美しい国の日本文化礼賛とカワイイ革命
「美しい国よりおとなbut カワイイ国」というエントリー記事に対して色々反応をいただいた。トリルさんからのコメントに、日本のゴスロリファッションやアニメ・キャラクターが、フランスの少女たちの心を捉えていることをレポートした東京Kittyさんのブログが紹介されていた。
その記事にはフランスで放映されたテレビ情報番組のYou-tubeのビデオが紹介されていて、東京の原宿や池袋あたりでよく見かけるゴスロリ(ゴシック・ロリータ)ファッションに身をつつんだパリの女子たちが、「ニッポン大好き」とラブコールを送っている。多少面はゆい感があるが、文化面におけるフランスとの関係でいえば、圧倒的に輸入超過であったことを考えれば、このこと自体は悪い気はしない。
カワイイ文化にラブコールを送るフランスの若者
フランスの文化問題に詳しい、にむらじゅんこさんに、このビデオを見てもらって意見を求めると、確かに「ニッポンフリーク」と呼べるような若者たちがフランスには存在していて、主に日本のアニメやオタク系カルチャーに同調している現実が存在しているとのことだ。フランスの指導者層も折に触れて、そうした若者たちが増加している傾向を問題視する発言をしているそうだ。
フランスの指導者層が、日本発のアニメ文化の侵入に反発を示すのは、文化政策が、国家としての戦略、すなわち「ソフト・パワー」として位置づけられているからだろう。
英米などに比べて軍事・経済力(ハード・パワー)で劣るフランスは、昔から自国の文化力を重視してきた。上海のフランス租界地区が、かつて東洋のパリと呼ばれ、独特の町並みとライフスタイルが形成されたのも、当時のフランスが、積極的にフランス文化を輸出・定着させることで、ソフト・パワーによる植民地における支配力を高めようとしたのが狙いだ。
最近でいえば、ミッテラン政権の下、ロック大臣といわれたジャック・ラングの文化政策が上げられる。ジャック・ラングは、伝統的な文化・芸術の定義と範囲から踏み出し、文化の大衆化政策を推進した。にむらさんによれば、旧植民地諸国から流入してきた移民たちの音楽や料理などにも文化性を認めて支援した。エスニック音楽・料理がパリで流行し、全世界に広がっていったのは、ジャック・ラングの文化政策によるところが大きいという。
このように文化的な辺境(フロンティア)を設定し、常に見知らぬモノ、異国の情報を取り込み、それを洗練させて、世界商品としてアウトプットするというのが、文化装置としてのフランスの真骨頂であり、ソフト・パワー戦略の要諦であった。
ところが、アニメに代表されるオタク文化やカワイイ価値観は、鳥インフルエンザのように一方的に感染するが、宿主と折り合う(フランス化)ことをしない。日本のゴスロリ少女のファッションを、そのままコピーすることで嬉々としているようなフランスの若者たちの姿を見て、旧世代は、苛立ちや危機感を抱いている。
世界中で進行するカワイイ革命
ただし、このことは、日本とフランスの二国間で、古典的な「文化摩擦」を生じさせるような事態にはならないだろう。というのも、日本のアニメ文化、カワイイ価値観の浸透は、日本政府が自国のソフト・パワー戦略の一環として仕掛けたものではなく、それ自体が、国境を超えて、共時的に同調者をネットワークしている、トランスナショナルな現象だからだ。
こうして国境を超えてカワイイ文化が共有されていく状況を、このさい、あえて「カワイイ革命」が世界中で進行しているといいたい。マルクス、エンゲルスは、「共産党宣言」の書き出しを有名な「世界中を怪物が徘徊している。共産主義という怪物が」というフレーズで始め、共産主義をモンスターに例えた。それに倣えば、カワイイ革命のモンスターとは「キティちゃん」や「ポケモン」ということになるだろう。この革命には、硬直化したイデオロギーも、また、そのイデオロギーを振り回して「大衆」を指導するというウザッタイ「前衛」も存在しない。存在しているのは、「視線」だけだ。この視線は、あらゆるものを「カワイイ」か「カワイクナイ」かという基準で峻別していく。天皇だろうが、毛沢東だろうが、ルイ・ヴィトンだろうが関係ない、この視線のもとでは、全ての事象が横一線、フラットに並べられてしまう。カワイイ革命とは、従来の文化的ヒエラルキーやルールを暗黙のうちに無化してしまうベクトルパワーを持っているのだ。
文化を国民国家の枠組みで考えることの愚かさ
カワイイ革命の震源地は、この日本である。アニメ漫画やゲームソフトが、海外で受け入れられていると見るや、これを日本のソフト・パワー、文化力を示すものであると言い出すお調子者たちがゾロゾロでてきた。日本発のアニメやゲームが世界のサブカルチャーの市場で存在感を増していることは喜ばしいことだが、そこに「日本文化」というレッテルが付けられたら、ゴスロリファッションの女の子たちもとたんに興ざめしてしまうだろう。アニメのキャラクターの知財権を守れというぐらいは、まだしも、こうした「日本文化礼賛」路線に乗って、海外における「日本料理」のブランド(?)を守れという主張を展開するアホな連中まで登場してきた。
たぶん、こうしたことを言い出している人々は、「美しい国」ということや、この国の「ソフト・パワー」ということを意識しているのだろう。しかし、「文化」を国民国家の枠組みの中で捉え、コントロールしようという発想は、どうしようもなく陳腐になってしまった。こんなことを考える輩は、カワイクないし、クールじゃないといわれるのが関の山だ。
(カトラー)
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コメント
この2-30年で日本語の「カワイイ」の持つニュアンスがシフトして来ているようです。
ジェンダー問題絡みというか、既に幼くない者が「幼さ」「あどけなさ」「イノセント」を偽装する匂いめいたモノを感じたことが、現在30代以上にはあるのではないでしょうか?
厭きたら捨てられる愛玩物のような存在に、人なり生き物なりが形容され賞賛される事に違和感・嫌悪感を持つ感じが残る人は、多いとも思うんですよね~。
しかしこの強要されず厭きたら捨てて良い「カワイイ」という価値が広い世界に支持共有されてきているというのは、たぶん強要され捨てられない状況というモノの陰画でもあるんでしょうね。
投稿: トリル | 2007.01.20 21:08
現代の若者には文化を押し付けるようなやり方だと
その意図が見えてしまうんですね
投稿: fff | 2007.01.20 22:09
前回のエントリー記事は、小生のもやもや病の病根を突き止めてくれました。自由だ、自己責任だの、自らは既得権という安住を得ながら、家畜に餌をやるかの如く発言するヤカラへの、レッドカードが「カワイクナイ」だったとは。
でも、今回のエントリー記事の様に「感覚」を超えて、「カワイイ革命」を成し遂げる為の思想であるならば、それは厳しいのでは?と思ってしまいました。「カワイイ」と感じる「感覚」そのものも、世界標準から見れば、上流の戯れと思われてしまいそうです。
そこまで力まなくても、ただ単純に、社会からまたは家庭で、特に異性から「カワイイ」と言われる喜びに無限性がありそうです。無限大の喜びなんて、ホント?と思っていたら、身近にあって、それも家畜扱いしていた相手からだったとは。皮肉まで「残りあと5分」の地球みたいに、末期状況です。
投稿: あたり前 | 2007.01.22 11:33
良くも悪くも
変に政治的主張を展開しなければ、面白い記事なんですけどね
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