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死んだふり?米国ビッグスリーが電気自動車で復活する日

ビッグ3に緊急融資140~150億ドル 米議会

【ワシントン=西崎香】経営危機の米自動車大手3社(ビッグ3)の救済をめぐり、米議会は5日、2~3カ月間の資金繰りを満たす短期的な「緊急つなぎ融資」を実施する方針を明らかにした。規模は当面の危機対応に必要とされる140億~150億ドル(1兆3千億~1兆4千億円)でブッシュ政権と調整しており、今週採決する見通しだ。米メディアが伝えた。(asahi.comより)

Big3 米国のビッグ3が存亡の瀬戸際に立たされている。3社で総額3兆2千億円(340億ドル)に達する公的資金の注入と債務保証を求めていたが、ブッシュ政権下で140億ドルの緊急つなぎ融資を実施する見通しとなってきた。

信用システムの崩壊に繋がる金融機関であればまだしも、単なる民間企業の自動車メーカーに対して税金を注入してまで救済にのりだすことには大きな反発がある。GMについていえば、株価は暴落し、650億ドルほどあるといわれるキャッシュも毎月数十億ドルというペースで失われていて、このままでは年内にも経営破綻に陥る。

実際に破綻すれば、金融機関の破綻以上の実体経済に対して深刻なインパクトを与えるが、「小さな政府」と「自由主義経済」を標榜する米国資本主義の理念からすれば、競争に敗北した民間企業に税金を投入することになれば、それは米国の資本主義の死を意味するに等しい。先に開催された救済法に関する公聴会でビッグ3の経営トップが、自家用ジェット機でやってきたことが槍玉にあげられ先送りとなり、あらためて開催された公聴会では、経営者の報酬を1ドルにすること、自家用ジェット機も売り払うことなどを誓わされ、「われわれは間違っていた」と経営責任にも言及させられた。
米国のシンボルともいわれた自動車産業の経営トップが尾羽打ち枯らして、ひたすら平身低頭している様を見ると、哀れささえおぼえる。

しかし、日本の自動車メーカーも蚊帳の外ではない。11月の国内新車販売は前年に比べて27%減と過去最悪の下げ幅を記録して業界に激震が走っている。米国市場の落ち込みはもっとひどい。10月の米国市場の自動車販売は、GMで45.4%減とほぼ半減、クライスラーも34.9%マイナスと底なし沼の状態であり、あのトヨタでさえ23%減というボロボロの状況だ。

20世紀型自動車産業の終わりの始まり

世界市場全体で3割減というかつて経験したことのない落ち込みという、現在進行している状況は単なる経済不況ではない。20世紀を支配した巨大な恐竜のような自動車産業が死に絶えつつあるプロセスを目撃していると考えるべきだ。もちろん、この世界から、ビッグ3やトヨタなど自動車メーカーが忽然と消えてしまうということではない。化石燃料を燃やして動力を得る「機械」としての自動車と、それを製造する産業としての20世紀型の自動車ビジネスが終焉を迎えるということだ。そうした歴史認識の下で今回の事態を見ていく必要がある。

Imiev 先月、来年から発売が予定されている電気自動車に試乗する機会を得た。
三菱自動車工業は、2009年度から、世界のメーカーに先駆けて法人ユーザーを中心に2000台の電気自動車「iMiEV」を発売する。2000年に社会問題化した組織ぐるみのリコール隠し事件によって社会的な糾弾を受け、一時は経営破綻の瀬戸際までいった三菱自工としては、スリーダイヤのブランド再構築と社運を賭けた取り組みとなっている。

水素を燃料とする燃料電池車が、これまでのところ次世代環境カーの本命と目されてきたが、果たしてそうだろうか。ガソリンを水素に代替えするという意味で、自動車メーカーが、現在の自動車ビジネスの延長上に考えやすかったというのが、水素カーが本命視された最大の理由だが、水素燃料を補給する水素ステーションの建設など、改めて社会インフラを整備しなくてはならず、実用化にはほど遠いことが明らかになってしまった。
それに対して、電気自動車こそ百年に一度のイノベーションとなる可能性が最も高いと考えている。電気自動車は、わかりやすく言えば、遊園地にある豆自動車やゴルフ場で動いているカートのことだ。プリウスのようにガソリンエンジンと電気モーターを複雑に切り変えて制御する高度な仕組みもいらなければ、水素を供給するスタンドもいらない。
もともと電気自動車には、ガソリン自動車に比べて原理的な利点が数多くある。モーターの回転を直接車軸に伝えるためエネルギーのロスが少なく、パワーが発揮できること。また低回転から高回転まで電圧を変えるだけで調整できるために、トランスミッションなどの余計なメカニズムがいらず、故障を著しく少なくすることが可能なこと。など数え上げたらきりがない。

電気自動車が次世代エコカーの本命に

Mie_bod_img_17 プラモデルカーと同じで、基本的に車輪と電気モーターと電池と家庭用電源コンセントさえあればOKなのだ。そのあまりの単純さに拍子抜けしてしまうくらいだが、クルマとしての性能は既に十分な水準に達している。三菱自工のiMiEVの場合、1回の充電で160㎞を走ることができる。充電も家庭用のコンセントで一晩、駐車場、ショッピングセンターなどに設置が始まっている急速充電器であれば、30分間で80%まで充電できるというから、ショッピングセンターに出かけ、買い物の間に充電ができてしまうという簡便さだ。ショッピングセンター(SC)側も、話題づくりと客寄せにつながるとして、電気自動車のための充電器を競うように設置しはじめている。SC側は、電気は無料で提供するとしており、電気自動車のユーザーにとっては、ショッピングセンターに行けば、電気代がタダということになる。
試乗して驚かされたのは、第一にその静かさだ。エンジンが無いということがこれほどまで画期的なことなのかということを実感させられる。また、車軸に直接モーターが直結しているので、車格は軽自動車なのに、加速パワーがあり、交差点のストップ&ゴーなら高級車にも負けないという。最高時速は130㎞まで出せるが、電池をボディの底に積んでいるので、高速でも高級車のように安定性が高いという。販売価格は、400万円を予定しており、近く準備されるという補助金制度を活用しても300万円台を下回ることはないというから軽自動車としてはめっぽう高い。が、それでも初年度の2000台は、あっという間に売り切れてしまうだろう。

こんなに単純な乗り物が、どうして今まで実用化されなかったかといえば、長持ちする充電式電池がなかったからだ。しかし、電池関連分野の技術は急速に進化しており、三菱自工の場合も、よりコンパクトで高性能なリチウム電池を開発したGSユアザと合弁会社を設立して、電池製造から一貫生産を行う。

競争のリセットを狙い、米国、中国が電気自動車にシフト

自動車業界にとって、電気自動車の実用化は、魅力に映ると同時に、大きな脅威ともなる。というのも、ガソリン車から電気自動車にシフトすると、過去に蓄積された内燃エンジンの製造技術や高度なメカニックの制御技術の大部分は役に立たなくなるからだ。
このことは、日本車に完膚無きまでに敗北した米国のビッグ3や、新興の自動車メーカーを抱える中国やインドにとっては、特別な意味を持つ。すなわち、電気自動車へのシフトは、これまでの競争の土俵をリセットして、新たなゲームを始めることができることを意味する。だからこそ、現在、米国で提出されているビッグスリー3社の再建案では電気自動車の開発がファーストプライオリティとしてあげられている。中国では、比亜迪(BYD)というウォーレン・パフェット氏が今年2億3千万ドルを投資したことで一躍有名になったリチウム電池メーカーが来年中にも一般市場への電気自動車の発売することを表明している。中国政府は、電気自動車を国内自動車産業育成の戦略テーマとして後押ししており、北京では既にリチウム電池で動くタクシーが街中を走り回っている。

本来、米国のビッグ3は、トヨタや日本の自動車メーカーと同様に燃料電池車(水素カー)を次世代の本命とし、現在の自動車産業のビジネスモデルを温存させたかったのだが、今回の経営危機でそのシナリオは崩れてしまった。代わって、技術的なハードルが低く、日本車に対しても競争力を発揮できる可能性のある電気自動車にシフトして、なりふり構わず失地回復に走るというのが、最優先の戦略になってしまった。
ビッグ3が電気自動車の実用化に踏み切ることになれば、世界の自動車業界、市場に決定的な影響をもたらすことになる。電気自動車は、モーターと電池と車輪から成るプラモデルのようなマシンなので、パソコンや家電と同じようにモジュール化とコモディティ化が一気に進行する。その結果、自動車産業では水平分業が進むことになり、垂直統合型のビジネスモデルで強みを保ってきた日本の自動車メーカーの優位性が失われていくことになるだろう。世界最大の自動車市場を抱える米国と世界最大の潜在市場を抱える中国が、電気自動車の普及という一点において利害の一致を見るようになったということを日本の自動車産業従事者は相当の危機感をもって見ておく必要がある。
長年培ったガソリン自動車の技術的蓄積が無用のものになるなんて、そんなばかな事があろうはずがないというかもしれないが、「イノベーション」とは本来、破壊的なものだ。ガソリン大衆車をこの世に送り出したのは米国のフォードだが、当初、彼らは電気自動車も生産していた。その後、ガソリン車だけが普及したのは、地球上に石油(ガソリン)という安価で大量に手に入る燃料資源があったからに過ぎない。

電気自動車が変質させるライフスタイル、クルマ文化

電気自動車の普及は、人々のライフスタイルやこれまでのクルマ文化そのものも根底から変えるインパクトをもっている。
例えば、現在都市部で分譲されている大型のマンションなどでは、軽自動車が何台か用意され、マンション住人が自由に使える「カーシェアリング」というサービスが提供されて、マンション購入者の人気を呼んでいる。電気自動車が市場に登場すれば、当然こうしたカーシェアリングにも導入されるだろう。さまざまな用途、利用シーンに応じた電気自動車が開発され、自家用車を持つという意識、前提そのものが崩れてくるだろう。

また、電気自動車は移動する電池と考えることもできる。太陽光発電で発電した電気をためこむこともできるし、逆に、停電や災害時で送電が途絶えた時には、電気自動車から生活用の電気を取り出すということも可能になる。排気ガスが出ないわけだから、電気自動車を家の中に持ち込んで電池として使ったり(何の意味があるかは知らないが)、家の中に持ち込んだクルマをそのまま書斎やプライベート空間として利用することができるかもしれない。すなわち、クルマが家の一部になるということだ。逆の言い方をすれば、家の中のプライベート空間や書斎にクルマがついて、移動空間になったともいえるだろう。

電気自動車の普及で家電化するクルマ

クルマは、電気自動車となることで電気というネットワークの一部、簡単にいえば、「家電」に進化するのであり、他のネットワーク家電と同列に並ぶことになる。自動車産業は、家電や住宅産業の一部になるといったら、トヨタの人々は怒り出すだろうか。
もし、そうだとしたら、日本の自動車産業には、恐竜のように死に絶える運命にあると断言せざるをえない。しかし、現在の状況を冷静に考えてみれば、危機はチャンスでもあることが見えてくる。自動車、家電、住宅を有機的に結びつけ、つながりのあるビジネスモデルを構築できる企業、技術的なポテンシャルを最も豊富に保有しているのは、他ならぬこの日本でもあるからだ。

ところでこうした、チャンスを活かすのに最も重要なのは、イノベーションを後押しする政治のイニシアティブである。これまで見てきたように、自動車産業は、今、百年に一度のイノベーションに向けた黎明期に入った。これは、自動車産業だけでは完結しない大きなうねりになるはずだ。米国オバマ次期政権と米国の自動車産業は、今回の破綻騒ぎで、したたかにそのための基礎体力を注入していると見ることもできるだろう。年明けからビッグ3の再建と電気自動車を核とした新たな産業戦略を発動し始め、近い将来、電気自動車の世界的なブームが巻き起こることを断言しておく。

翻って、日本を見ると、政治はほとんど脳死状態にある。麻生政権発足時から、これはゾンビ政権であると言ってきたが、内閣支持率もあっという間に急落して、正に「死に体」状態であるにも関わらず、解散総選挙もしない、辞任もしないで居座るだけという本当の「ゾンビ状態」になってしまった。それだけではない、福田前首相が決めた道路特定財源の一般財源化をめぐって、麻生首相は、当初、1兆円を地方が自由に使える地方交付税化すると明言したにも関わらず、党内の道路族の反発を買い、慌てて特別交付金にすると前言を翻してしまった。これによって、道路族の思惑通りに、特別交付金は道路建設に回され、無駄な道路が延々と作られていく公算が強くなった。
このままでは、この国の世界に冠たる自動車産業は戦略的見取り図もなく、かつての戦艦大和のように時代遅れとなり、この国もろとも沈没し、国破れて道路だけが在る(国破道路在)というざまになりかねない。

(カトラー)

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