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PHSが世界を制する日?

Phs 先週、有楽町国際フォーラムでPHSのウィルコムのイベント「WILLCOM Forum&Expo」が開催された。
あまり知られていないことだが、PHS(Personal Handy-phone System)は、日本で開発された日本発の通信技術である。NTTがPHS事業からの撤退を表明したために、旧DDIポケットのPHS事業を引き継いだウィルコムが、実質的にPHSの唯一の担い手となっている。

ユーザー数が減少する苦しい時代もあったが、ここ数年、その国内ユーザー数は毎年15%増という成長を続けている。これは、ウィルコムが、ケータイキャリア各社の先陣を切って2005年から「音声定額サービス」を始めたことが大きな引き金になっている。

12年前にPHSのサービスが始まった時、当時のバルキーな携帯電話に比べてコンパクトなことと通信料の安さが受けて、一気にPHS全体で700万ユーザーを獲得した。しかし、その後は、携帯電話の急成長に押されて、じりじりと契約者数を減少させてしまった。音質は良いが、いかんせん繋がらない場所が多すぎるというのが、当時のPHSに対する一般的な評価だった。このままではじり貧になるということで、データ通信(AirH)に活路を見出したが、全体としてPHSのユーザー数は横ばいのままで増えることはなかった。

全国16万基地局のマイクロセル通信網

Photo_3 しかし、新しい時代の波が、PHSをあらためて、ケータイビジネスの表舞台に立たせるようとしている。その新しい波とは、無線のブロードバンド化の波だ。ウィルコムのイベントでも伝送速度20Mbpsの次世代PHS技術が披露されていて、ブロードバンド化を競う他の携帯キャリア各社の次世代技術とPHSが遜色がないことがアピールされていた。しかし、無線ブロードバンドの時代に向けてPHSが注目される最大の理由は、マイクロセル方式による通信網をこの12年間に構築してきた点にこそある。マイクロセルとは、アンテナ基地局のカバーする範囲が狭い(半径500m以下)方式のことで、カバー範囲が狭い分だけ、数多くの基地局を設置することが必要となる。人口当たりのカバー率が99.3%を超える現在の水準を達成するために、結果として全国では16万ヶ所にも及ぶ基地局網が出来上がった。

無線ブロードバンド時代に適したPHSのマイクロセル方式

Photo_4 そして、このマイクロセル方式が、無線ブロードバンド時代になぜ注目されるのかといえば、携帯電話各社が採用しているマクロセル方式に比べ、電波容量が原理的に大きくなるからだ。携帯キャリア各社は次世代技術の伝送速度を競っているが、無線の専門家にいわせると、そうした競争は、ほとんど無意味なのだという。有線のブロードバンド化は、光ファイバーの束を増やせさえすれば物理的に可能だが、無線の場合は事情が全く異なる。電波帯域はもともと有限のものなので光ファイバーのように増やすわけにはいかない、電波容量を増やすためには原理的には基地局の数を増やすしか方法が無いのだ。もし、現状のインフラのままで携帯各社が10Mbpsを超える速度のブロードバンドサービスを開始するとしたら、あっという間にパンク状態になってしまうだろう。
最近、ソフトバンクも鳴り物入りで音声定額サービスを導入したが、ウィルコムの定額サービスと異なり、「夜間は定額の対象外」という断り書きが小さく書いてある。夜間の午後9時から午前1時までの間が、携帯電話のトラフィックが最も集中する時間帯であり、この時間帯に定額制がかぶると、収益がキャップされてしまうのと、トラフィックが幾何級数的に拡大し、電波容量がパンクする恐れがある。それゆえ、マクロセル方式の携帯電話会社は、24時間定額サービスなどは逆立ちしても出来ないという事情があるのだ。

途上国で急速に普及するPHS

Phs_world PHSをめぐっては、もう一つ注目すべき事実がある。
それは、中国、台湾、ベトナムなど、アジア諸国で普及が進み、海外でのPHS端末稼動数が1億台にも達しているということだ。特に、中国での普及がめざましい。

1998年に浙江省余杭市という地方の小都市でPHSの導入が初めて認可されたのだが、燎原の火のごとく瞬く間に広がり、現在では、「小霊通」という名称で呼ばれ、中国国内で9000万人ものユーザーを抱えるようになった。
特徴的なのは、中国ではPHSを携帯電話会社ではなく、固定電話事業者の「中国電信」「中国網通」の2社が提供しており、中国当局は、固定電話事業者の付帯事業および、電話の普及が遅れている地方都市への対策としてPHSを認可したという事情があったようだ。ところが、PHSの場合、設備投資コストが携帯電話に比べ十分の一程度ですみ、2,3年で投資が回収できるとあって、他の地方都市にも一斉にPHSの導入が進み、あっという間に中国全土に普及したというわけだ。

タイ、ベトナムなどでPHSが普及したのも、中国の地方都市と同じ状況があったからで、発展途上国で、今後、PHSは大きな成長可能性を持っているといえるだろう。
PCの世界では、アラン・ケイが提唱した100ドルPCが「貧者のPC」と言われながらも、途上国に普及させていくことで、先進国との間に存在するデジタルデバイド(情報環境格差)を埋めていくツールとして期待されているが、ケータイの世界では、PHSがその役回りをひょっとすると担うかもしれない。例え、「貧者のケータイ」と何といわれようが、日本発の技術が、世界を制することになれば、こんな痛快なことはない。

(カトラー)

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