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ジョージWブッシュの神権政治

Urianusu 前回のエントリー記事「ユダの福音書発見とシオニズムの行方」に対して、武井さんから「イスラム原理主義、ユダヤ原理主義シオニストとブッシュアメリカ大統領のキリスト教原理主義の並列はいかにも乱暴」ではないか?という指摘をいただいた。武井さんの指摘もふまえて、前回の記事をもう少し発展させてみたい。

前 回の記事は、ユダの福音書の発見が、ブッシュ政権、キリスト教原理主義、シオニズムというトライアングルの中でどう見えるかについて書いたものだった。ユ ダの福音書の発見という、本来は純粋に宗教的、文化的な出来事が、世界の政治状況に影響を与える可能性があるという私の文章に対して、武井さんは、「そん なダヴィンチ・コードに出てくるような話が現実にあるだろうか」と疑問を呈されたと理解しているが、私がここで問題にしたかったのは、そうした可能性を現 実にしかねない状況、別の言い方をすれば、現在の世界政治が擬似的な神権政治に陥っているという問題だ。

 

神権政治に陥ったブッシュ政権

9. 11の直後までは、アフガニスタンへの派兵を「十字軍」と表現したブッシュ大統領の発言を慌てて撤回させるなど、米国は自分たちの軍事行動がイスラムとの 「宗教戦争」という図式に陥ることを極力回避すべく努力していたと見受けられたが、現在は、むしろすすんで「十字軍」としての役回りを引き受けているよう にさえ見える。コリン・パウウェルがブッシュ政権から離脱してからは、そうしたトーンがより鮮明になった。一体、何が事態をここまで変えてしまったのか。

それはひとつには、ジョージWブッ シュの個人的な資質の問題がある。キリスト教の信仰によって自分自身が生まれ変わったこと(ボーン・アゲイン体験)を公言してはばからない「神がかり」政 治家であり、最近の言動などを見る限り、自分は神の意志にしたがっているのだという過剰な自信ばかりが目につく。政治家や指導者が何故、「神がかり」で あってはならないかといえば、どんなに明晰な政治家でも神ではあらぬ限り、誤りを犯すからだ。また、現実の政治状況の中では絶対的に正しい政策選択という ものがそもそもありえず、常に蓋然性の下で判断を迫られるからだ。国民やメディアに対してはリーダーとして下した決断や選択の正しさを見事に説明して見せ たとしても、どこかで迷いや悩みを持っていることが民主主義国家の政治家としては不可欠な資質ではないかと思う。

 

新自由主義的ドグマで世界を染め上げる

 

それに対して、現在のブッシュや彼を取り巻く政権上層部は、明らかに彼らが信奉する新自由主義的ドグマで世界を染め上がることが「正義」であり「善」であるという「原理主義」もしくは「宗教的確信」にとらわれているように見受けられる。

換 言すれば、米国の考える資本主義(=米国流民主主義と自由主義)の原理が唯一正しいという「原理主義」とブッシュの「神がかり体質」が結びついて、キリス ト教原理主義との関わりやイスラム原理主義との対峙関係が生まれ、現在の政治状況が醸成されているのだ。聖書に書かれていることが字義通りに実現されるこ とを信じているキリスト教原理主義者が、ブッシュ政権に対して大きな影響力を持っているといわれる。こうした話は、一般の日本人からは、かなり奇異に感じ られるだろう。しかし、米国人は、聖書だけを信じて新天地アメリカに渡り、合衆国を建国したピューリタンの末裔たちであり、ブッシュが属しているキリスト 教右派といわれる「福音派」と呼ばれる宗派は、米国民の1/4を占めている。米国という国は、見方を少し変えれば、イスラム国家以上に「宗教国家」であるともいえるのだ。

グローバル資本主義という「宗教」

 

も ちろん、米国は近代民主主義国家である以上、かつてのローマ帝国のようにキリスト教を国教にするということはありえないが、ブッシュが密かに信奉する、も うひとつの「宗教」がある。それは、グローバル資本主義という「宗教」である。グローバル資本主義、言い換えれば、米国流の「自由経済と民主主義」によっ て、この地球上の隅々まで、塗りつぶしていくことが、「十字軍」を自称するブッシュのミッションになった。

米 国流という言い方も誤解を招きやすいだろう。本来、米国は内向きな国家で、他国にまで出かけていって「自由経済や民主主義」を押し売りしたことは稀だっ た。だとすれば、現在の状況は、グローバルマネーの力が、米国の一国主義をも蹂躙してしまったと言う方が適当かもしれない。今やブッシュは、米国の大統領 というよりは、「グローバル資本主義」という「神」の言葉の伝道師となった。この伝道師は、もともとはアル中でコンプレックスの強いダメ人間だったが、信 仰のおかげで生まれ変わったという。だからだろうか、ブッシュは大統領というよりは、説教臭い田舎の牧師のような顔をしている。単なる田舎の牧師なら何の ことはないが、信心深いが凡庸なこの人物に、世界最強の軍事力をはじめ強大な権力が集中しているのだ。やっかいなことに「自由経済や民主主義」を世界に広 めることが自分の使命だと心の底から信じて、軍事行動を起こしている。

 

背教者ユリアヌスの夢

けれども、自分が行っていることに疑問をはさむことをしない、原理主義者同士がぶつかり合うところに、平和はありえない。

か つてのローマ帝国に、国教とされていたキリスト教の不寛容さに疑問を呈したユリアヌスという皇帝がいた。ユリアヌスは、異質なものを異質なものとして受け 容れた、寛大なかつての「ギリシア・ローマ精神」の復活を唱え、異教の神を祭る神殿の復興を認めた。ユリアヌスは、キリスト教を禁じたわけではなく、他の 宗教も認めただけなのだが、そのことによって後世からは「背教者」と呼ばれた。

ユリアヌス「ローマの人民の多くはなおギリシャ古来の神々を信じていることを、私たち為政者は考慮に入れる必要がある。単にキリスト教のみを国教の範例にするわけにはゆかない」・・・・

アブロン「キリストを信じながら・・・陛下はなぜ忌まわしい偶像神に執着しておられるのですか」

ユリアヌス「そこにローマの精髄が美しく残されているからだ。ローマの伝統は神々の祭祀のなかにしかないのだ」・・・

アブロン「真理は一つでございます」

ユリアヌス「しかし、両派ともそう言い立てるだろう。そうすれば、どうする?やはり相手を殺すことになるのか?・・・・では、教義が一つになるまで殺戮はつづかなければならないのか?」

アブロン「真理のためで・・・ございます」・・・

ユリアヌス「私の考える真理とはそんなものではない。真理がなんで自らの手を血で汚す必要があろう・・・」(辻邦生「背教者ユリアヌス」より)

世界では今日も「自由と民主主義」の名の下で、殺戮が続いている。

米国というスーパーパワーが、世界の多様性について不寛容になった時、ユダの福音書の発見という、本来、文化的、宗教的問題が、世界を破滅へと導く象徴的パワーを持ってしまうことだってありうる。

今、世界が必要としているのはこのユリアヌスの寛容さだ。

 

(カトラー)

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コメント

こんばんは、いつも拝読させていただいてます。
辻邦夫「ユリアヌス」で反応してしまました。
辻さん、なかなか、メジャーにはならんですね。おっしゃるような観点から、ななかか異質な文人ですね。それをまた、無視し続けるような文壇、ジャーナリズム、これはまたどうも。

投稿: 北村隆男 | 2006.04.19 00:13

この度は大変恐縮です。
 
 これまで、カトラーさんの知識 教養 感性に敬意を払わずにその記事を呼んだことはありません。これからも然りです。
 ユダの福音書、シオニズムが、超大国アメリカの政権担当者達にどのような影響を与えるのか。このような視点から 彼ら権力者達の性向を考察しながら世界情勢への影響まで読み解こうとする2回にわたる記事は 大変読みごたえのあるものでした。
 それでも尚、前回のコメント同様「少々乱暴では、」と言う面が残ります。
 はからずも、原理主義への危惧が語られているのならば、一視点からだけではなくアメリカの行動とその影響を違う視点から多面的に眺めることも必要ではないかと思うのです。
 胡錦濤が「社会主義下での民主化に努力する]、「アメリカ型の民主主義や自由は中国の文化にそぐわない」と主張しています。
 中東専門家が「イスラム教の規範が生活のすべてにわたって浸透しているイスラム社会でアメリカ型民主主義を望む空気はほとんどない」としたり顔で解説しています。本当にそうなのでしょうか。
 民主主義や自由に人類普遍の価値はないのでしょうか。
 私達はその答えかもしれない瞬間を目の当たりにしたはずです。
 イスラムの歴史始まって以来の出来事です。アフガニスタンで女性に参政権を与えた自由選挙が行われました。しかしタリバンの残党が、数千箇所の投票所を投票日に一斉攻撃するとアフガニスタン国民を脅迫し続けたのです。
 「これでは誰も投票所に足を運びませんよ。アメリカの目論見通りに行く筈がない。ベトナムの二の舞になりかねませんね。」こぼれ落ちそうになる笑みを噛み殺してコメントしていた大学教授の顔が忘れられません。結果はご存知のとおりです。
 数千箇所の投票所にアフガン女性の長蛇の列ができたのです。タリバンは一箇所の投票所も攻撃できませんでした。私のその時の驚きは表現できないほどのものでした。今後仮に、イスラム原理主義の指導者が現われて、コーランの教えに則り女性の政治参加は認めないとされたなら アフガン女性は命に代えてもその権利を守り抜くでしょう。
 イスラムの半分を構成する女性が参政権を手にした時 世界情勢にどれほどのインパクトをもたらすでしょう。
 このような視点も考慮する時、カトラーさんの記事のトーンも変わるのではないでしょうか。

投稿: 武井 | 2006.04.24 02:06

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