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フラット化する世界とカメラマンという仕事

Quill 「盲導犬クイールの一生」を撮った写真家、秋元良平さんと久しぶりに会った。
秋元さんのことは、このブログでも何回か取り上げているが、彼の写真の撮り方は、独特だ。ほれ込んだ被写体を何年もかけて撮っていく。「盲導犬クイール」についても、たまたま、お産を手伝った(彼は畜産学科の出身)クイールと名付けられたラプラドールの子犬を撮ったのが、そもそものきっかけだった。

以降、12年間にわったって、この犬が盲導犬になり、年老いて亡くなるまで、レンズを通してずっと向き合い続けた。幸いなことに、その犬の物語とモノクロームの写真は、人々の心をしっかりととらえ、クイールは日本で最も有名な盲導犬となり、盲導犬というものの存在を世に知らしめる存在となった。
銀塩フィルムを使って、被写体の陰影を丁寧に押さえていく秋元さんの手法は、自分でもいっているが「アナログの究極」だ。その秋元さんが、今、デジタルカメラの魅力に目を向け始めた。

デジタル化の波が押し寄せたカメラマンの世界

ここ数年のカメラ、およびプロカメラマンを取り巻く状況は、まさに劇的に変化した。私も出版業界に関係している者として、その移り変わりを間近に見てきたが、その変化のスピードには驚くべきものがあった。特に、雑誌や商業アートの写真の世界では、この1~2年で完全デジタル入稿が標準になった。以前は、紙焼きの写真やポジフィルムで入稿された素材を制作側でスキャニング処理してデータ化していたが、今はカメラマンに対してデジタルデータで入稿することが要求される状況になっている。カメラマンたちは、それまでの使い慣れた銀塩カメラを捨てて、キャノンやニコンから発売された新たなプロ用のデジタル一眼レフに買い換えなければならなかった。
Eos 状況の変化はそれだけに止まらない。デジタルカメラの台頭は、プロとアマチュアの差を曖昧にしつつある。プロ用のデジタルカメラといっても基本の仕組みは一般のデジカメと変わらないので、素人向けのデジカメのように、とにかくシャッターを押しさえすれば、写真はカメラが撮ってくれる。面倒な露出やシャッタースピードの計算、ピント合わせの熟練も要らない。誰がとっても高解像度の写真がそこそこのレベルで撮れるようになってしまったので、簡単な写真であれば、ライターや編集者が自分で撮ってしまうことが多くなった。むしろ、その方が自分の編集意図を反映させた思い通りの写真を手に入れられるという編集者もいる。写真の技術よりも、センスの方が重要視される時代になったのだ。

写真の技術よりもセンスが重用される

これまで、プロのカメラマンがプロフェッショナルとして機能したのには、2つの理由、プロとしての役割があった。
ひとつは「撮る技術」に長けていたことだ。商業印刷物に耐えうるようなレベルの写真を撮影するためには、一定以上の技術と訓練が必要だった。デジタル化の波は、まずこの壁を崩した。もうひとつは、「ブラックボックスに対する保険」だ。アナログ時代、カメラはブラックボックスで、現像してみないと出来が分からない。カメラマンに撮影を依頼する発注者の編集者、メディアからすれば、自分でできる撮影だとしても出来上がりが保証できないので、あえて、そこで線引きをしてプロにトランスファーする必要があった。ただでさえ、ストレスの多い編集の仕事の中で、写真の出来まで心配していたら身が持たないというのが発注者側の本音だったろう。プロにしても、現像するまで上がりの状態がわからないというのは同じことで、ポラロイドで状態を確認しながら、慎重に撮影を進めていた。ところがデジタルカメラであれば、撮ったその場で撮影状態が確認できる。これによって、カメラマンの心理的な負担が大幅に軽減されると歓迎されたが、皮肉なことに、プロとアマのもうひとつの壁もこのことによって崩されてしまった。出来上がりさえ確認できれば、わざわざカメラマンに撮影を頼まなくてもいいと発注者側は考えた始めたからだ。また、デジタルであれば、撮影が多少不出来であっても、パソコンで補正が可能だということも心理的な垣根を低くしてしまい、ますますプロの仕事が奪われる結果となった。
今、業界では、アナログの時代には相当鳴らしたカメラマンにさえ、仕事が回ってこないという現象が現れている。カメラマンの世界は「デジタル不況」の真っ只中にある。

デジタル化を前提にオリジナリティを出すのがプロ

「時代の変化をとやかくいって見てもはじまらない。プロとアマの定義が変わったのだ」と秋元さんは言う。「これからは、デジタルの世界を前提にどんなオリジナリティを出すかがプロには求められる」
秋元さんは、昨年からネット上で自分の作品のギャラリー展開を始めた。デジタルカメラで撮影した作品を幅広い人々に見てもらおうという試みだ。あわせて、新しいプロジェクトも立ち上げた。ペット好きの飼い主の依頼を受けて、秋元さん自身がそのお宅まで出張して、ペットを撮影し、ポートレートとして提供するというものだ。撮影は、デジタルカメラでおこない、高解像度出力ができる高性能プリンタでプリントアウトして、秋元さんのサインを入れて作品として仕上げる。デジタルカメラで撮影することは、依頼主には説明するが、作品の撮影データは渡さない。つまり、「デジタルで1点ものを作品として創り上げる」というのが、秋元さんが「デジタル時代」に対して出した、彼なりのひとつの回答である。

デジタルで1点ものを作品として創り上げる

現物を見せてもらって驚いた。「デジタル」というだけで、ややもすると薄っぺらな印象が先に立つが、見せてもらったどの作品にも、秋元さん独特の陰影と奥行きのある写真世界が見事に実現されていた。銀塩フィルムとアナログカメラで、同じことをやったら、フィルム代、現像・プリント代がかさみ、とてもこんな企画は成り立たないだろう。
料金を見て、「デジタルで処理しているにしても安すぎるのではないか」と秋元さんにいったこともあるのだが、次の作品集への構想もあり、あえて今のやり方にこだわっていくという。
写真というのは、最終的な現物(作品)が全てである。撮影のプロセスがアナログがデジタルかは関係ない、要は作品としてどうかが問われるだけだ。秋元さんに自分のペットを撮影してもらった飼い主たちは、誰もが作品となった自分のペットの姿に感動する。カレンダーの動物写真のようなものをイメージして依頼したのが、そんなものとは全くレベルが違うものであることが、作品を手にして初めて納得できるのだ。そうした、ひとつひとつの感動がクチコミとなって、このプロジェクトには、どんどん引き合いが入るようになってきた。

秋元さんの取り組みは、それ自体は小さな一歩だが、写真家と人々の関係、暮らしの中で写真が持つ意味、写真と人々の関係を大きく変えていく可能性をもっていると思う。

トマス・フリードマンの「フラット化する世界」に、これとほとんど同じ話が出てくる。フリードマンの友人夫婦がデザイン事務所を経営しているのだが、デジタル化の波を受けて写真撮影を軸にした仕事の受注が困難になる。この夫婦は、写真データを加工する後処理のプロセスまで請け負うことでデジタル化の波を乗り越える。

フリードマンは、この話から、次のようなルールを引き出している

Rule#1: When the world goes flat-and you are feeling flattened -reach for a shovel and dig inside yourself. Don't try to build walls.

デジタル化の波は、カメラマンの世界で、プロとアマチュアの垣根を低くさせ、フラット化を促した。その時代変化の波に対して、自分を守ろうとして壁を作っても無駄だというフリードマン言葉は示唆に富んでいる。技術革新の大きな波の前では、個人の力は無力に映る。が、塹壕を掘って、ゲリラ戦を仕掛ければ、生き延びることはできる。

(カトラー)

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コメント

>プロ用のデジタルカメラといっても基本の仕組みは一般のデジカメと変わらないので、素人向けのデジカメのように、とにかくシャッターを押しさえすれば、写真はカメラが撮ってくれる。

誤解されていませんか。アナログでもデジタルでも、シャッターを押せば撮れる機種もあれば、露出やシャッタースピードを調整しないと撮れない機種もあります。一眼レフかコンパクトカメラか、オートかマニュアルか、などの違いは、アナログとデジタルの議論には関係ありません。デジタル/アナログの違いとは、光の素子をCCDで記録するか、フィルムに焼き付けるか。CCDで記録したデータ(RAWデータ)をJPEGやTIFなどの画像に現像するのか、光を焼き付けたフィルムを化学変化によって現像するか。そういう違いです。

プロ/アマの垣根が低くなったのは、カメラの製造技術が高まってオート撮影の精度が上がったこと(もしくはカメラの低価格化が進んだこと、とも言えるでしょう)、デジタル化によって現像・紙焼きの「コスト」が下がったこと。この2点によるものだと思います。いずれもコストの問題です。

>写真はカメラが撮ってくれる

こういう一文を何の抵抗感もなく書けるというあなたが、「私も出版業界に関係している者として、その移り変わりを間近に見てきた」ということがちょっと信じられないんですが、テキスト畑の方なのでしょうか。カメラマンの作品を頂く立場に立っていれば、こんなことはレトリックの上でも書けないと思うんですがね。

投稿: よしお | 2006.10.22 14:54

よしおさん、はじめましてコメントありがとうございます。偶然ですね、わたしの本名は実は「よしお」といいます。同名のよしみでこれからもよろしくお願いします。
さて、ご指摘の点ですが、私はカメラに関して、プロレベルの専門知識を持っているわけではありませんが、デジタルカメラの基本的な仕組みについては十分理解しているつもりです。おっしゃるように、全てのデジタルカメラがオート撮影に対応していると述べたつもりはありませんし、そうしたことを言いたかったわけでもありません。技術的には素人に近くても、例えば、キヤノンEOS D-20クラス以上の機種で撮影すれば、商業印刷に耐えうる写真が誰でも撮れてしまうということを「カメラが写真を撮ってくれる」という文章で表現したということです。
よしおさんも業界に身を置かれている方であれば、碌な技術もないにも関わらず、デジタルカメラだけをぶらさげて、カメラマンですといって仕事をしている自称「カメラマン」が沢山出てきていることを良くご存知でしょう。個人的にはそうした状況を苦々しく感じてきましたが、だからこそ、秋元さんのようなアナログの世界できちんとした仕事をしてこられたカメラマンが、「プロとアマの定義が変わったのだ」ということを重く受け止めるべきと考えています。
今も、デジタルカメラに見向きもせず、アナログの世界だけで生きているカメラマンも身近にいますし、そうした方々の仕事に対するリスペクトを失ったことはありません。
ただ、もともと写真の世界と技術革新は不可分な関係にあることを忘れてはならないと思います。現在のアナログカメラも技術革新の塊のようなもので、そうした新しい技術や機器を前向きに取り込んでいく人々が、プロカメラマンとよばれていたのではなかったでしょうか。だとすれば、今のデジタル化の波に対して、単に壁をつくるのではなく、秋元さんのように自分なりのやり方でその波に対処するというのが、本来のカメラマンのあり方といえるのではないでしょうか。

投稿: katoler | 2006.10.22 21:56

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投稿: mesubuta | 2006.10.27 02:19

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投稿: invoke-erotic | 2010.11.19 23:14

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