福田退陣の隠されたメッセージ ~自公連立の終わりのはじまり~
この連立構想に小沢一郎も乗り、いったんは党内調整に動いたが、予想外の猛反発に合ってこの構想は破綻してしまった。福田の唯一の政権戦略が破綻し、この時、政権の短命化が決定づけられてしまった。その後、大連立構想の破綻は、小沢一郎の辞任騒動にまで発展したが、小沢が周囲からの慰留によって変心し、辞任表明を撤回して民主党の党首として留まることを決意した以降は、対決姿勢に終始し、二度と腹を割った対話に応じることはなかった。今回の辞任会見でも、小沢一郎との連携に活路が見いだせなかったことに今更のように未練たっぷりに言及しているように、福田首相は、小沢一郎との会談が不調に終わった後も諦めることなく、民主党との連携を模索し続けた。何事も他人事のようで、内閣総理大臣として何をやりたいのかわからないという批判を受け続けた福田だが、唯一なりふり構わずこだわったのが、民主党との連携だった。ここに、今回の辞任の本質がある。
大連立に不快感を露わにした公明党
福田が進めた民主党との連立構想に、あからさまに不快感を露わにしたのが、公明党だ。自民党との連立政権は、あしかけ10年に及んでいるが、その間を通じて小選挙区での共闘体制などが進み、公明党がいなければ、まともに選挙もできなくなってしまった。今や、公明党は、国会で与党席の一角を占め数の上でキャスティングボードを握るだけでなく、自民党という政党自体の生殺与奪までも握るようになってしまった。自民党は、保守第一党という看板を掲げているものの、下半身は、創価学会の体をしているケンタウロス(半人半獣)にいつしかなり変わってしまった。
自民党の議員からは、決して表だって声があがることはないが、集票マシーンを持った公明党に自民党が徐々に取り込まれ、コントロールされていくことの恐怖が生まれていた。民主党との「大連立」は、公明党との蟻地獄のような関係とは別の、もうひとつの選択肢を持つことで、自民党の自立性を守りたいという密かな願望の現れでもあったからこそ、公明党は激しく反発したのである。
公明党と福田政権の関係を検証していくと、2つの出来事が浮かび上がってくる。
それは、先の内閣改造と、総合経済対策のとりまとめの中での定額減税の取り扱いをめぐる綱引きである。
民主党との大連立に意欲を示したことで、明らかに冷え込んでしまった公明党との関係を修復する意味も込めて、福田は内閣改造に際して、浜四津敏子など公明党の大物議員を含めた2名の入閣を打診したが、公明党はこの申し出を断り、環境相のポストだけに止めた。公明党員、創価学会員の間でカリスマ的な人気を持つ浜四津が入閣すれば、総選挙の際には、創価学会の末端組織がフル稼働するだろうという思惑も自民党サイドにはあったのだが、「大連立」を仕掛けた福田に対する公明党の不信の念は根強く、エース級の人物を送り込んでまで政権を浮揚させようとはしなかった。
定額減税は、公明党が迫った「踏み絵」
そして、福田政権と公明党との間の亀裂を決定的にしたのが、定額減税をめぐる綱引きであった。
総合経済対策の中味に、定額減税を盛り込むことを公明党が強硬に主張したのである。福田首相、与謝野経済担当大臣、麻生幹事長など福田政権の主要メンバーと公明党幹部との間で長時間の折衝がもたれたが、この話し合いは、結局、平行線に終わったと報道されている。これは、与謝野経済担当大臣などが主張する「財政規律の保持」の姿勢と、公明党の主張する選挙向けの「バラマキ」要請がぶつかり合ったためと解説されているが、そうではない。定額減税とは、自民党をコントロールしようとする公明党が、「大連立」を画策した福田に対して迫った「踏み絵」に他ならなかった。
福田は、これを敢然と拒否したが、その後の麻生幹事長を中心とした妥協工作によって、自民党としては公明党の要求を受け入れ、財源措置の目処も無いままに、「年度内に定額減税を実施」というメッセージを出してしまった。福田にしてみれば、忸怩たる思いだったろう。自民党が踏み絵をふまされ、公明党の言いなりになっている。福田の辞意は、この時に固まった。
マスコミは、福田の突然の辞任を、「逆ギレ辞任」などと書き立てているが、皮相な見方だ。問題の本質は、大連立の破綻とそれをきっかけとして噴出した公明党との軋轢にあった。自民党の中でも公明党と距離を置く議員たちは、福田の行動に密かに喝采を送っていた。公明党との連立を放棄してでも、大連立の可能性がありうることを福田が初めて示したからだ。自民党が公明党との連立に踏み出した10年前から、自民党が創価学会にコントロールされることになることを懸念する声が根強くあった。しかし、創価学会の組織力と集票パワーを前にすると皆押し黙った。
「鶴タブー」という言葉がある。公明党・創価学会のことを批判することが、政界やメディアのレベルでタブー視されていることを指す。鶴とは創価学会の信奉する日蓮正宗のシンボルである。今回の福田辞任をめぐる問題でも、公明党との軋轢という視点から分析しているメディアはほとんどなかった。
胡錦涛と会談、池田大作のはしゃぎぶり
今年の6月、中国の胡錦涛主席が来日した際に、創価学会の池田大作との会見がセットされた。公明党、創価学会の機関紙「聖教新聞」が例によって北朝鮮のメディアのようにその模様を華々しく取り上げ、はしゃぎまくっていたようだが、そこにはチベット問題や毒入り餃子問題に関する言及は一切なかった。
池田大作に、もしも仏教者としての心根がかけらでも残っているのなら、胡錦涛に会った時にダライ・ラマと対話することを説得すべきだとこのブログでも書いたが、現実は愚にもつかない漢詩を送って悦に入っていただけのようだ。
中国の国家主席が、なぜ、日本の宗教団体の代表にわざわざ会いにくるのか。そのことを素朴な疑問として考えてみるべきだろう。それは、日本の政権中枢に創価学会という存在が深く巣食って、影響力を行使しているからであり、そうでなければ、歯牙にもかけられないだろう。
福田首相の辞任の隠されたメッセージとは、日本の保守政党の第一党である自由民主党が、創価学会の風下に置かれている現実をあからさまにしたことだ。「宗教者」と政治屋の顔を使い分け、北朝鮮のように独裁権力を恣にしている人物のコントロールを受けた政党に長くキャスティングボードを握られている日本の政治を憂えないとしたら、それはまともな職業政治家とはいえない。
辞任会見に隠されたメッセージ
辞任会見で、安倍首相に続きこうした「政権投げだし」ともいえるような辞め方が、「自民党を中心とする政権に与える影響をどう考えるか」と問われ、わざわざ、その記者の質問を「自民、公明両党の政権」と言い換えて以下のように答えている。
「自民、公明両党の政権が順調にいけば、それに越したことはない。しかし、私の先を見とおす目の中には、決して順調ではない可能性がある。その状況の中で、不測の事態に陥ってはいけないとも考えた」
福田の言葉は、自己韜晦的で、ほとんど何をいいたいのかわからない。しかし、私は「(自公連立は)決して順調ではない可能性がある」という言葉に、福田が公明党に対して投げかけた最大限の毒を感じる。自公連立に亀裂が生じていて、それが将来にも及ぶ可能性があることを、一国の首相が辞任会見の場で初めて認めたのであり、自分の辞任が、その亀裂を「不測の事態」にまで発展させないためのものであると言うことで、暗に、辞任が自公連立の限界に起因することを示唆している。
たぶん、福田の「先を見とおす目」には、この亀裂をもとに、日本の政治が一気に流動化する姿が見えている。そして、そこでは福田のようなタイプの政治家には、出番がないこともわかっているのだ。
「『ひとごとのように』と言われたが、私は自分自身を客観的に見ることができる。あなたと違う」
質問を投げかけた若い記者に対して、会見の最後でそう気色ばんで見せたことが、「逆ギレ」したと揶揄されているが、自分の引き際について、考え抜いて自覚的であったということが、切望した大連立が叶わず、公明党との綱引きにも敗北して退陣せざるを得なくなった福田としては、最後の矜持ともいえるべきものだったのだろう。
(カトラー)
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
将来、仮に公明党の支持母体である創価学会に関する致命的な不測の事態が発生したときに、自公の一体化は自民党にも修復困難なダメージを与えるという観測があるのでしょうか。
それを回避するには、公明党との適切な距離感をとること、あるいは政界再編に向けた布石を打ち続けること、自民党の解党をも視野に入れた構想を練ることなのでしょうか。
投稿: 読者 | 2008.09.04 12:02
マスコミは絶対に池田大作を批判をしない。
個人でも実名で批判した者は必ず報復される。
学会員には警察や自衛官や教師や公務員が多いと聞く。
こんな異様な状態がいつまで続くのか?
投稿: 有 | 2008.09.04 13:36
池田大作以降は、遠からず公明党は主に自民党に吸収されるんじゃないかな~とか少し思ってる。
投稿: ト | 2008.09.08 17:19
初めてお便りします。
週刊木村剛さんでこちらの存在を知りました。
私もカトラーさんと全く同意見です。
8月の組閣で財政規律を守る布陣を敷いた福田首相に対して、公明党は定額減税という煮え湯を飲ませました。これが最後のきっかけとなって辞任したのだと感じました。
もともと公明党はその宗教団体の信者を増やすために生活保護を利用している政治団体です。生活保護を受けさせて創価学会の信者にすると同時に公明党の確定投票者にしてしまうという戦術です。そのために市役所区役所に大変圧力をかけます。公明党に頼むと手続きがスムーズという巷の情報です。人間の弱みを突いた高等戦術です。また今回の組閣で初めて国交省の大臣を谷垣さんにしました。建設利権の温床である国交省の大臣ポストは公共事業減少で美味しくなくなったのかしら、と貪欲な公明党としてはなぜ放棄したかわかりませんが。もし福田さんが財政規律を行うために谷垣さんにしたとしたら、公明党は美味しい果実を奪われたので福田首相に対して強い反感を感じたと思います。
公共事業で(指定業者として)創価学会業者を潤し、生活保護で投票と創価学会を潤すシステムをもつ、いわゆる「放漫財政大賛成派の公明党」と、「財政規律派の福田首相」とは相容れないことは明白であります。
私自身は少なくとも、創価学会公明党方式よりも、財政規律派に賛成です。そして財政規律派に対して言いたいのは、財政規律の前に公務員規律の再構築をしてもらいたいです。
投稿: とおりすがりで失礼します | 2008.09.13 11:16
hi, new to the site, thanks.
投稿: semacevycerie | 2011.02.22 02:53