのピアノの腕前で、ロビーで毎朝、宿泊客のためにピアノを弾いてくれる。聴く者をゆったりとした気分にさせてくれる、とても穏やかなタッチで、思わず聴き入ってしまった。

 

「今は、こんな風に優しいタッチですけれど、昔は激しい曲を勢いにまかせて弾いていました。想像つかないかもしれませんが・・・」と女将はご主人のことをそう言って笑った。

 

闘いをくぐり抜けると、人は限りなく優しくなれるのかも知れない・・・そんな風に思わせるピアノの音色だった。

(カトラー)

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コメント

私は町内の老人会に出入りしていて、お年寄りの愚痴を聞いています。
旅好きの老人の繰り言は、
旅館ってのはなんで判を押したように「1泊1室大人2名利用での1名料金」で一人旅を邪険にするのか、
年寄りはもう食欲なんてほとんどないから、豪華絢爛な料理なんか無しにして、そのぶん料金を安くして欲しい
と、テレビの旅番組を見るたびに哀しんでいます。
そういう人達は旅行雑誌で「お一人様歓迎」を探して旅行を楽しんでいるのですが、反面、料金表で一人旅を歓迎していない宿が経営不振になったり潰れたりすると、快哉をあげています。
旅館業の経営不振って、客を選り好みしているからでしょう。自業自得です。

投稿: てんてけ | 2006.03.21 09:22

日本の旅館業が夕食で稼ぐシステムである以上やむを得ないのかも知れませんが、ひたすら量を出して客単価を上げていくのはどうかな、と思っています。高品質なB&B(Bed & Breakfast)がリーズナブルな料金であればよいのですけどね(星野リゾートは高級B&Bのようですが)。

投稿: skywolf | 2006.03.26 12:14

コメントありがとうございます。
以前にも書いたのですが、日本の旅館業の皆さんは、大変だ大変だという割には、提供しているサービスを変えることに臆病ですね。
てんてけさんがおっしゃるように、老人の一人旅を受け入れるというのも良いと思いますし、skywolfさんがご指摘のように高品質なB&Bの提供というコンセプトもありだと思います。
このことは、外国人旅行客の受け入れという問題にもつながるでしょう。要は、まだまだやれることはいっぱいあるのではないか?ということですよね。

投稿: katoler | 2006.03.27 15:59

湯の陣は、一度、立ち寄ってファンになって依頼、何度か通っている温泉なんですが、背後にそんなドラマがあったとは知りませんでした。

投稿: うさぎ | 2006.05.17 14:46

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