« 木造ドミノ住宅とウッドマイレージから見える住宅産業の未来 | Main | 静かな津波が広がっている ~食糧危機の深層~ »

NHK「サラリーマンNEO」賛歌 ~サラリーマンへのレクイエム~

Photo 最近はテレビ番組をほとんど見ない。特に小利口ぶったお笑いタレントやジャリタレが騒いでいるだけの情報バラエティ番組というのが大嫌いで、テレビをつけると、この手合いの弛緩した番組ばかりなので、反射的にスイッチを切ってしまうことになる。

それゆえ、欠かさず視聴しているといえる番組もないのだが、唯一の例外が、NHKが放送している「サラリーマンNEO」というコント・バラエティ番組だ。

数年前から「謎のホームページ、サラリーマンNEO」というタイトルで、テスト番組のような扱いでオンエアされていたが、2006年から、レギュラー番組化され、現在は、Season3が毎週日曜日の11:00pmに放送されている。
この番組を初めて見た時は、あのお堅いNHKの「公共の電波」を使って、ここまでナンセンスでシュールな番組を創り上げたということだけで、思わず拍手喝采してしまった。コンセプトは「NHKらしからぬNHKでしかできない番組」ということだそうだが、正にそのギリギリの一線を追い求めている潔さがあり、いっぺんでこの番組の偏愛者になった。

NHKらしからぬNHKでしかできない番組

この番組のスタート時から製作と監督を担当しているのが、NHKに在籍するサラリーマン監督、吉田照幸氏だが、この番組を見る度に、NHKという場にあって、こうした番組を企画し、レギュラー番組にまで持ち上げていくには、並大抵の苦労ではなかっただろうと想像できる。ましてや今のNHKは、社会的な批判、視聴者からの声というものに特に弱い。というのも「NHKらしからぬ」破廉恥行為によって、警察のお世話になったり、制作費を横領するといった不祥事が頻発しているNHKにとっては、「NHKらしからぬ」ということは、最も忌み嫌われることであるに違いないからだ。そうした逆風に逆らって帆をはり、あえて「NHKらしからぬ」という自己否定をおこなった上で、「NHKしかできない」ということを追い求めたからこそ、他の弛緩した民放の番組プロデューサーには、とても真似のできない、ギリギリのバランスのもとに成立するギャグ世界を創造することができた。
実際、この番組が、レギュラー番組化していく過程で、一部の馬鹿な視聴者から、「おふざけがすぎている」という種の反発の声も上がったそうだが、私のような偏愛者の支持の声が圧倒的に上回った。実はこの番組を見るまでは、NHKの受信料をわけもなく支払わされることを拒否していたのだが、この番組に敬意を表して、今ではきちんとお支払いしている。私のような不良視聴者を改心させたのは、ひとえにこの番組の功績である。

特異な進化を遂げたジャポニカ種「サラリーマン」

さて、肝腎の番組の内容についても、少しは述べておかないといけないだろう。
NHKという場所でギリギリのアクロバットをしてみせるという戦略によって、この番組には稀有な緊張感が漂っていることは既に述べたが、この番組を面白くさせているもうひとつの理由は、日本の「サラリーマン」という種族自体の面白さをシュールに描き出しているからだ。この日本国においてだけ、特異な進化を遂げたジャポニカ種「サラリーマン」という奇妙な生き物のおかしさと哀しさをこの番組はイヤというほど冷酷に描きだす。別の見方をすれば、こうしたシニックな、自虐的なギャグに感応できるくらい、日本の視聴者、すなわちサラリーマンたちも成熟したということだろう。

Photo_3 この番組から「セクスィー部長」というキャラクターがブレークした。画面に登場するやフェロモンをまき散らし、あらゆる女性たちを失神させてしまう「セクスィー部長」とは、一言でいえば、現代日本のサラリーマン社会に現れた光源氏とでもいうべき存在であり、現実の企業社会の中で、セクハラ規制やコンプライアンスにがんじがらめになり、給湯室のOLたちからは蔑まれ、虚勢された状態にある中年サラリーマンたちが、虚構世界に創り上げたスーパーヒーローだ。事ほど左様に、このコント・バラエティ番組に登場するキャラクターと現実のサラリーマン社会とは、ポジ、ネガの関係にあり、サラリーマンNEOの登場人物たちが、とにかく可笑しいのは、現実のサラリーマン生活がそれだけ息苦しくなっているからに他ならない。

Angela 最近、オンエアされたもののうちで気に入っているのは、「angel A 」というコントである。これはサラリーマンNEOのホームページでも動画で紹介されているのでぜひ見てほしいが、派遣の女性社員を主人公としたコントだ。
ある日、女性の派遣社員が企画書を作成して、課長とおぼしき人物に提出する。課長は、その企画をそのまま自分が作成したかのように、部長の前で得々と説明する。その姿を見て、憤慨した派遣社員は、「その企画は私が作成しました!」と部長に直訴するのだが、部長はのらりくらりと適当なことを言って全くとりあわない。怒り心頭に達した女性は、ついにアンジェラ・アキに変身して、髪を振り乱してオフィスの中でグランドピアノを弾きながら「This Love」を熱唱を始める・・・

こうして粗筋を文章にしてみると、このコントは、なんて重たい現実のテーマを扱っているのかと今更ながら驚かされるのだが、そこには、カフカの「変身」に通じるようなシュールな社会批評眼に加えて、何ともいえないおかしみがある。
Photo_2 このコントにおいて描かれているのは、今、サラリーマン社会で進行している生の現実だ。サラリーマンNEOには、他にもスケバン欧愛留(スケバンOL)というキャラも登場し、こちらは、身勝手な男性正社員をロッカー室に呼び出して焼きを入れるという役回りだが、angel A の世界では、OLという存在はオフィスから消えてしまっていて、もっと苛酷な労働搾取の現実がさらけ出されている。
茶の間の視聴者たちは、クックックと笑いながら、気がつくと今さっきまでコントの中に見ていたのは、昼間過ごしている会社の生の現実に他ならないことに気づかされ、愕然とさせられるのだ。

予定調和的なリアクションが取れない笑い

「NHKでしかできない」ことかどうかはわからぬが、重たい現実に題材をとりつつ、この番組が実現している「笑い」の水準は、民放の情報バラエティ番組で適当なことを喋り散らかしている吉本系のお笑いタレントなどには、知性のレベルでも、芸のレベルでも、逆立ちしても真似できないものだろう。
このレベルの笑いに出会うと、往々にして観客は、言葉というものを無くしてしまう。予定調和的なリアクションなどは取りようがなくなるからだ。例えば、萩本欽一というコメディアンの全てがつまらないと思うのは、この人の笑いというものが、全て予定調和的で、コントをやる前から何を笑わせようとしているのかが全部見えてしまっているからだ。
それに対して、この番組が見せてくれる笑いは、落ち所が見えない分だけ刺激的だ。かつてのビートたけしや、今でいうと爆笑問題などが時折り垣間見せている笑いだが、それは、どんな状況にあっても、笑いというものは存在しうるということを信じる精神といいかえてもよいかもしれない。

絶望的な状況を解決できなくても笑うことはできる

この世界には、誰も解くことが不可能な錯綜した問題、解決の道が閉ざされてしまった絶望的な状況というものが山積しており、われわれは、そうした難問に満ちた現実に日々向き合わされている。この番組のコントangel A に描かれた労働現場における身分差別なども、残念ながら簡単には解くことのできない難問だが、そうした絶望的な状況を笑うことはできるというのが、この番組が発信している唯一稀有なメッセージだ。

サラリーマンNEOという番組は、一体いつまで続くのだろうか?

この疑問に対する模範解答は、サラリーマンという種族が、この国で存続する限り・・・ということになるだろう。でも、この国で繁殖したジャポニカ種「サラリーマン」の絶滅は、案外早い時期にくるのではないかと思っている。OLという言葉は既に鬼籍に入りつつあるが、サラリーマンという言葉も、近い将来には死語の仲間入りをすることだろう。
その時、サラリーマンNEOという番組もめでたく終了し、この番組は、高度成長期に繁栄し、バブル崩壊を経て絶滅したサラリーマン種族のための鎮魂歌(レクイエム)であったと回想されることになるのかもしれない。

(カトラー)

セクスィー部長beginning

|

« 木造ドミノ住宅とウッドマイレージから見える住宅産業の未来 | Main | 静かな津波が広がっている ~食糧危機の深層~ »

Comments

 屋台骨まで腐ってしまっているNHKが、日本社会に腐臭をまき散らし始めて久しい。「またNHKか」、庶民はうんざりしている。今となっては「不祥事」こそが「HNKらしさ」だと云っても良い。マスコミが引き起こす不祥事はこれから先まだまだ発生する。「TBSのように死んでしまってまで」なお「偽善」の代償を支払い続けるのだろう。
 あくまで個人的な感想だが、「サラリーマンNEO」はフジテレビ「ミラクル」の二番煎じではないか。私はこの番組に対して「今更」、という印象を持っている。
 日本人を「せせら笑う」ことに関しては あなたの右に出るものは少ないだろう。この番組はそんなあなたの琴線に触れたようだ。あなたの笑いを誘う 人間が見せる「おかしさ・哀しさ」は、残念ながら鬼籍に入ろうとしている?ジャポニカ種?「サラリーマン」特有の専売特許ではない。アメリカでは「郊外人種」や「ヤッピー」を笑い飛ばす人気コメディー番組もある。だからといってアメリカで特異な進化を遂げた?奇妙な生き物?「郊外人種」はサブプライムローン問題を経て絶滅してしまう、そのようなネガティブな感想を振りまいて楽しむアメリカ人は稀(まれ)であろう。「アメリカに呪いあれ」と絶叫するオバマの信仰の師、ライト牧師くらいではないか。
 あえて名付けはしないが カトラーさんのような感性を持つ種族こそ、この日本国においてだけ 特異な進化を遂げてきた、社民党もどきの絶滅危惧種なのではないか。

Posted by: かかし | 2008.05.21 at 11:50 PM

いわゆる「サラリーマン」は消えて少数の「正社員(正規公務員)、或いはキャリア職」と多数の「現地採用・派遣・出向要員」になります。
当然、社会保障の有り様は変わります。

「サラリーマンNEO」は私の感覚では作り手として「笑い」を第一には意識していないと思う。
モンティ・パイソンにしてもそう感じるけど、どちらかというと「笑い」より「皮肉やパロディとしてバカバカしさを丁寧な完成度」で追求して、その解釈・評価は視聴者の自由に任せてしまう様に作っていると思う。
もっとも活躍の舞台が「会社」という日本社会のミニチュア限定というのは、スタッフのリスクを姑息に小さくし「でも主張はしますけどね」という腹積もりかな?
「シュールな笑い」は民度を量るというか単純な笑いではないですから、徹底的に演出されたほのぼの笑いの求道者・欽ちゃんとは同じ「お笑い」ジャンルで比べるのは酷な様な気もします。
「家庭」を舞台にした笑いなら大体の人が笑えなくても理解は出来るでしょうが、「会社」を舞台にしたシュール劇は自覚の無い人には理解さえできないですし。
ん~自分でも何を言ってるのか分からなくなって来たw

Posted by: ト | 2008.05.23 at 01:15 AM

かかしさん、NHKの「サラリーマンNEO」も、フジテレビの「ミラクル」もちゃんと見てるんですね。
NHKの「篤姫」も久々にヒット。これはたしかに面白いです。
あまりにくだらない民放テレビへの反動もあってそろそろおもしろい芽が出てきているのではないですか?
ほかにみなさんおすすめの番組とかありますか?わたしはNHKスペシャルとかたまに凄いのがあるとおもいますけどね。

Posted by: みそじ | 2008.05.23 at 11:37 AM

中西和久 ひとり芝居『をぐり考』を再放送してほしい。

Posted by: ト | 2008.05.24 at 02:09 AM

NHK,YouTubeで番組を紹介する専用チャンネルを開設:ITpro
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080528/304470/

「サラリーマンNEO」こそYouTube向きかもしれませんね。

Posted by: ゴンベイ@オルタナティブ道具箱 | 2008.05.28 at 05:19 PM

「NHKらしからぬNHKでしかできない番組。」
素晴らしい。こういった解説・分析は気づかなかった。
三谷幸喜の番宣出演で映画の題名を言おうとしたら、
中田有紀がそのたび邪魔をするというシーンは、実は
NHKでしか実現できない。民放ではパブリシティは問題ないからね。苦肉の策を別の設定でコントにするアイディアはなかなかのものだった。
「NHKらしからぬNHKでしかできない番組。」か。
今後しばらくコンセプトができたね。

Posted by: 星と月 | 2008.06.04 at 12:30 AM

テレビ番組で異色体操続々 閉塞感笑い飛ばそう
東京新聞 2008年6月7日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2008060702000110.html
>NHKのバラエティー番組「サラリーマンNEO」(日曜午後11時)の人気コーナーの一つが「サラリーマン体操」。

ぼち得 お勧め動画:テレビサラリーマン体操(1回~4回)
http://bochi2otoku.blog53.fc2.com/blog-entry-38.html

Posted by: ゴンベイ@オルタナティブ道具箱 | 2008.06.12 at 04:56 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/20869/41276023

Listed below are links to weblogs that reference NHK「サラリーマンNEO」賛歌 ~サラリーマンへのレクイエム~:

» 大量失業時代負けるな日本のサラリーマン [人気 本]
大量失業時代負けるな日本のサラリーマンリストラ・不当解雇と闘う方法 著者:矢部武出版社:ほんの木サイズ: [Read More]

Tracked on 2008.05.28 at 12:59 AM

« 木造ドミノ住宅とウッドマイレージから見える住宅産業の未来 | Main | 静かな津波が広がっている ~食糧危機の深層~ »