« 漂流する検察と私刑(リンチ)化する「国策捜査」 | トップページ | GMの連邦破産適用と自動車産業の終わりのはじまり »

森田健作の知事選勝利の影で、忍び寄るファシズムの足音

Morita_kennsaku3_2 この顔をクローズアップでまたテレビ画面で見せられることになるとは思ってもいなかった。千葉県知事となった森田健作の顔である。
千葉県の知事選などは関心がなかったこともあり、森田健作が立候補していることすら知らなかったし、森田のような一昔前のタレント候補が一体どうすれば当選できたのかと訝しく感じた。しかも、投票結果を見ると、民主党などの推薦を受けた吉田候補に圧倒的な差をつけての堂々たる圧勝である。

森田健作の勝利が物語っているのは、日本の政治が、消去法だけに動かされるダッチロール状態に入ってしまったことだ。つまり、こいつも駄目、あいつも駄目とバッテンをしていった挙げ句に、残ったものだけが浮かび上がるという政治状況が生まれている。
麻生太郎が宰相として全く不適格なことは、与野党も国民も認識しているが、自民党内に代わる候補がいないためにゾンビのように政権に居座っている。麻生が自民党内の消去法の帰結として政権に留まっているのだとすれば、民主党への一時の支持の高まりも、麻生政権や自民党に対する失望の裏返しに過ぎない。だから、小沢一郎党首の公設第一秘書が逮捕されるというスキャンダルが発覚して、そうした消去法の延長上にあった民主党人気も一気に熱が冷めた。千葉県知事選挙では、自民党だけでなく民主党も駄目というムードが醸成され、その消去法の結果、無党派イメージを振りまいた森田健作に勝利が転がり込んだのだ。

否定の連鎖、消去法に動かされる政治状況

Morita_kennsaku 森田健作は、40代以上の有権者には、青春ドラマに出演していた頃のイメージが残っているかも知れないが、それはもう大昔のことで、人気も知名度もお世辞にも高いとはいえない。要するに、森田健作の人気が当選を呼び込んだのではなく、自民党も民主党も駄目だが森田健作を知事にしたら広告塔ぐらいにはなってくれるかもしれないという、消去法の気分が働いて得票に結びついた。

森田健作や千葉県知事選に対しては、もともと何の関心も無いのでこれ以上何もいうことはないが、問題にしたいのは、現在の政治の世界に蔓延している消去法的な気分、政治的ニヒリズムのことである。

人々が既存の政治権力に対する期待を放棄してニヒリズムに陥ることをP・Fドラッカーは、その処女著作「経済人の終わり」で「大衆の絶望」と表現し、この「大衆の絶望」こそがファシズムを招来させる下地になったと指摘している。
「経済人の終わり」は、ドラッカーが30歳だった1939年に出版された処女作だが、当時のヨーロッパは世界恐慌の荒波に覆われ、イタリア、ドイツではファシズムの嵐が吹き荒れていた。若き学徒であったドラッカーは、ナチズムの本質をこの本で徹底的に批判した。驚かされるのは、この本が出版されて既に70年余が経過しているにも関わらず、ドラッカーが述べている当時の状況は驚くほど2009年の日本の状況に酷似していることだ。

ファシズムが吹き荒れた1930年代に酷似する状況

「経済人の終わり」というこの本のタイトルだが、当時のブルジョア資本主義、そしてそのアンチテーゼとして登場してきたマルクス主義のいずれにおいてもアプリオリに前提とされていた「経済人(ホモ・エコノミカス)」という概念、すなわち経済合理性に基づいて利己的に行動する近代の人間のことを意味している。ドラッカーは、この経済人というヴィジョンが破綻したことがファシズムを招来したと主張する。

「概念としての経済人は、文献上アダム・スミスとその流れをくむひとびとのホモ・エコノミカス としてあらわれたのが最初である。彼らの経済人は、きわめて狡猾で無遠慮な、また、いつも自分の最大利益をめあてに行動するばかりか、その目的を遂げる方法も知ってるという擬制的存在である」(ドラッカー全集Ⅰ「経済人の終わり」)

アダム・スミスがいった「神の見えざる手」が働き、経済人が、利己的に行動しさえすれば、全体としては自然と均衡点が見つかりバランスする。すなわち、経済人とは、この世界の「合理性」を根底から支える理念でもあった。ところが、大恐慌によってそうした前提が全て崩壊してしまった。

「経済人という考え方がくずれたために、人はその社会秩序を失い、その世界は合理的なあり方を奪われた。・・・・個人が社会において持つ役割は、まったく非合理なもの、無意義なものになってしまった。人は巨大な機械のなかに孤立している。・・・社会は共通の目的で結ばれた個人の集団ではなくなり、目的のない孤立した原子の混沌たるわいわい騒ぎになってしまった」(ドラッカー全集Ⅰ「経済人の終わり」)

こう書かれている当時の状況は、そのまま今日の世界の状況を表しているといってもよいくらいだ。そして、「目的のない孤立した原子の混沌たるわいわい騒ぎ」が生み出す権力の真空地帯に嫌日植物のように増殖してくるのがファシズムなのだ。

ファシズムに特有の3症状(ドラッカー)

ドラッカーは、ファシズムに特有の症状を以下の3点に集約してみせる。

①ファシスト全体主義は積極的な理念を欠いており、ただあらゆる伝統的な理想や理念を論難し、排撃し、否定することに終始する
②ファシズムはこれまでの理想をことごとく論難するにとどまらず、政治的・社会的制度が拠って立つ基盤としていたものを否定する
③大衆がファシズムにすがりつくのは、積極的信条にとって替わるべきものとしてのファシズムの約束を信ずるからではなくて、反対に、この約束を信じないからである。

ファシズムとは、今日一般に思われているように、狂気に満ちた独裁者が、圧政と暴力によって無理矢理人々を支配することで成立するのではなく、人々の方が独裁者を喝采を持って迎え入れるのである。全ての権力、権威を否定した挙げ句に、その宙ぶらりんの状況に耐えられず、逆に支配されることを渇望して、独裁者に自分たちの自由を差し出してしまう。そうした人間心理の闇の部分からファシズムは増殖してくることを若きドラッカーは天才的な直感で見事につかんでいる。

「ファシズムには、積極的信条がないかわりに、その埋め合わせとして、とにかくおびただしい否定がある。自由主義に反対すると同時に保守主義に反対する。宗教に反対すると同時に無神論に反対する。・・・・私はナチ扇動者が農民の集会で次のようにいって熱狂的な喝采を受けるのを見たことがある『われわれは安いパンの値段を望まない。高いパンの値段も望まない。変わらないパンの値段も望まない。われわれが望むのは国民社会主義的なパンの値段である』」(ドラッカー全集Ⅰ「経済人の終わり」)

ドラッカーのいうファシズム、3つの症状のうち、この3点目が示唆的である。人々がファシズムに取り込まれるのは、ファシストの言っていることを信じるからではなく、むしろ信じていないからである。全ての約束が信じられなくなっている人々にとっては、ファシストの言っている荒唐無稽な世迷い言が、あたかも奇跡のように聞こえてくる、つまりは不合理だからこそ信じられるという背理が生じるのだ。

荒唐無稽な不合理なことだから信じられる?

2009年の日本を覆っているのは、まさにファシズム招来につながるニヒリズムであり、ドラッカーが指摘した「大衆の絶望」である。
自民党も民主党も駄目、天下りする官僚も駄目なら、国策捜査を繰り返す検察も駄目というように、おびただしい否定が並び、政治と社会に対する絶望感が、ドラッカーの時代と同じようにこの国には蔓延している。権力は断片化され、誰がリーダーなのかも見えなくなってしまっている。
つい、最近まで「政権交代」という言葉が、閉塞状況から脱出する出口のように感じられていたが、その政権交代への期待も後退しているように見える。このままゾンビ宰相が政権に居座り、政権交代もままならない状況に陥ったら、人々はさらに絶望の彼岸にまで足を踏み入れ、「奇跡」を期待するようになるだろう。それは、人々の心が乾いた槇のようになってしまったことを意味する。ファシズムの炎にその身を焼かれるのは、もう時間の問題だ。ファシズムの足音に警戒せよ。

(カトラー)

|

« 漂流する検察と私刑(リンチ)化する「国策捜査」 | トップページ | GMの連邦破産適用と自動車産業の終わりのはじまり »

コメント

森田健作を公職選挙法違反で追及する動きは加速する一方で、わたしがひとりでやっている、麻生太郎への行政訴訟と田中和徳の裏面追及は、仲間が見つからない状態でいます。

この文章を見て、神奈川県川崎市川崎区・幸区・中原区にお住まいの方で、趣旨に賛同される方がいたら、連絡をお願いいたします。連絡先はmiki_takaaki@yahoo.co.jpです。

当方が行っている活動は、以下の通り。

(1)国と麻生太郎を相手にした行政訴訟。弁護士は着いていない、一人の行動である。趣旨は、憲法第15条2と内閣法第6条違反。背景はこちら。http://harepanda.blog.so-net.ne.jp/2009-04-11

(2)神奈川10区(川崎市川崎区・幸区・中原区)の自民党現職衆議院議員・田中和徳が地元誘致した、独立行政法人労働者健康福祉機構の裏面調査。背景はこちらhttp://briefcase.yahoo.co.jp/miki_takaakiのBlogフォルダ。半分近くが国政情報です。

投稿: harepanda | 2009.04.13 08:53

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 森田健作の知事選勝利の影で、忍び寄るファシズムの足音:

» 藤原紀香 ブログ 宗教 2ちゃんねる 離婚 画像 陣内智則 離婚 陣内智則 実家 事務所 陣内 結婚式 ミュージカル 舞台 風水 バイオシーパルス ヌード 入浴 不倫 別居 妊娠 出産 なるとも 格闘技 [藤原紀香 ブログ 宗教 2ちゃんねる 離婚 画像 陣内智則 離婚 陣内智則 実家 事務所 陣内 結婚式 ミュージカル 舞台 風水 バイオシーパルス ヌード 入浴 不倫 別居 妊娠 出産 なるとも 格闘技]
藤原紀香 ブログ 宗教 2ちゃんねる 離婚 画像 陣内智則 離婚 陣内智則 実家 事務所 陣内 結婚式 ミュージカル 舞台 風水 バイオシーパルス ヌード 入浴 不倫 別居 妊娠 出産 なるとも 格闘技 [続きを読む]

受信: 2009.04.08 13:01

» 松たか子 入浴 画像 離婚 結婚 木村拓哉 宮沢りえ 映画 歌詞 姉 夫 熱愛 破局 妊娠 不倫 SEX ヌード キス 週刊誌 動画 [週刊ゲイスポン]
【動画】青島あきな 【動画】赤江珠緒 【動画】浅田真央 【動画】相田翔子 【動画】蒼井そら 【動画】井上和香 【動画】糸矢めい ... [続きを読む]

受信: 2009.04.09 22:57

» 日本的経営の三種の神器を支えたものは新聞の宅配制度だったのではないか? [課長ほど素敵なショーバイはない!?]
年度末ラッシュの追い込みに喘いでいた先週の書きかけネタです。 読売新聞「編集手帳」で取り上げられた事故の話しを紹介する朝日新聞夕刊のコラム「新聞ななめ読み」(無料会員登録が必要)を読んで、我が国の新聞の存在意義は宅配制度にあるのではないかという思いを強く..... [続きを読む]

受信: 2009.04.12 13:29

» 千葉県知事 [ろーりんぐそばっとの「ため口」]
千葉県の森田知事への告発。 盛り上がっているBlogもありますね。 ただちょっと思うのは 完全無所属と言っていておいて、自民党所属だったじゃないか という点で... [続きを読む]

受信: 2009.04.21 13:09

« 漂流する検察と私刑(リンチ)化する「国策捜査」 | トップページ | GMの連邦破産適用と自動車産業の終わりのはじまり »