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クチコミ革命の法則

Kuchi_comiccs_2 OL 向けのフリーペーパー「シティ・リビング」が、クチコミックスというオシャレなマーケティングレポートをまとめた(非売品)。実をいうと、その中にカトラーとして小生も「プロシューマーのクチコミはロングテールを遡行する」というタイトルの原稿を寄稿している。拙文が掲載されているということで手前味噌になるかとも思ったのだが、レポートとして素晴らしい出来ばえなので、まずこのレポートについて紹介したい。

昨年あたりから「クチコミ・マーケティング」流行(ばやり)だが、クチコミックスは、OL のクチコミを創刊時から追及してきた老舗フリーペーパーとして、クチコミ・マーケティングの今日的意義をマーケティングの専門家、実際にクチコミ機能を活用して事業を成功に導いている経営者(All about.com、 @コスメ他)にインタビューするなど、多角的な切り込みで構成したものだ。レポートのハイライトは、マーケティング・コンサルの辻中俊樹氏が監修する形で、OLのクチコミの仕組みと実態をまとめた調査レポート「REPORT OLクチコミガ研究会~Lunch&Clickマーケティング~」。

「OL のクチコミを効果的に起こすことは可能か?それはオフィスのランチタイムにヒントがある」という仮説を提起し、その仮説を実証するという形でまとめられていて、その仮説検証を踏まえて、OL層に対して有効なマーケティング手法が具体的に提言されている。F1(Female1)世代に広告・プロモーション活動を考えているマーケッターにとっては必読の内容といえるだろう。

クチコミ革命が進行している

クチコミ・マーケティングは今に始まったことではなくて、昔から、色々な形で実践されてきたが、ここにきて再び脚光を浴びているのは、ひとつにはブログやSNS などクチコミをn倍化するネット装置が登場していることによる。新聞も読まない、テレビも昔ほどは見なくなったという今の若者たち、いわゆるジェネレーションY(団塊ジュニア層)にリーチするために、ネットのクチコミの輪に自社ブランドや製品をうまく乗っけようというわけだ。そこでは、クチコミは、流行のマーケティング手法のように扱われているが、実はもっと本質的な変化が進行しているのではないかと考えている。
結論からはっきりいわせてもらえれば、現在、クチコミという言葉を軸に進行している変化は、単なる手法の変化だとか、広告屋の新手のセールストークだと思ったら大間違いだ。私の考えでは、これは「革命」である。クチコミ・マーケティングとネットとの関わり、また、クチコミとブランディングとの関係などについて、根本的な変化が起きてくるだろう。これから何回かにわたって、「クチコミ革命の法則」についてこのブログで取り上げてみたい。

恐るべしクチコミの起爆力

Chiken ネット上のクチコミ・マーケティングの代表的事例として米国で評判を呼んだのが、Burger Kingが仕掛けた「Subservient Chicken(服従するチキン)」である。画面上に登場するチキンの着グルミを着たキャラクターに指示を送ると、その言葉に応じて言うことを聞いたり、聞かなかったりする。この曖昧性がポイントで、特定の言葉には反応するが別の言葉ではピクとも動かない、動かないどころか時にフテ寝をしたりする。SEX関係のワードはダメだとか、こんな指示を出したら変な動きをしたとか、ネット上を話題が駆け巡り、このSubservient Chickenへのアクセス数は1週間で4600万件に達した。当初、このプロモーションにBurger Kingは名前を一切出していなかったのだが、誰が何のためにやっているのかという声が高まり、今は、Burger Kingの名称が明示されている。客の好みに応じてハンバーガーの中身が選べるというBurger Kingのサービス・メッセージを伝えるために意図されたキャンペーンということになっているが、シャレでやっていたら思わぬ大反響を呼んだというのがホントのところのようだ。

Burgerking_gossip これに味をしめたのか、次に仕掛けたのがBurger Kingの着ぐるみキャラクターを登場させ、有名モデル、ブルック・バーグと浮名を流すという作戦。実際のゴシップサイト「Hollywood Rag」とタイアップして、Burger Kingとブルックがデートしたり浜辺でいちゃつく姿の盗撮風の写真を掲載させ、Google ビデオにも投稿したりして、意識的にクチコミのネットワークにネタを流した。クチコミ・マーケティングを展開していること自体を意識的にマーケティングしたという意味では正に確信犯的なパターンといえるだろう。

こうしたナンセンスなプロモーションは個人的にはハマリなのだが、商品特性だとか特定の商品メッセージが流布されたわけではないので、広告宣伝の手法としては、如何なものかと諭す堅物の方も中にはいらっしゃる。そうした真面目なご意見に対しては、むしろ逆であると申し上げよう。クチコミに特定のメッセージを乗っけようという意図が見え透くと、クチコミュニケーションはとたんにしらけてしまう。あざといマーケティング目標のようなものが見え隠れしていなかった点が、Burger Kingの取り組みがかえってネットピープルに受けた大きな要因になっている。クチコミを利用するのではなく、クチコミから愛される姿勢が必要なのだ。

男前豆腐店の「男気」と「洒脱」に学べ

日本の成功事例ということになら、イチオシはなんといっても、クチコミックスでも紹介されている「男前豆腐店」。ジョニー伊藤こと三和豆友食品(茨城)の社長で「天才クリエーター」(あえてそう呼ばせていただく)伊藤信吾氏の才能に拠るところが大きいが、この「男前豆腐店」のサイト(音あり注意)を見ないで死んだら、あの世で閻魔さまに豆腐の角に頭でもぶつけて死んじまえといわれるにちがいないほど秀逸な出来ばえである。

男前豆腐店は、「男前豆腐」や「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」など普通の神経をしていたら絶対に思いつかないネーミング、はちゃめちゃなパッケージデザインでネットを通じて話題が一気に拡大した。そのはちゃめちゃさに反して、セレブ奥様の集まる玉川高島屋に固定店として進出を果たしということだからあっぱれだ。残念ながら、私の住む柄の悪い足立区には扱い店舗が無いので、実際に食したことがない。ただ、私の周りの男前豆腐のファンたちは、「味が良いから、リピーターになっている」と主張する。伊藤社長も一番腐心したのは、ネーミングやパッケージングではなく、「豆腐それ自体の味作り」だったという(こういう言い方するのもウマイね)。

Otokomae_gasyaponこの男前豆腐店が豆腐で有名になって、次はどこにいくのかな?と思っていたら、なんとガシャポンだった。

こういう行き方をブランディングの権威の先生などは、「ブランドの多角展開」などと気取って呼ぶのかも知れないが、どうもそんなものとはサラサラ関係ない気がする。「男前豆腐店」というブランドを構築しているというより、この「言葉=男前豆腐」を遊び尽くしているというほうがピッタリくる。自分の商品をオモチャにして遊んでいるのだ。だから、豆腐の次はガシャポンに行くというのは、事の必然といってもよいだろう。

マーケティング用語で「ブランドロイヤリティ」という言葉がある。昔から何ていやな言葉だろうと思っていた。そもそも人間が、何かのブランドに忠実ということは何を意味するのだろう。人間蔑視の言葉として、こんな用語は差別用語として使用禁止にしてしまえば良いぐらいだ。ブランドロイヤリティなどといって偉そうにカッコイイブランドを気取るより、「服従チキン」や「ガシャポン」になって見せることの方が、よほど今のブランドが抱えている問題に本質的に応えることになるのではないか。
少なくともクチコミから愛されるのは、Burger Kingやこの男前豆腐のように自分の商品をオモチャにされても良いと思い切る「男気」、あるいは「洒脱」な精神だ。

クチコミ革命の法則①:クチコミに乗ろうと思うな、クチコミに愛されよ。自分の商品をおもちゃにしても良いと思い切る「男気」と「洒脱」な精神を持つべし。

(カトラー)

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コメント

男前に汚点が...ちょとした気の緩みですかネ
男前豆腐店:工場長ら書類送検 大豆がら違法処理
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20060706k0000e040072000c.html

投稿: マルセル | 2006.07.06 15:25

マルセルさん、ありがとうございます。
このニュースは知りませんでした。
男前豆腐の味も知らずにいたのですが、仕事仲間のTさんから、セブンイレブンで「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」を取り扱っていると聞いて、近所の店に行ってみたら、置いてありました。早速、食してみると噂通り、濃厚な味わいでなかなかいける。醤油でなく、塩の方が良いですね。ということで、「柄の悪い足立区には扱い店舗がない」という文章は訂正させていただきます。

投稿: katoler | 2006.07.07 23:52

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