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「美しい」国より「おとな。but カワイイ。」国

Otona_but_kawaii 東京駅のホームで、電車を待っていたら、コーセーの新製品エスプリーク・プレシャスの広告をボディにまとった山の手線が入ってきた。ジェマ・ワード(Gema Ward)をイメージモデルに起用した、その広告コピーに目がとまった。

「おとな。but カワイイ。」

オトナっぽさとカワイイ感覚が共存した、新しいメイキャップ方法を提案している。小学生の頃からキティグッズに囲まれて育ってきたイチゴ世代が、コギャルと呼ばれた時代を経て、いまや30代の「オトナの女性」になろうとしている。1970年代後半に生まれたこの世代は、「下流社会」で今年の話題をさらった三浦展氏の定義によれば「真性団塊ジュニア世代」に相当する。この世代は、ルーズソックスや茶髪を流行らせ、たまごっち、プリクラなどの流行の震源地となった。

Otona_but_kawaii2 彼女たちにとって、「カワイイ」という言葉は、神話作用をもった呪文のようなものだ。言霊(ことだま)を操る巫女のように、ひとたび彼女たちが「カワイイ」という呪文を唱えれば、そこにカワイイ世界が現出する。何かに「カワイイ」という言葉を投げかけることは、最大の言祝ぎ(ことほぎ)であり、自分自身も「いつまでもカワイクありたい」あるいは「カワイイといわれたい」と考えている。コスメ企業が、これまでの「おとなの女性」たちに対して発信してきたのは「いつまでも美しく」というメッセージだったが、それが、「いつまでもカワイク」に置き換わりつつあるのだ。「キレイ=おとな」「カワイイ=こども」という、これまでの固定観念を壊したところに、このキャンペーンのメッセージ性は成立しているといえるだろう。

対立概念を包み込むフトコロの深さ

カワイイ感覚については、このブログでも何度か取り上げてきたが、驚くほどフトコロが深い言葉だ。このコピーのように一見対立するような概念を包含して「×××but カワイイ」と表現することができる。
「気持ち悪いbut カワイイ」=「キモカワ」、「エロイ but カワイイ」=「エロカワ」といった具合だ。カワイイという言葉には、子供やペットのことを「カワイイ」と表現するように、発語者が対象物を慈しむ感情というものがもともと内包されていて、それが、この言葉の母性的なフトコロの深さに通じている。子供やペットに対する愛情が無条件であるように、「カワイイ」という言葉は、それが自分にとって慈しむべき、カワイイと思える対象でありさえすれば、無原則に使用範囲が拡大されていく。この点が、醜いもの、汚いもの、異質なものを排除して純化していく傾向のある「美しい、キレイ」という概念とは全く異なる点である。発語者のセンス次第で、「カワイイ」の使用範囲はいくらでも広がって、子供やペットだけでなく、カワイイオヤジもいれば、気持ち悪いものだって、「キモカワ」という言葉を与えられてカワイイ存在になりうる。数年前にブログ界に彗星のように現れた高校生「腐女子」が、ゴーログを立ち上げていた木村剛氏に「木村さん大好き!」とラブコールを送っていたのも、たぶん木村剛氏がカワイイのカテゴリーに入っていたからに違いない。

カワイイの背後に現れる無意識のコミュニティ

もうひとつ、カワイイの本質として考えられるのは、この言葉が発語されるとき、常にその背後に無意識のコミュニティが立ち現れてくるということだ。渋谷のセンター街や109で、コギャルが見つけた「カワイイ」モノは、単にその発語者によって意識されただけでなく、水脈のように網の目のように広がったコギャル全体の集合的無意識に連なっている。ルーズソックスの流行は、最初は渋谷のセンター街で見られた現象だったが、水戸に飛び火してから、そこからは、ほぼ同時発生的に全国に広がったことが観測されている。この世代において、流行とはリニアに伝わっていくものではなく、ある日突然、同時発生してくるのが特徴だ。カワイイものを決めるのは、超越者や一握りの先導者ではなくて、「カワイイ」と発語する人々自身である。それは、ちょうオープンソースように外に向かって開かれていて、常に流動的であり、誰かが何かを「カワイイ」ということによってカワイイの定義自体が、あたかもソースコードが書き変えられるように日々刻々と移り変わっていく。どうして、このようなことが生じるのかといえば、カワイイ感覚が、根本的には消費意識に根ざしているからだろう。

Otona_but_kawaii_hyou_1 この図のように、あえて図式化して「カワイイ」を「美しい」と見比べて興味深いのは、カワイイと美しいが、明らかに対立軸のもとに存在しているということだ。
「美しい」については、この国の総理大臣が「美しい国、日本」というキャッチフレースを大々的に打ち出したわけだが、この「美しい国」というキャッチフレースに対して、ずっと異和感を感じていた。

その異和感とは何に起因するものなのか、うまく説明できないでいたのだが、今ならこのように言うことができる。「美しい日本」という言い方は、要は「カワイクない」のだ。

美しい国よりカワイイ国?

安倍晋三に比べると小泉純一郎には、カワイゲがあった。小泉政権が発足した時期の小泉ブームでは、中年女性やコギャルたちまでが、「純ちゃん!」と嬌声を上げ、ポスターや小泉人形のついた携帯ストラップが飛ぶように売れた。一国の宰相が、キャアキャアいわれること自体、異常であるという声もあったが、安倍晋三に決定的に欠けているのは、小泉には備わっていた、人々を熱狂させる「カワイゲ」である。
内閣支持率の低下が顕著となり、先の衆議院選挙で郵政民営化に反対した造反議員を復党させた問題などが、その原因とも説明されているが、後付けの理由でしかない。根本的には、安倍のやることなすことにカワイゲがないからだ。
カワイイとは、人々の消費意識に根ざしている。カワイイ存在になるということは、消費される存在になることを甘んじて引き受けることを意味する。政治家をカワイイ、カワイクナイと議論するのは、確かに不見識の謗りを受けかねないが、安倍が首相就任以来、打ち出しているのが、教育改革や憲法改正議論であるように、「美しい日本」を目指すという、その政策のスタンスそれ自体が、規範的、超越的、権威的なものであるとすれば、カワイゲの有る無しということは、正しく政治姿勢の問題として議論されるべきではないか。

「美しい国」に対して「カワイイ国」あるいは「おとな。but カワイイ国」という国家イメージを対立軸として設定したら、この国の行く末に、ひょっとすると別の姿が見えてくるかもしれない。「美しい国」だとか「国家の品格」というインチキな言葉に素直に反応する人々にとっては、自分の国を「カワイイ」と表現することは耐えられないことかもしれないが、「美しい」とか「品格」という言葉に耽って、酷い現実を隠蔽するよりも、余程カワイゲがあるというものだ。

政治家の中で、カワイイと表現できるのは、一体誰だろうか?と、周りの20~30代女性に投げかけてみた。民主党党首、小沢一郎は、強面でキモカワの部類に入るかもしれないが、少なくとも安倍晋三より「ぜ~んぜ~んカワイイ」という評価だった。
「普通の国」という看板を「おとな。butカワイイ国」に差し替えて、総選挙を戦えば、民主党は、「カワイイ」の信奉者である30代団塊ジュニア層の票田の掘り起こしに成功するかも知れない。キモカワ政権の誕生だ。

(カトラー)

関連記事:キモカワ論

       フラット化する上海と東京③カワイイ上海の発見

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コメント

なんとなく通じるところを感じましたので、TBさせてもらいました。
カワイゲはわれわれ一般庶民にも大切だと思います。

投稿: ひろ | 2006.12.29 01:32

ネオテニーと世界の日本化現象が始まってるみたいですね
アニミズムが今後世界を席巻するんでしょうか

投稿: fff | 2006.12.29 10:18

「カワイイ」漢字で書けば「可愛い」
つまり「愛すること&愛されることのできるもの」
「美し」くとも「愛すること&愛されること」が
できなければ、意味が無い。

このエントリーから、そんなことを思い浮かべました。

投稿: こりじょん | 2006.12.30 02:34

とても共感できました。なるほど!

(安倍晋三首相の漢字表記をあえて安部普三とされているのはどういう理由からなのでしょうか。)

投稿: リペセ | 2006.12.30 11:26

りべセさん、はじめまして。
安倍の表記間違いをご指摘いただき、ありがとうございます。迂闊にも誤記に気づきませんでした。早速、修正させていただきました。
カワイイという価値観は、こりじょんさんのご指摘の通り、「可愛い」と書くように、「美しい」のようにそれ自体の価値で成り立つのではなく、「愛されることができるもの」、すなわち、消費者(有権者)の目線が常に反映される価値観としてとらえることができるでしょう。政治家には、必須の資質なのかもしれません。
カワイイ感覚が世界中を席巻しはじめているというのは、fffさんのご指摘の通りです。確かに、その幼児感覚に個人的には違和感を感じていたのですが、コーセーの「おとなbutカワイイ」というのは、なかなかうまい、よくできた提案だと思いました。世界中の武器にキティちゃんマークのシールを貼り付けたら、バカバカしくてい戦争なんぞしなくなるかも知れません。
カワイイカルチャーをどんどん輸出して、カワイイ国になるとというのも日本の選択肢のひとつかも知れませんね。

投稿: katoler | 2006.12.30 12:47

そうですねアニミズムが一神教を超えたとき世界は平和になる このマッタリ感覚を一大運動にしていけば戦争もばかばかしくてやってられなくなるかも

投稿: fff | 2006.12.30 17:33

このテーマ、もう少し消化してみるよ。
世代間での価値の距離も時間がかかるようだし、ね。

明けオメ、カトラーさん。

投稿: トリル | 2007.01.03 19:40

トリルさん、あけましておめでとうございます。
2007年は団塊世代が野に放たれる年であり、コギャルがおとな(30代)になる年でもあるんですね。地殻変動が起きる年になる気がします。本年もよろしく。

投稿: katoler | 2007.01.04 18:23

関連。読んでなければ、どぞ。

http://blog.livedoor.jp/tokyokitty_seed_destiny/archives/50773317.html

投稿: トリル | 2007.01.10 06:11

Maybe the top topic I read all year... http://swanninsurance.info

投稿: airc insurance | 2010.12.01 02:45

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