医薬品がネットで買えなくなる? ~厚労省が進める「過剰規制」の深層~
医薬品ネット販売禁止を要望(11月18日 0時4分)
インターネットでの医薬品の販売をめぐって薬害被害者や消費者の団体の代表らが17日、舛添厚生労働大臣と面会し、薬の安全性が脅かされるとしてネットでの販売を全面的に禁止するよう申し入れました。 (NHKニュース)
NHKを見ていたら、舛添厚生労働相に全国薬害被害者団体連絡協議会や消費者団体の代表が面会し、ネット上での大衆薬販売の全面的な禁止を求める要望書を提出したというニュースが流れ、強い違和感を感じた。
舛添厚労相との面談後、会見した全国薬害被害者団体連絡協議会の花井十伍・代表世話人らは「規制を放棄すれば医薬品の安全性確保は大きく後退する。消費者の命を軽視する横やりは絶対許さない」と訴えたそうだ。
気持ちは理解できるが、ここで言われていることは、どう見ても論理性がない。日本では、サリドマイド、スモン、薬害エイズなど薬害被害が繰り返され、大きな社会問題となってきた。薬害被害にあった人々はいわれのない苦しみに現在も苛まれていることには心からの同情を禁じ得ないが、薬害とネット販売に何の関係があるというのだろう。
論理性に欠ける薬害被害者団体の言い分
薬害事件を引き起こした原因の多くは、消費者のことを念頭におかず、医者や製薬業界ばかりに目をむけてきた、これまでの厚労省の行政のありかたにあったことは明らかだ。役人の事なかれ主義、前例踏襲主義が、問題への対応を遅らせ、薬害被害の拡大と社会問題化を許してきた。
一方、ふり返ってみれば、これまで一度たりとも販売業者が直接の原因となって、薬害が社会問題化したことなどない。薬害オンブズパースン会議が提出した要望書などを読むと、ネット販売を許せば、明日にでも薬害被害が繰り返されるようなことが書かれているが、これは過去の歴史的事実や根拠に基づく議論ではない。
2006年6月の国会で成立し、2009年度に完全施行される改正薬事法では、コンビニエンスストアなどでも一般医薬品の販売ができるようになる。2007年4月に厚生労働省は一般医薬品の3分類(A類、B類、C類)を定め、副作用などの恐れの少ないB類、C類医薬品については、薬剤師でなくとも、実務経験1年以上で資格試験に合格した「登録販売者」であれば販売できるようになる。これによって、薬剤師でなくても医薬品の販売ができるようになり、一見、規制緩和を行ったように見えるが、実はこの規制緩和とセットで対面販売を義務づけていることが、大きな波紋を巻き起こした。
改正薬事法で義務づけられる対面販売
というのも、この「対面販売」という言葉の定義には、薬剤師や販売資格保持者がネットを通じて消費者とやりとりし、商品を販売する行為は含まれていなかったからだ。このことにケンコーコムや楽天など、薬剤師を置いて医薬品をネットで販売してきたネット事業者や薬局が猛反発した。ケンコーコムや楽天は、医薬品をネット販売している事業者としては、大手になるが、大半は、ネットでショップを開設して地方の消費者などに薬を販売しているの町の薬局だ。改正薬事法が、完全施行されると、風邪薬なども対面販売が原則とされ、ネットでは、ビタミン剤や整腸薬ぐらいしか売れなくなってしまう。このネット時代に、厚生労働者は、なんとも時代錯誤的な規制を行おうとしているのだが、その大義名分となっているのが、「消費者の安全・健康」であり、薬害被害を将来にわたって起こさないためということなのだから呆れてものがいえない。
確かに、ネット販売事業者の中には、バイアグラなど医師の処方箋が必要な薬を違法に販売したり、日本で認可されていない薬を売ったりしているケースもある。しかし、彼らの行為をやめさせるには、薬事法の規制を強化しても何の意味もない、唯一有効な手段はネットを切ることでしかない。ネットを活用して医薬品を販売してきた大半の事業者たちは、顧客の利便性を高め、地域格差などを解消する努力を他に先駆けて行ってきた優良な事業者たちであり、その自由な経済活動を妨害されるいわれはどこにもないのだ。ネットを通じて薬剤師が医薬品を販売することを止めさせるというのであれば、ネット販売事業者のどこが問題で、一体、何が悪なのかを厚労省は説明する義務がある。
これまで説明したことは、私に言わせれば、数々の薬害の発生を黙視してきた厚生労働省が、自らの咎(とが)を反古(ほご)にして、ネット事業者に悪役(ヒール)を押しつけている所業としか思えない。お門違いの規制を持ち出すにあたっては、予定調和的な諮問委員会などを組織し、その中に薬害被害の団体の代表者も参加させ、厚労省が主張する「ネット悪玉論」に箔をつけることまでやっている。もちろん、この諮問委員会には、ネット事業者は招かれざる客で彼らの関知しないところで議論が進められた。老婆心ながらいわせてもらえれば、薬害被害の団体の人々は、結果的に厚生労働省の思惑に乗せられ、いいように利用されていることに気づいていないだけではないか。
販売資格制度をスタートさせたい厚労省
厚生労働省の思惑とは何か。それは、今回の改正薬事法の施行によって新たな販売資格者制度をスタートさせることにある。「対面販売」を強化するという前提のもと、販売チャネルをコンビニやスーパーにも拡大する上で販売資格を認定する検定制度を作ろうとしている。薬剤師の資格に比べれば、ハードルは低いが、1年以上の実務経験を求め、筆記試験も行うこととされていて、その試験問題は、かなり難易度が高くなるといわれている。旧大蔵省がFP(フィナンシャル・プランナー)、通産省がITコーディネーターを作ったように、医薬品の販売資格者を認定する一大検定資格制度を構築しようというわけだ。
検定資格制度は、今やビッグビジネスになっている。有名な「漢字能力検定」は、受験者が264万人に達し、受験料だけで年間50億円を超える。
医薬品販売に関わる販売資格検定がスタートすれば、医薬品を扱いたい全国のスーパー、コンビニの従業員がこぞって受験することだろう。「対面販売」を強要しているので、店舗に1名は販売資格者が必要となり、資格取得希望者はかなりの数に達することになる。就職に役立つということになれば、学生や主婦なども受験するだろう。漢字能力検定、FPのようなビッグビジネスにできれば、検定制度の立ち上げと一緒に発足する「協会」は、厚労省官僚にとってはおいしい天下り先になる・・・。
厚労省の思惑に目の上のたんこぶとなるネット事業者
そして、こうした思惑にとって、目の上のたんこぶになるのが、医薬品のネット販売事業者やネットを活用して新たなビジネスモデルを構築しようと懸命になっている先進的な薬局経営者たちである。薬剤師がネットを通じて医薬品を全国に販売できる現在の状態が続けば、1店1名の前提が崩れ、新たに構築する販売資格者制度の存在価値が稀薄になってしまうからだ。
「安全、安心」あるいは「医療・健康」に関するテーマは、「規制」の旗を立てやすい。こうした事柄を守るために「規制」が必要という議論自体に異をとなえるつもりはないが、問題は何を根拠に「規制」の線引きを行うかということだ。その根拠を示すことが、フェアな行政の最低限の前提、説明責任とならなければならない。
舛添厚生労働大臣は、薬害被害者の団体の代表者たちと会うことで、暗にネット販売が薬害の温床になるかのような根拠無きメッセージを送った。この陳情に対して「ネット販売についてはさまざまな意見がある」と答え、表向きは中立姿勢を保っているが、自分たちが意図している「ネット販売業者の締め出し」を求めている「弱者」が存在するということを世間に示すことができさえすれば十分だったのだ。
厚生労働省が意図しているのは、本当は天下り先確保のための単なる「省益」に過ぎないという、私の指摘が間違いだというなら、舛添大臣は、ネット販売に対する規制に反対するネット事業者、薬局経営者とも会って彼らの意見にも耳を傾けるべきだ。
(カトラー)
参考サイト: ケンコーコム http://www.kenko.com/info/notice/otc/public_comment.html
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コメント
医療財政の負担軽減と、大手小売業の売上拡大という双方の思惑からはじまったセルフメディケーションの大号令の結果、突発的な症状の人は大した煩いでなくとも医者へ架かるようになり、慢性的な症状の人はネットで安価に一定量の薬をまとめて購入するようになってきています。
今回の薬事法の改正は、どちらも偶発的にミステイクの方へ平衡が傾いている問題を矯正する意図があると思います。ちょっとした発熱や喉の痛みには、必要な薬を身近に購入できるようインフラとして薬を整備し財政負担を軽減させようとしていますし、慢性的な症状の人が、自己流の誤診によって長期にわたって不適切な薬の服用をする危険を抑制にも繋がっていく方向付けがなされています。
天下り先を作ることになる点や過去の薬害を、引き合いにしてバッシングするのは簡単ですが、行政としてできる範囲で、対面販売や説明責任の明文化など現在よりトラブルが減少する仕組みづくりを試みている点はもっと評価をしても良いと思います。
業として医薬品を譲渡・販売を目的として保管・陳列する観点から現行法の関係法令を厳密に適応すると、違法性を十分指摘できるネットにおける医薬品の販売を、コンタクトレンズの洗浄液や、食品と同程度のサプリメント系のビタミン剤といった緊急性が求められない「第三類」に限り、通信販売を許可すると定義づけられるのをネット事業者が不服とするのは、自己の利権を主張する「抵抗勢力」copyright 2001 小泉純一郎 All Rights Reserved といえるのではないでしょうか?
確実に主/福なにかしらの作用が発現するのが医薬品です。「これは個人の感想で効果には差があります」と表現される健康食品ではありません。その特性から利用者の症状改善を第一に優先し、販売方法はそれに準ずる最適な方法を随時法整備と共に導入して行けば良いと思います。
現在のバスケット方式(買い物カゴ方式)や低画質のビデオチャット以上の技術改善が、しばらく望めない現在は、当番医や救命救急のように地域ごとに常に開店している店を配備することを義務づけ配備していくことが、現実から乖離しすぎない実態ある医療介護や地域コミュニティの形成などの社会構築に役立つものだと私は思っています。
追記:薬事法の改正問題は、改正当初に配価として、商品が市場で動きますが、その後は停滞→縮小の方向に進んで行くのが見えてきますので、既製品の価格が限界まで下落するネットの特殊性や、コンビニでの販売のために開発された内容量と価格を抑えた商品が多く流通した結果市場規模が縮小についてみていくと面白いと思います。長文失礼いたしました。いつも拝読しております。
投稿: 医龍コン猿タント | 2008.11.19 22:51
いつもこのブログをお読みいただいているとのこと、ありがとうございます。
さて、今回のエントリー記事ですが、薬害被害の団体の皆さんが、桝添大臣に医薬品のネット販売を禁止する要望を陳情したというニュースを見なければ、門外漢の私が、薬事法の問題などを取り上げることはしなかったのですが、ネット販売事業者が、何か具体的なデメリットをもたらしたのか、という素朴な疑問を持って、調べて見ると、当局が「対面販売」という概念を医薬品の販売に導入しようとしており、それが、結果的に販売資格制度の創設や、ネット事業者の締め出しにつながっているということが見えてきました。
ご承知の通り、現行薬事法のもとで、医薬品はネット事業者を通じて現に販売されています。ネット販売それ自体の問題によって実際に不都合や消費者の健康被害につながるような事態が生じているのなら、販売方法を規制するという議論もわからないではありませんが、そんな事実はありませんし、厚生労働省もそんな説明は一切していません。改正薬事法自体にも、ネット販売を禁止するなどという文言は、一言も書かれていませんから、これは法律の運用の問題ということになります。国会のチェックを受けていない法律の運用の問題であるわけですから、行政執行者としての厚生労働省には、高い説明責任が求められます。なぜ、ネット事業者が行っている医薬品の販売行為を止めさせることが必要なのか、誰にでも納得できるように説明する必要と義務があるのです。
そもそも、そうした説明責任をないがしろにしてきたから、薬害問題や消えた年金問題も発生してきたのではないでしょうか。
ご意見を拝見すると、ネット販売事業者の販売行為を「既得権益」と同一視されているようですが、それは全く違うと思います。例えば、かつて酒類販売免許を持っていた酒屋だけに酒類の販売が認められていたように、お上がお墨付きを与えていたり、競争行為が禁止あるいは制限されている市場を独占的に保持していることが「既得権益」と呼べるものであり、ネットを通じて薬剤師などが医薬品を販売することは、もともと誰の認可も必要としない、一般的な経済行為に過ぎません。薬剤師であれば、誰でも日本中のどこでも薬局が開けるのと同様に、ネットで薬を販売することは、通販などと同様に自由な経済行為です。そのあたりまえの経済行為をわけもなく規制するというのは、自由主義国家のまともな経済政策とはいえないでしょう。
厚生労働省は、「対面販売」の定義について、苦し紛れなのか、アホなのか、ご丁寧にも「手渡しが必要」という説明をしています。手渡しをしたからといって、医薬品の安全をどれだけ担保できるというのでしょう。メール等のやりとりで、対面しなくとも薬の専門知見を持った販売者と密度の濃い情報のやりとりを行うことはいくらでも可能であり、「手渡し」にこだわるというのは、そもそも根拠が稀薄であり、国民に対して何も説明していないに等しいといわざるを得ません。
このエントリー記事でも指摘したように「対面販売=手渡し」こだわるのは、今後、創設される販売資格制度を意識したものといわざるをえません。薬害とか国民の健康という問題を人質にして、省益をはかろうとしている姿勢が、私にはがまんならないのです。
この記事をエントリーしようとした直前に、厚労省の元次官に対するテロと考えられる事件が発生しました。憎むべき犯罪であり、こんなことを決して許してはなりませんが、自民党の一部のバカな政治家が、こうした事件が起きたのは、厚労省バッシングを行っているマスコミや野党のせいだと言い出しています。バカをいってはいけない、現在の厚生労働問題をめぐる閉塞感を生み出しているのは、これまで説明責任を回避してきた政治家、官僚の姿勢そのものに起因していることを政府当局者は深く認識すべきでしょう。
亡くなった元厚生次官の山口さんは、年金の制度改正という大仕事をなし遂げ、制度改正に伴う、国民の疑問に対して、新聞の投稿欄などに自ら投稿して丁寧に新制度の説明を行っていたといいます。今後の厚労省改革の範となるような惜しい人を亡くしてしまったといえるでしょう。厚労省や政府当局者は、噴出している問題に正面から向き合い、批判についても甘んじて受け、説明責任を果たさなくてはなりません。でなければ、亡くなった官僚とその家族は浮かばれない。
投稿: katoler | 2008.11.20 20:21
他のブログで紹介されていたので拝見しました。
調剤薬局を開局する薬剤師です。
今回の制度に関しては様々な捉え方があるかと思います。
ひとつには薬剤師を含めた人件費を削減し今後も出店を続けスクラップ&ビルドにて経営を安定させたいドラッグストア経営者の念願が叶った(通販経営者を新興勢力だとすればその芽を摘むことができた)という視点。
もうひとつには、あなたの仰るような公務員の天下りと今後の医療費の抑制、という視点でしょうか。
私自身は薬剤師として医療を眺めていますので、あくまで薬剤師寄りの見方になるのかも知れませんが述べたいと思います。
医薬品を一般の商品と区別するかどうかという点です。
医薬品のうち、危険度が高いものは医療用医薬品として医師の処方とし、安全なものは市販薬とする。
一見明解のようであり、理解も得やすいように思われますが、これは誤りです。副作用の発生頻度と重篤度を集計すれば恐らく医療用の血圧降下剤よりも市販の風邪薬のほうがずっと多い。「恐らく」というのは、医療業界ではこのような研究は非常に少ない(研究費に製薬会社のスポンサーがつかない)うえ、副作用の拾い上げというものが思いのほか困難だからです。
今回の制度で風邪薬は一般に2種(薬剤師以外が販売可)に分類されていますが、このことには多分に商業的な部分が影響していると思います。例えば一般消費者が市販薬を必要とする機会は圧倒的に風邪の場合が多いからこのことは消費者の利益なのだ、という人々の主張を差し引いたとしても、例えば
「風邪薬を服用しても風邪は治らない。また罹患期間(病気を患っている期間)は風邪薬の服用により延長する。」
という薬剤師の間での常識が消費者の常識になっていない現状では規制緩和を主張するのは如何かと思います(この常識を医療の常識としていないのは、風邪薬や抗生物質が無駄であることが世界中に周知されているのにも関わらず日本のほとんどの医師は見ないフリをしているからです)。
今後医療制度の変更で、医療機関にかかる頻度は低くなり、市販薬を購入する機会はふえるでしょう。
私の中での結論は、医薬品を購入する相手を選ぶことです。
薬害被害者の中には突発的に起こる重篤な副作用である中毒性表皮壊死症等の方も多くおられると思います。
医薬品の使用に関して抑制的にアドバイスする専門家が担当していればと思います。
投稿: 個人的な見解ですが | 2008.11.25 17:35
スポンサーのいいなりのTV報道、新聞報道を鵜呑みにしている国民に真実のみを報道する機関が必要かと思います。(まぁNHKを見なさいと言うことでしょうがNHKだけでは情報が少なすぎる気がします・・・)
国民一人一人が真実を知り、何が正しいのか正しくないのかを判断できることが肝要と存じます。
そうすればネット販売も自己責任を前提に可能かと思います。
投稿: | 2008.11.28 15:35