移民問題を問う~思考停止状態から脱却せよ~
国連が移民に関する研究リポート「補充移民レポート」をまとめ、今後の人口動態から必要となる移民の数を推定している。この研究リポートによれば、日本およびヨーロッパの先進諸国では、1995年から2050年にかけて、少子高齢化などの影響で人口が3/4から2/3まで減少することが予想されていて、労働力人口の割合を維持するためには、毎年、大量の移民を受け容れる必要があるとしている。
日 本もその例外ではない。現在の生産年齢人口を維持していこうと思ったら、毎年64.7万人にもおよぶ移民を受け容れていく必要があるとされている。手元の 資料では2003年の日本に滞在している外国人労働者数(合法、非合法)は約91万人とある。ということは、現在、日本に滞在している外国人労働者の約 7~8割に相当する人数を毎年受け容れていくということだから、いかに大量の移民が必要かということがわかるだろう。もっともこの推定には異論もある。生 産年齢人口を確保するためには、女性の労働化率や高齢者の定年延長などによる方法もあり、全て移民によって数合わせをする必要はないからだ。
多 くの日本人は、外国人労働者が増加することに不安感を持っている。移民受け入れの先進国であるフランスやドイツでも経済格差の拡大によって、人種問題、宗 教問題という形をとって、さまざまな社会問題が発生しており、国粋主義者による移民排斥運動なども一部で発生しているからだ。できれば、そんな、しちめん どくさい事には関わりたくないというのが、大方の日本人の本音かも知れない。
し かしながら、われわれ日本人にとって、残念なことに移民問題に関して既に選択肢は存在しない。移民を受け容れるか、受け容れないかという、いずれかの態度 を選ぶことができる立場にあるのではなく、どのように移民を受け容れるべきなのかという議論が必要な段階になっている。
移民をどのように受け容れるかが問題
確 かに、机上の数合わせの議論では、先述した女性の労働化率や定年延長などを言い立て鉛筆をナメれば、何通りものシミュレーションを行うことが可能だが、現 実が役人にとって都合の良いシミレーション通りになった例がない。合計特殊出生率のことを思い出せば、役人のシミュレーションがいかにインチキだったかと いうことは今更言うまでもないことだろう。彼らの机上の空論につきあっている時間はもう残されていないのだ。
移 民問題に早くから向き合っているのがドイツである。1950~60年代の高度経済成長期にドイツでは労働力不足からトルコ、ギリシャ、スペイン、チュニジ ア、モロッコなどから大量の外国人労働力を受け容れた。1973年に移民の募集はいったん打ち切られたが、その後も東欧諸国からの政治亡命者や難民を受け 容れ、ドイツに居住している外国人は全人口に対して9%を占めるまでになっている。ヨーロッパの中では結果的に最も多くの移民を受け入れてきた国だ。
ドイツの国家戦略としての移民政策
そ のドイツが、2001年に新たな移民政策に転換した。移民を受身の問題としてとらえるのではなく、国家の戦略として計画的に受け容れていこうというもの だ。複雑だった移民法も簡素化し、ひとことでいえば、次世代の産業創生につながる優秀な人材を世界中から集めるという方針に転換したのだ。当時、首相だっ たシュレイダーは以下のようにその政策を自賛していた。
「アメリカが世界一の強国に成り得たのは、移民政策を成功させて世界中の優れた異質な頭脳と労働力を集めたからだ。欧州が21世紀でアメリカと肩を並べるには、その中心となるドイツが自ら率先してそうした寛大な移民政策に貢献することである」
日本が直面している少子高齢化、人口減少のインパクトは、ドイツよりも深刻である。
移民政策の不在、思考停止状態
に もかかわらず、移民をめぐる問題に関して、まともな議論も起きていないというのは、一体どういうことなのだろう。従来より、日本には法執行的な意味での出 入国管理政策は存在するものの、社会政策的な意味での移民政策が存在しないことを政府自身が認めている。日本は外国から移民を受け容れないということを基 本としており、この問題を考える機能自体が政府内には存在しないといってもよい。では、政治家はどうかといえば、医者、法律家、会計・税理士など専門知 識・スキルのある外国人材に門戸を開けば、当然、自民党の支持母体などから猛反対が起こる。一般労働者として外国人を受け容れれば労働組合が反対する。民 主党の若手議員が「移民1000万人構想」というのを提唱しているようだが、大きな声にはなっていないように、移民の問題を議論しても誰も喜ばないという 構図が存在する。要するに官も政治家もこの問題に関して「思考停止状態」にあるわけだ。
「貞子ちゃんの連れ連れ日記」さんも指摘していたことだが、これを国家による「不実の不作為」といわずして、何といおう。
(カトラー)
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
なぜ、日本がアメリカやドイツの真似をする必要があるのかさっぱり理解できません。
>これを国家による「不実の不作為」といわずして、何といおう。
むしろ、国民の意見をよく取り入れているかと。
日本人は日本人だけが好き。
外国人をいれて、国をけがされたくない。
投稿: | 2006.04.20 21:21
Katoler didn't say that japon should follow the exemples of Germany neither US. He is accusing japanese politicians
for thier neglectful attitude.
投稿: junq | 2006.04.21 03:20
労働力の不足が明確になるまで、このままになりかねないですね。
ありえるとしたら道州制が進んで、どこかが積極的に移民を受け入れることくらいかなぁ。
投稿: ひろ | 2006.04.21 18:07
幼年層を日本人保護者が養育するというなら肌の色に係わらず受け入れる素地は未だあると思うんだけど、できあがった大集団を一旦入れた以上状況の変化で止めるわけにも行かないし、慎重で良いんじゃないかと思う。
投稿: トリル | 2006.04.23 01:55
欧州の移民政策の根幹は
自分たちがおこなってきた植民地政策のツケを
移民という形で補いさらに重労働を押し付ける
政策をやってきただけであって
少子化対策でもなければ
人権でもない
移民は末端労働力であって主要にはさせないのが
欧州のやり方
日本でこのプロ市民が蔓延る日本でできるんですかね
投稿: 半兵衛 | 2006.04.28 10:55
Who is カトラー?? it was to be Kotler, isnt it?
投稿: | 2007.08.30 21:52