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無差別殺人、再び・・・平和にたいする「戦争」が始まった?

Photo 東京・秋葉原の通り魔事件は発生直後から海外の主要メディアが相次いで伝え、その後も事件の背景を含め、「身の毛もよだつ襲撃は犯罪率の低さで知られる日本に衝撃を与えた」(AP通信)などと報じ、関心の高さをみせている。(msn産経ニュースより)

秋葉原で凄惨な無差別殺人事件が発生した。
知人のKさんが、たまたま、事件のあった秋葉原電気街に隣接するダイビルで開催されたセミナーに参加していて、一部始終をビルの5階から眼下に目撃していた。

「まるで映画のシーンを見るようで、最初は現実感が持てなかった」とKさんは、現場の状況をかみしめるように思い出しながら語ってくれた。
「・・・そのうちに周囲の人々が、倒れている人の所にかけつけ心臓マッサージを始めたんですが、放置されたままで、体を痙攣させている被害者もいました。その情景を見た時に、初めてこれが紛れもない現実なのだということが理解できました」

事件の直後、そのビルではセキュリティシステムが稼働して、出入り口が封鎖されたため、Kさんは、眼下で血の海が広がっていくのを為す術もなく、ただ見守るしかなかったという。救急車、パトカーのサイレン、報道機関のヘリコプターが何機も飛来し、ビル内の人々も殺気立っていたという。そこまで、話すとKさんは、青ざめ、その額と首筋には、冷や汗が吹きでていた。
阪神淡路大震災の直後に出会った人々も彼と同じ表情をしていた。たぶんKさんは、PTSDに陥っていたのではないかと思う。家族にもその場の状況について話すことできず、目撃したことを話したのは、私がはじめてだったという。

そして、Kさんは、私に向かって、語気を強めてこういった。

「あれはまるで戦場でした。戦争が進行してるんです」

閉塞感に言葉を失う人々

無差別殺人が頻発するような状況に直面し、いい知れない閉塞感が広がりつつある。人々やメディアも、こうした事態をどう解釈したらよいのか、何が原因となっているのか、無差別殺人を防ぐ手だてがあるのか、そうした疑問や不安に苛まれ、皆、言葉を失っている。
今回の事件を引き起こした加藤容疑者について、生い立ちや、無差別殺人に走った背景などがメディアを通じて垂れ流されてくるが、どれも虚しく響き、人々の疑問や不安に答えを与えてくれるものではない。事件、発生当初、犯人が、暴力団の構成員を名乗っているという誤報が流れたが、そうしたレッテルをはって分類できる人間だったら、どんなにか納得しやすかっただろうか。ところが、現実には数ヶ月前に起きた荒川沖駅構内の無差別殺人と同様、犯行はどこにでもいるような目立たない青年によるものだった。

われわれが、目の当たりにしているものが、「戦争」だとすると、これは、一体、誰が誰に対して仕掛けた戦争なのだろう。

丸山真男をひっぱたきたい・・・31歳、フリーター。希望は戦争」という論考で話題を呼んだ赤木智弘氏が、「若者を見殺しにする国」という著書の中で平和な現代がもたらしている閉塞感を以下のように述べている。

「安定労働層の経済を守るために、貧困労働層が犠牲になる平和。
家族を守るために、家族を持てない人間が不幸になる平和。
強者女性の人権を守るために、弱者男性が差別される平和。
そんな平和はもうウンザリです。私から見た「平和」とは、いつだって他人のものでした。他人の平和を守っていれば、いつかはそれが認められて、自分の平和も守ってもらえることになる。そう信じていました。しかし、そうではなかった。だから、私は平和との闘争を繰り返していかなければならないのです」

平和を憎悪する若者たち

この文章で、赤木智弘氏は、平和という欺瞞によって閉塞させられた現代を生きる若者にとって、逆説的に「戦争こそが希望になった」と述べている。それは、誤解を恐れずにいえば、日曜日の秋葉原の歩行者天国に4トントラックを駆って突っ込んでいった加藤容疑者の姿と重なっても見えてくる。「平和」に対する憎悪が若者たちの心に巣くっており、その憎悪が加藤容疑者を無差別殺人へと駆り立て、秋葉原を戦場に仕立て上げようとしたのだろうか。

もっとも、こうした推論の仕方は、多分に文学的に過ぎるだろう。赤木氏が「戦争こそが希望だ」アジッたのは、そう叫ぶことによって、現代の「平和」というものが内包している欺瞞性を暴こうとしたのであり、その言葉自体は、逆説的かつ戦略的な表現であることに留意する必要がある。戦争を望むしかないくらい、赤木氏ら現代の若者たちは、追いつめられ絶望しており、閉塞しているということの表現なのだ。
だから、赤木氏が渇望する「戦争」とは、現実のものというより、彼岸にある浄土のような存在だが、アキバの惨劇は、紛れもない現実の戦争だった。赤木氏が、こんな「戦争」を渇望していたわけではないことは、いうまでもないだろう。
「希望は戦争」という刺激的な言葉に昇華させて、赤木氏は、これまで声にならなかった抑圧された若者たちの叫びを代弁しようとしたわけだが、既に現実はその言葉を越えて、さらに先へと進んでおり、とうにこの国は戦争状態に入っていたのかもしれない。

万人の万人に対する戦争が始まっている

そして、この国で始まっている「戦争」とは、「万人の万人に対する闘争」(ホッブス)であり、そこには大義もルールも、神も仏もない、虚無的であり救いの無い戦争といってもいい。その戦争は、通勤ラッシュでごった返すホームでも、冷房の良く効いたオフィスの中でも、正社員とハケンの間や親子や兄弟の間でも、日々繰り返されている。
一体、この戦争の渦中で私は何ができるというのだろう。あの惨劇を目撃させられたKさんのように、死に往く人々の姿を脂汗を浮かべながら手をこまねいて見ていることしかできないのだろうか?
少なくとも、秋葉原無差別殺傷事件の犯人、加藤智大と私たちは、別の世界に生きる人間ではない、その苦い現実を認識することから始めるしか手だてがない。

(カトラー)

関連記事:無差別殺人の時代、ノーカントリーな日本を生き延びろ!

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Comments

「彼」のは抗議ではあれど闘争ではありません。
自分達の不幸が人口で茹だるのが原因の一つと考えたのか知らないが、社会から消えるに当たって何人か間引きの道連れにしたんでしょう。
4tじゃなく2tトラックじゃなかったかしら?

横に取り押さえられてる間、何を思ったか?

Posted by: ト | 2008.06.11 at 06:08 AM

世界中のメディアがトップニュースで取り上げたのにNHKはウソくさいエコキャンペーン「SAVE THE FUTURE」、
あと民放はくだらない芸能人のジャンク番組ばかり。
なんだかこの日本のノーテンキでウソツキでゴーマンなマスコミが一番悪いように思えてきたのはわたしだけでしょうか?

Posted by: j | 2008.06.11 at 11:32 AM

本人は意識していないだろうがこの国に希望を失った人間のテロのような気がする、だからこれは続く

Posted by: | 2008.06.13 at 05:06 AM

 「近頃の盗人(ぬすっと)のおつとめ、ありゃいってぇなんでぃ、見境なしに押し込んで十人二十人と皆殺しにしやがる。あっしらが若えころにはあんな外道働き見たことも聞いたこともねえ」、世知辛い世の中・お上のご威光が落ちた・世も末だと続いて、末法の世だと高僧のように嘆く。火付盗賊改方長谷川平蔵の密偵・彦十の愚痴である。
 犬畜生にも劣る輩が引き起こす凶行はいつの時代においても衝撃的である。そしてその衝撃は常にその時代その社会が抱える矛盾と結び付けられてきた。そういった凶悪犯罪は無差別的でもある。だから「明日は我が身」と皆が怯える。
 発生した凶悪犯罪に人々の理解が追いつかない。その怯えを閉塞感というならそうかもしれない。だが「万人の万人に対する闘争」が始まっているなどと、人々の怯えを煽ることもないだろう。
 「どこにでもいるような目立たない青年」が犯人であったこと。そのことがどうして「万人の万人に対する闘争」に繋がるのだろう。犯罪者が普通の市民を装うのは当然ではないか。暴力団員を例えに持ち出すなどナンセンスである。我々は「人を見たら加藤と思え」という社会に生きているということか。そうではなかろう。
 「普通の青年」加藤のような鬼畜・反社会的人間は、戦後間もない頃であれば帝銀事件の大量毒殺犯になれたであろう。1970年頃であれば「革命」を理由に無差別爆弾テロ、リンチ大量殺人でもやらかすだろう。1995年であれば嬉々としてサリンを撒くだろう。
 加藤のように自分は特別な人間であり、本来ならば人々から注目されるべき人間だと思い込むことは、あの革命運動や、オウムの解脱と変わらぬ「超」の字が付く傲慢さなのだ。だから無差別に他者を殺害できる。ワイドショーを独占してやるという加藤の自己顕示欲と社会への憎悪などを、ことさら目新しいと感じることはないだろう。動機としてはごくありふれた犯罪者の短絡に過ぎない。
 共産主義思想という空想に身をゆだね、当然のことながら挫折して社会を呪ってしまった世代。その子供たちの世代がゲームやネットという形を変えた空想の世界に時間を浪費しながら、現実の世界で「すべてが自分の邪魔をする」と逆切れして社会を敵視する。何というめぐり合わせだろう。どちらも常軌を逸した数々の無差別殺人を引き起こしてしまった。
 社会を敵視しない人々と鬼畜加藤は別世界に住んでいるのである。人は何のために生まれそして死んでゆくのか、今回のようなエントリーでこそ宗教的価値観を語るべきではないのだろうか。調和した社会の実現には智慧(ちえ)が必要なのだ。階級意識の目覚めなど何の役にも立ちはしない。闘争と破壊そして恐怖からは不調和しか生まれてこない。

Posted by: かかし | 2008.06.13 at 10:20 PM

横レスかな?

例えば硫化水素自殺で7人巻き添え死・10人中毒入院だったらこんなに話題になりませんわな
あと「彼」が「正社員」であってもこういう結末を引かなかったか?というと、確かにメンタル的に引き易い面があったようなので、遠からず何かしら逆噴射したんじゃないかな?とは思います。

でもね。
今の人材派遣の規模と境遇はやっぱり社会問題だよ。
若者はこれから0から蓄財していく立場だし、引退者から順繰りにでも役割やら利権やら財産やら後世に譲っていかないと、上手く世の中が回らない。
年寄りが不安を抱えたまま何時までもそれらを手放さず、それでなくても全体のパイが小さくなってるのだから、「あんまり弱者(笑)を虐めるな」ぐらいは政府に言って良いでしょ?

Posted by: ト | 2008.06.14 at 07:41 AM

■父親が関東自動車正社員のブログ
【秋葉原無差別殺傷】人間までカンバン方式 - 何かごにょごにょ言ってます
http://d.hatena.ne.jp/boiledema/20080610#1213114352
>なんか激しく放置プレイなんだけど、秋葉の事件について、犯人が働いていた工場は、父が正社員として長く勤めている会社のことなので、知っていることを書いておきます。

Posted by: ゴンベイ@オルタナティブ道具箱 | 2008.06.15 at 04:23 PM

「希望は戦争」というタイトルで誤解されていますが、赤木智弘氏は戦争そのものを希求しているわけではなく、戦争や敗戦がもたらす皆が等しく貧しさを分け合う世界ならばワーキングプアの若年層が苦しむことがないと言っています。

反米嫌日戦線「狼」(醜敵殲滅): 狂った街アキバ こいつらみんな氏ねばいいのに
http://anarchist.seesaa.net/article/100028899.html#comment
赤木智弘氏コメント>
私は「他国に出かけて人殺しをする」なんてことは考えてませんよ。むしろ日本が侵攻されて多くの日本人が死ぬべきだと考えています。復興のなかにこそ平等があります。
「戦争」というと「自分たちは侵攻する側だ」と勘違いする人が多いのでしょうが、なんででしょうね?

あと、私と彼は完全に違いますね。私はあくまでも「被害者」の立場を死守します。私が殺されることはあっても、私は人を殺したくないのです。
私は、認められたり救われたりしたいのであって、復習をしたいのではないのです。
ただ、私と関係のない他人が、「他人を殺す」ことについては、止めもしないし、こういう人間を粗末にする社会を放置しつづける以上は、それこそ先の記事のコメントに書いたように「突然殺されることは、交通事故と同じと考えて、受容するべきなんじゃないの?」と考えますけどね。

もうひとつ、私も事件直後から2ちゃんねるをみていますが、ニュース速報+あたりはともかく、実況スレあたりだと、マスコミがトヨタをはじめとする派遣労働体制をつくった連中に対する批判をほとんどしないことを、皆で揶揄して楽しんでますよ。
わたしも驚くほどに、犯人に対して同情的な意見が目につきます。まぁ今後マスコミが犯人の「オタク、精神異常者、犯罪予備軍」という印象付けを続けることによって、そうした意見は減っていくのでしょうが、それでも派遣労働の現状を正確に知っている人たちがいるというのは、非常に心強く感じます。

Posted by: ゴンベイ@オルタナティブ道具箱 | 2008.06.15 at 04:39 PM

ゴンベイさんのハテナの頁を読みました。おもしろかったです。T社は、地球に優しいエコ企業であることを標榜するために、莫大なお金を使ってPRをしているのに、人材はカンバン方式なんですね。でも、T社だけじゃなく、大きな企業は、どこもそうですよね。利潤だけ追いかけるのが「正しい」とされていて、黒字をたくさん捻出できる管理が最も偉い。
資本主義が終焉し、もうひとつの世界(altermondialisme)が、はやく、やってきてほしいけど、なんか、カリスマ的な政治的リーダー、日本にいませんね。

Posted by: ひのまるサロン | 2008.06.15 at 11:15 PM

赤木氏と死ぬのはやつらださんの屈折、ゴンベイさんやひるまのサロンさんの空想。体全体を悪寒が走ってしまうのは私だけでしょうか。なんだか気分が悪くなってしまいました。かかしさんのコメントに激しく同意です。

Posted by: | 2008.06.16 at 01:30 PM

はじめてコメントさせていただきます。
赤木氏のコメントを読んで気持ち悪いなと感じています。名無しさんのコメントは理解できます。カトラーさんは赤木氏に共感しているようですがわたしは共感できません。
かかしさんがカトラーさんに反論ばかりしている理由がわかりました。日本の悪いところばかり並べて日本はだめだと思う人たちは信用できないと思います。日本を不幸にするのはそんな人たちではないでしょうか。

Posted by: ジュン | 2008.06.17 at 11:53 AM

ジュン様

>日本の悪いところばかり並べて日本はだめだと思う人たちは信用できないと思います。

でも、日本の良いところばかり並べて自画自賛している国よりは、マシではないですか。 ナルシストほど気持ちわるくダサい存在はないですよ。

>日本を不幸にするのはそんな人たちではないでしょうか。

日本を不幸にするのは、自画自賛の井の中の蛙、批判精神を知らない人たちですよ。

Posted by: mko | 2008.06.18 at 10:26 PM

>むしろ日本が侵攻されて多くの日本人が死ぬべきだと考えています。復興のなかにこそ平等があります。

ローマに攻め滅ぼされたカルタゴや、ナチスのユダヤ人虐殺のような事態になったらどうするつもりなのか?「侵略者」が「復興」や「平等」を実現してくれると本気で考えているのなら、最早「狂気」と言わざるを得ない。

最近の彼の論調を見ると、貧困や差別など、もうどうでもよくなっているのではないのか?

http://blogos.com/article/47143/

なんとも、「太平楽」そのものだな。

Posted by: ざがーと | 2012.10.28 at 11:24 AM

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Tracked on 2008.06.17 at 07:49 PM

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