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Switch off the TV! 退屈なTVなんて消しちまえ!

Machiyama_book 最近、テレビを見なくなった。
とにかく、テレビ番組自体が面白くなくなった。ドラマはいうに及ばず、視聴率がある程度読めるという理由からなのか、どこのチャンネルを回しても「情報バラエティ」というジャンルの番組がやたら多くなり、食傷気味である。以前は帰宅すると報道ステーション(古舘一郎)やニュース23(筑紫哲也)などニュース番組をリレーしながら見ていたのだが、ホリエモンのニッポン放送買収劇が世間を騒がしたあたりから、ニュース番組を見る時にも、テレビ局やキャスターの「立ち位置」が気になりだし、どうもリラックスできない。そのうちにニュース番組を見ることもやめてしまった。

他の人たちはテレビをいったいどのように見ているのだろう?と気になっていたところに、町山広美さんの「怪しいTV欄」という本を紹介された。

町山さんは、放送作家としてテレビの番組づくりの現場に関わる一方で、切れ味の良いコラムを新聞や雑誌に執筆している。「怪しいTV欄」は、 2000年から信濃毎日新聞に連載されたテレビ番組の時評コラム(268編)をまとめたものだが、亡くなったナンシー関さんのコラムを彷彿とさせるような 舌鋒の鋭さだ。実は、町山さんは、ナンシー関さんとも親交があり、共著も出版している。

亀田興毅親子の成功or転落物語

Kameda_oyako この本に収載された268編の中から、まずは最近の話題に関連したコラムを紹介すると、今や国民的スペクタル(見世物)となった、ボクシング「亀田興毅親 子」の2006年3月下旬に行われた世界前哨戦に関して「おすまししたやり方」というコラムで以下のように町山さんは書く

「・・・今回の試合とは、そのうちの一回だから、そもそもがああいう結果を得られるようにちょうどいい相手を選んで組まれた試合であり、勝利を重ね て世界戦に突き進まないとストーリーが続かない。やっと合点したのですが、亀田親子についてのドキュメントは、かつてTBSが放送した『ガチンコ』に近い 見方をされているようなのです。学校に通わず仕事も続かない、貧しくても心の荒れた不良をボクシングで更正させる、それが『ガチンコ』のボクシング企画で した。内実はどうあれ、亀田親子の身なりや言葉遣いも、その不良たちに近いものです。・・・・学歴社会の外にいる、不良っぽい兄弟が拳一つで成功する。実 にテレビ向きな物語。でも成功だけが望まれているのかといえば、それも違う。不良の転落もまた、幾多の番組が証明してきたように、テレビの大好物です。
まどろっこしい説明をやめてはっきり言ってしまえば、下流社会に分類されてしまう人の悪戦苦闘を見せ物として楽しむ、そういう残酷さを大きくはらみながらスポーツ番組然とおすまししている。そのやり方が私には不気味に思えてならないのです」(青字:カトラー)

ここで取り上げられている前哨戦も含め、亀田親子の世界戦チャレンジ物語に関して、八百長の可能性や採点方法の問題について色々な言説が、一般メ ディアやネットを通じて流れた。しかし、町山さんのように、この親子の物語が孕んでいる見せ物としての残酷さを、このようにあからさまに指摘した文章を他 に知らない。
町山さんは、ここでは注意深く、その残酷さについて、それを世に発信している「スポーツ番組」、すなわちテレビ側の問題として取り上 げている。けれども、彼女も承知しているはずだが、その残酷さを生み出している大元は、茶の間で退屈な顔をしてテレビ画面を覗き込んでいる視聴者に他なら ない。

テレビはどうしようもなく退屈している

結局、テレビはどうしようもなく退屈しているのだと思う。テレビだけではない、この国の人々が退屈しているものだから、メディアの流す情報には常に倦怠感がつきまとう。

町山さんのコラムに最も多く取り上げられたのが、小泉純一郎だ。小泉首相も放送作家、町山流の捉え方がされていて、その鋭い観察眼に富んだ文章を読みながら思わずウンウンとうなづいてしまった。

「小泉首相の『人いじり』は、できの悪いバラエティの司会者のようです。局アナや元アイドルが司会をする時、番組の進行からやたらと横道にそれたが り、企画そのものを崩してみたり、番組とはまったく関係のない話題で他の出演者をからかったり、ツッコンだりして、『人いじり』にふけります。そうするこ とで、司会のうまさを示せると思い違いをしている。・・・・ダメな司会者の、さらなる劣化コピー。私にはそう見える小泉首相の話術、お得意の『人いじり』 が国会という場で披露され、笑いを巻き起こすさまは、繰り返しますが実に不快な光景でした」

町山さんにかかると、小泉首相もバラエティ番組の「できの悪い司会者」ということになってしまう。それは、そのまま国会自体ができの悪いバラエティ と化してしまったことを意味する。そうなってしまった大きな原因が、ここで指摘されているように、「人いじり」や「論点ずらし」を巧妙に行うことで、その 場をとりあえずしのげば良しとする、小泉首相の政治家としての資質にあることは確かだが、小泉のようなトリックスター的政治家に「喝采」した、退屈顔の有 権者こそが、国会を「できの悪いバラエティ」にしてしまった張本人である。

以前にも書いたことだが、メディアや情報には、もともと2つの役割があると考えている。第一義的には、情報の価値とは、他人が知らないことを知るこ とにある。ところが、情報には、もうひとつの側面がある。それは他人が知っていることを知ることの価値だ。ひらたく言うと、世間が何を考えているか知ると いうことだ。
日本経済新聞は、かつては「株屋の新聞」と呼ばれ、そこに書かれた記事の情報をもとに、実際に株屋が動いた。が、今は、日経に書かれ た時点の情報をもとに株の売買をしているのではお話にならない。日経は、経済界の広報紙のような存在になっていて、日経を読んでいないと、取引先との話題 についていけなかったり、「そんな、日経に書いてあったことも知らないのか!」と上司に怒られるはめになる。事ほど左様に、日本の主たるマスコミから流さ れる情報は、今や、他人が何を考えているかを知ること、すなわち「世間」を知ることが主たる役割になってしまっている。当然、テレビにも「世間話」ばかり が横行することになって、これでは面白いわけがない。世間話とは、お天気の話だったり、家の犬猫の話だったり、内容は無いけれど、とりあえずその場を持た すことのできる話のことだ。

小泉首相はなぜサプライズにこだわったか

小泉首相の言葉というのは、つまるところ、マスコミと結託した大掛かりな「世間話」だったと考えるとわかりやすい。小泉純一郎以外にも「世間話」好 きな政治家は、たくさんいるが、彼らと違って小泉が非凡だったのは、有権者や視聴者が「退屈している」ことをよく熟知していたことだ。小泉が「サプライ ズ」にこだわったのは、退屈した有権者や、メディアが何をすれば一番喜ぶかわかっていたからだ。

「旗本退屈男」という人気時代劇番組があったが、退屈の虫を抱えているのは、番組の主人公ではなく、今やテレビの画面を覗き込んでいる視聴者となっ た。視聴者が飼っている退屈の虫を慰めるために、テレビは、手を変え品を変え番組を提供してきたのだが、その「手の内」も見透かされるようになり、この頃 のテレビは本当につまらなくなった。

テレビがつまらないと感じたら、とりあえずスイッチを切って見よう。それが一番賢明な選択ではないかと思う。テレビを見なくなったおかげで、私の場合は、本を読む時間が増えて、町山さんの本にも出会うことができた。
町山さんの本は、タイトルが示すとおり、テレビ番組について書かれた本だが、テレビを見るよりずっと面白い、テレビのスイッチを切って、じっくり読む価値のある本であることを保証する。

(カトラー)

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コメント

はじめまして。
2年ほど前から、TVを見なくなりました。
正確には、地上波を見なくなりました。今ではもっぱらCSです。
CSで出来の良い海外ドラマや映画を視聴しているほうがよっぽど楽しめます。
テロップだらけのお笑い&グルメ番組にはもう飽きあきです。
特に、最近の若手お笑い芸人はコントや漫才もろくにできないのにTV出演し、
たまにネタを振られるとスベることで笑いを取っているような気がします。
そしてすぐに役者デビューしたがる。
おい、お笑いの道はどうした!?とつっこみたくなります。
特に海外かぶれというわけでもないつもりですが、
ここ最近日本のTVに登場する役者も芸人も歌手もアナウンサーも、
レベルが落ちている気がしてなりません。
演技やトークや歌の下手さ加減にうんざりしてしまうのです。

投稿: スカパー子 | 2006.08.25 18:28

町山さんは、見かけと中身が一致しないヒトなんです。こんなに辛辣なのに、本人は
とても美人で可愛いらしい。しかも、天才。お兄さんは、映画評論家の町山智浩さん。
彼女のHPは、ここ。 http://www.matimatu.com/

投稿: junquo | 2006.08.26 08:16

こんばんは。
スタジオに出ている人達だけでなく、
構成作家とか脚本家の問題もありそうですね。
最終的にO.K.を出す製作の意図もあるでしょうし。

亀田一家の件ですが、ストーリー性を廃して勝負一本で世間から評価を受けたいのなら、
深夜枠に我慢するしかないでしょうね。
逆に深夜枠で人気が出てゴールデンに進出し、内容が薄くなる例は山ほどあるわけで。

ところでテレビ番組のことについて話すのなら、
製作と制作の違いは言わずもがなですよね?

投稿: てんてけ | 2006.08.26 21:53

まぁ、言いたい事は分かりますが・・・
これに関しては、まだまだ考えが足らないようですよ。
分かった的な文章の大部分は、考えのある人種にとっては結論に導く思考を働かせるまでもなく当然の事なのです。
近年の、一般人の低脳化に合わせた文章としては丁度いいのかも知れませんが・・・
これを踏まえて、だからどうだとまだまだ深く考えられる部分が沢山ありますよ。 本当に考える気があるなら、また、考えの足らない部分を見られるのが少しでも恥ずかしいと感じるのなら、もっと追求して更にいいものを書いて欲しいですね。

投稿: ぴよ | 2007.04.13 01:01

何故か最近の古舘一朗は 柔らかい。見ていて面白くないのはどうしてか?
もっと切り込んで 日本の政治、政治家の在り方を熱弁して欲しいものだが。
最近の古舘一朗は 丸くなってしまって魅力無し!

投稿: 国民ひとり | 2010.05.18 22:50

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