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地方からの反乱が始まった、霞ヶ関は「大政奉還」せよ!

Photo 世紀の愚策とも評されている「定額減税給付金」を巡って、混迷が続いていると思ったら、給付方法について地方自治体に丸投げするという、呆れてものがいえない結末になっている。
麻生総理が、「(こうした対応は)丸投げではないのか」という記者の質問に対して苛立ちを見せ、「それが地方分権っていうことじゃないの」と言い捨てた。この対応と発言をめぐって各都道府県の知事から反発の声が上がっている。

麻生太郎は、小泉内閣時代に総務大臣として入閣し、地方分権の問題に国政の立場から取り組んだ当事者であったにもかかわらず、この発言の見識の無さには驚かされるばかりだ。
最近、麻生首相は「未曾有(みぞうう)、踏襲(とうしゅう)、詳細(しょうさい)」といった漢字を読めなかったことで、大恥をさらしたばかりだが、どうやら「地方分権」という言葉の意味すら理解できていないようだ。

もっとも地方分権の意味を、「政府が決めたことを地方が一定の裁量をもって進めること」と曲解するなら、麻生首相の言い草も間違いではないということになるかも知れないが、そんな歪んだ解釈が通用するのは、永田町と霞ヶ関だけだ。

ダム建設問題をめぐる 霞ヶ関vs地方

地方分権をめぐって、国と地方のツバぜり合いが色々な所で始まっている。
11月10日に大戸川ダムの建設をめぐって、大阪府、滋賀県、京都府などの知事たちが建設反対の声を上げた。このダムの建設を巡っては、外部識者も入れた淀川水系流域委員会が組織され、7年間にわたる検討が進められ、そもそも想定されているのが100年に一度あるかないかの水害であり、仮にダム建設によって治水をおこなっても、水位を20㎝程度しか下げる効果しか見込めないことなどから、必要性が認められないと答申されていた。にも関わらず、既に工事の2/3が実行されていることを理由に国土交通省が残りの工事とダム建設をゴリ押ししようとしたことに4府県が反旗を翻した。同様のことが熊本県の川辺川ダムでも提起されている。3~40年前にプランニングされ、実情にそぐわなくなった治水、ダム建設計画が、何の見直しもなく、いったん決めたことだからという理由だけで進められていく、そうした理不尽に対してようやく反対の声が上がるようになってきた。

こうした動きは、ダム建設の問題だけに止まらない。
先週、新潟県の主催で「うおぬま会議」という健康分野のビジネスカンファレンスが開催された。これは、新潟県が進める健康ビジネス連峰というプログラムの一貫として行われたもので、健康という視点にたって、地域農業や地域資源の活用、地場産業の活性化などを有機的に結び合わせ、連携事業として展開していこうというものだ。新潟県下の企業だけでなく、全国から健康食品メーカーなど健康ビジネスに携わる事業者が参加した。
会議を通じて「うおぬま宣言」が採択されたが、この宣言の中で、注目すべきなのは、薬事法、健康増進法などで規制されている健康分野の商品に関して、現在の行き過ぎた表示規制のありかたについて見直しが求められていることだ。
現在、健康食品など健康分野の商品について、その効果を実証するエビデンスなどが存在していても、商品パッケージや広告上でそのことを表示することができない。

低タンパク米の効能表示を認めなかった厚労省

この問題をめぐってうおぬま会議の中で、新潟県が直面したひとつのエピソードが、泉田知事の口から紹介されていた。
新潟県が開発した「春陽」という米の品種がある。これは、低グルテン米といわれるタンパク質の含有が少ない品種で、腎臓病などでタンパクの摂取制限を受けている人でも食べられる米なのだが、この米を災害時の病者向けの備蓄米として東京都が購入した。
ところが、その事を新聞報道によって知った厚生労働省の薬事担当が「腎臓病者向け」という部分をとらえてイチャモンをつけた。医薬品ではないので、「病者向け」であることを表示することはまかりならぬと、新潟県とこの米を備蓄用に購入した東京都に申し入れをおこなったのだ。
薬事法によれば、効果・効能がうたえるのは、医薬品のみということになっており、この低タンパク米「春陽」に関する表示も薬事法に抵触するというわけだ。当然、新潟県も東京都もこの申し入れに反発したが、「この米を食べて、万が一腎臓病者に問題が起きたら責任がとれるのか」という恫喝にも近い圧力によって、この米を備蓄した段ボールに印刷された「腎臓病者向け」の表示をわざわざ黒く塗りつぶして対応したのだという。

こうした健康食品の効能表示を巡る問題やダム建設の問題の底流に、共通して見られるのは、霞ヶ関の官僚の事なかれ主義と規制というものの本質である。
端的にいえば、規制とよばれるもののかなりの部分が、役人の保身と責任回避のために存在しているといっても過言ではない。

規制の大半は、役人の保身と責任回避の産物

霞ヶ関の役人を批判することはたやすいが、それよりもまず、役人という生物の思考論理がどのように働いているのかを認識することが戦略上重要だろう。すなわち、100年に一度とはいえ、いったん水害が発生したり、健康食品などで安全性に関わる問題が生じた場合に、「なぜ、こうしたことが起きる前にチェックをしなかったのか」と世間の非難の矛先が、所轄の省庁に向けられるのが怖いのだ。それゆえ、そうした、「万が一」に起こるかも知れない問題の責任から逃れるために、役人というものは、どんどん規制を強化する傾向がある。
そして、そうした法律の条文に何の根拠ももたない「通達」や「指導」という名の規制が積み重なり、真綿で首を絞めるように経済活動を圧迫していく。
建築基準法の改正をめぐる無益な規制強化によって、建築業界は官製不況に陥り、そこから未だ抜け出せずにいる。国民の健康を守るといえば聞こえはいいが、言葉狩りにも近いような、効能表示規制によって、健康食品の市場もここ2年続きで縮小続きだ。米国やお隣の韓国では、医薬品とは別に健康食品・サプリメントを対象とした法律が制定されており、一定の条件の下で食品の効能について自由に表示することが認められている。日本でも特定保健用食品(トクホ)と呼ばれる制度が作られたが、認定取得に億単位の費用が必要となり、中小の食品メーカーにとってはハードルが高すぎる。仮にトクホを取得しても、極めて限定された効能表示しか認められず、効果的なマーケティングを展開するには不十分だ。逆に、このトクホの制度ができたことで、トクホを取得していない食品・サプリメントの効能表示は、著しく厳しく、正に言葉狩りのような実態になってしまった。

大手企業のつい最近の事例では、日本コカ・コーラの「からだ巡り茶」をめぐる事例がある。広末涼子を起用したCMを記憶している方も多いと思うが、このCMで使った「広末涼子、浄化計画」というコピーが問題とされた。「浄化」という言葉が、効能を想起させるというわけだ。ばかばかしいことこの上ないが、日本コカ・コーラは、この指摘を受けて、コピーを「気分浄々」に切り替えたが、当局は、この「浄々」という言葉も問題にしてきたという。

もちろん「浄」という一文字が、薬事法上問題があるなどということは、法律のどこにも書いていない。役人のほとんど恣意的な判断によっている。新潟県の低タンパク米の場合もそうだが、些末な言葉使いを問題にすることで、厚労省の役人は一体、誰のためになったと考えているのだろうか。もっとも、日本コカ・コーラは、厚労省の小役人などよりは、よほどしたたかで、こうした厚労省とのコピー表現をめぐるかけひきを全部プレスリリースし、新聞記事などに取り上げさせるなどして、製品の宣伝に役立てた。

健康食品業界では“官製不況”が蔓延

業界からは、こうした言葉狩りに近い現状は官製不況そのものだと怨嗟の声が上がっているにも関わらず、厚生労働省は一切そうした声を顧みようとしない。不況は民間の問題であり、官製不況が蔓延したところで、自分の腹は痛まないからだ。そもそも厚生労働省には市場の育成という観点自体が存在しない。それよりも、万が一、何かの問題が生じた場合に責任を追及されないようにと考えるのが彼らの習性なのだ。
誤解なきように言っておくが、厚生労働省全体が、健康食品などに対して否定的というわけではない。むしろ大半は食品の予防医学的な側面に対して肯定的である。医食同源という言葉もあるように、食が健康と密接な関わりがあることは誰もが認識していることであり、食品やサプリメントを利用して、国民の健康レベルを上げることが結果として医療費の削減につながり、国家や厚生労働省の目標にも合致している。それなのに、なぜ規制に走るかといえば、何のことはない、自分の身だけは火の粉から遠ざけたいという担当の役人の保身と、「木を見て森を見ない」近視眼的な法律運用のせいである。要するに自分が健康食品の分野を担当している間(3年間程度)だけは、大過なくやり過ごしたいのだ。

裸の王様同然の霞ヶ関

国民の健康などと偉そうなことを言っているが、厚生労働省をはじめ霞ヶ関の官僚は、既に裸の王様同然だ。彼らは結局のところ、リスクを取るのではなく、リスクから逃れることしか考えていない。だとすれば、新潟県の泉田知事が言うように、権限を地方に移譲すればよいのであり、当の中央官僚にとってもその方がよっぽど気が楽になるというものだろう。

環境、土木・治水、健康、農業、地場産業育成などの地域の問題は地域に帰すのが、最も正しく賢い選択である。このことは、政策的にいえば、道州制の導入を進めることであり、地方に「大政奉還」することである。

但し、漢字もまともに読めないこの国の首相がやったように、迷走した挙げ句に全てを地方に丸投げすることは、地方分権でも、ここでいうところの地方への「大政奉還」でも何でもない。単なる責任の押しつけであり、現政権が脳死状態にあることをあからさまに露呈しているに過ぎない。

(カトラー)

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コメント

未曽有の読みは みぞう です。ぞ の音が少し伸びて ぞーとなったように思いますが、(実は私も勘違いをしていたのですが)広辞苑によると、 ぞ と短音です。

投稿: Kazue | 2008.11.19 16:08

建築基準法改悪、派遣法改悪、マンナンライフ叩きと自由経済への悪影響は酷かったですね。ただ一部の心無い人間によって規制が厳しくなったのは確かですよね。そういう人たちのみを規制する妙案はないのでしょうか?

投稿: | 2008.11.28 14:53

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